004
「成仏って……どうすればいいのかな」
昔読んだ漫画だったら、たしか死神が迎えに来てくれたりしてた気がするのだが。
あれ以来、誰も来ないまま、約一時間が経った。何をどうすることもなく、ただただ時間だけが過ぎていた。
今朝、玄関に着いたのが、午前八時五分。次に、時計を見たのが、二回目の気絶の後。時刻は九時三十三分だった。そして、今は十時四十二分を時計が示している。約二時間半前の僕は、こんな事になってるなんて想像もしてなかっただろう。
「どうして、こんなことに……」
そればかりが、ぽろぽろと零れる。僕が何をしたのだろうか。いや、寧ろ、何もしてこなかった。何もしてこなかったから、なのかもしれない。
別に何もしたくなかったから、してこなかったわけじゃないんだけど。
出来なかったから、諦めただけで。
「まぁ、そんな変な現象に巻き込まれたぐらい、不幸だったってだけだな……」
昔からだ。僕はついていない。
だから、今回のことも、仕方ない、のかもしれない。
「……にしても、何処いったのかな。僕は」
僕──焼死体は、跡形もなく消えていた。と、いうよりも、本当に人体自然発火現象が起きたとは思えないほど、先の三人も言っていたが、ここには何も無いのだ。焼死体もだが、焼け焦げた跡も、燃えかすも、何もかもが、無いのだ。
分かるのは、気絶している間に、何かがあったということぐらい。
でも……駄目だ。頭が回らない。
いや、死んでしまったはずなのに、頭も脳みそも何もないだろう。そう、僕は、何はともあれ、死んだ。このまま、消えるのが道理というものだろう。今更、何を考えたって、仕方がない。後の祭りってやつだ。
──でもこんなことなら。
「ちゃんと、言えばよかったな」
ある人には謝罪を、ある人には愛の告白を。
言ってから、死にたかった。
そんな事を、考えてしまう。
ため息を吐き、部屋の隅。膝を抱えるようにして、俯く。不思議と、涙は出なかった。いや、もう、泣けないのかもしれない。涙腺はとうに焼き切られ、魂だけの存在となった僕には。
「──お邪魔しまぁす」
また、ドアを開く音がした。勿論、僕が開けた訳では無い。ちらと目をやる。また、黒い衣服を着た人間が入ってきた。
しかし、先程の三人とはまた、別の人間だった。黒のパーカーに身を包み、フードを深くかぶっている。そのため、相手の顔はよく見えないが、先の声から男であると分かった。少し、高めのその声は、僕と同世代ぐらいなのかもしれないと思わせた。
その男が始めたことは、先程の三人と同じように、別に、対して広くない僕の部屋を見分しているだけだった。でも彼らよりも、何かを吟味するように逐一その場その場をよく見ているように感じた。
にしても、僕の部屋は観光スポットにでもなったのか?
まぁ、さっきの人達に比べて、挨拶してくれただけ、少し助かったかもしれない。
どうせ僕のことなんて、見えてなんかいないんだろうし、見えたところで無視されるのがオチだろうけれど。
「ふぅむ。やっぱし、なんもねぇか……だいぶ時間もたっちまったしな」
やれやれ、と肩をすくめている。
……やっぱり、そう、だよな。
もう一度、俯いた。
もしかして、ずっとこのままなんじゃないだろうか。成仏とか、本当はない、とかも有り得るのかもしれない。
それは、さすがに──
「それでお前。どうした?」
──え?
顔をあげると、その男が、自分のすぐ前にしゃがみ込んでいて、その透き通るような赤い目でしっかりと、僕のことを、真っ直ぐ、見つめていた。
「よかったら、この怪奇探偵が、相談に乗るぜ」
男はニヤリ、と笑った。
今日の更新は以上となります。
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