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TRUE.〜焼かれた僕と、喰われた少女と、怪奇探偵〜  作者: 夕招かるま
一、始まりは炎
17/32

017

 僕達は、体育館へ向かう道すがら、多くの焼け焦げた壁、割れた窓、爪のようなもので深々と刻まれた壁や床の傷を見てきた。

 それは、多くの、戦いの跡であり、また、異形が、暴れた後であった。


「──はっはー、やってるやってる」

 体育館から、未だ離れてるのに、天はニヤニヤしながら、走り続ける。

「耳、いいんだね」

「ま、腐っても狐、半分でも狐ってもんさ……にしても、そろそろ空の腹がやばいな。昼飯もろくに食えてないだろうし……半分も力が出せてないだろうなぁ……」

 なんだそれ。どんな女の子だよ。

 バトル漫画の主人公か。

「最悪、蓮でも食べさすか」

「お前依頼人のことなんだと思ってんだ!?」

『第一、食べさせるところがないだろ!』と、自虐ネタを言いかけたのが、それは飲み込んだ。

「んー?……金蔓(かねづる)とか」

「酷くないか!?もう少しいい方あるだ──ッ!?」

 やっと、ちらと見えるようになった体育館の方からだろうか。校内に、劈くような衝撃音が響いた。

「──ん、少しばかし、危なそうだな。少し動きあるまで待つかねぇ」

 天は、何かを感じ取ったのか、足を止め、腰に付いている縦長のホルダーを開き、その中から、何やら模様の描かれた紙を一枚取り出した。

「展開、守護防壁──急急(きゅうきゅう)如律(にょりつ)(りょう)、っと」

 そう聞き慣れない言葉の列を述べて、札をぐしゃり、と握りつぶす。

 すると、僕達の眼前に、模様が描かれた壁が、その場所に、埃のひとつも立てないで現れた。

「……星……?」

 星。一筆書きで描かれたような、確か、五芒星と呼ばれる模様が、壁と、先の札に描かれていた。

「そうそう、星──五芒星。陰陽道の基本。色々呼び名があるけれど、俺は晴明桔梗(せいめいききょう)が好きかな。ほら、桔梗だし──」

 ──再び、けたたましい、衝撃音。

 しかしその音の発生源は、体育館ではなく、目の前であった。

 鉄の塊が、飛んできて、その壁へとぶち当たった。

 その鉄の塊は正確に言うと、体育館の鉄扉がひしゃげ、原型を失ったものだった。

「げほ、ぐ──何、あの子ッ」

 鉄の塊から、声がした。

 その声は、昨日屋上で聞いた声だった。

 城崎美那。

 鬼であり、遥真がお嬢と呼ぶ──村長(むらおさ)の一人娘。

 城崎は、変形した鉄の扉に包まれるようになっており、身動きが取れないようだった。

 そして、その鬼を、吹き飛ばした正体は、その向こう──体育館にいた。

「う、うぅ……」

 呻き声を上げながら、長い白髪を揺らし、項垂れながら、少女が出てきた。

「鬼子ちゃん。あれはな──俺の妹だ」

「おーなーかーすーいーたーーーーー!!」

 泣き声とも、怒声とも取れるような大声を上げ、その場にへたり込んだ。

「天……!あれ、大丈夫なのか!?」

「大丈夫、いつもの事だから。……空、ここにアプリコットパイがだな」

 何故、アプリコットパイなのだろう。

 と言うより、そんな声量であそこまで届くわけ──

「あるのっ!?」

 ……少女は、瞬く間に僕達の目の前にまで来て、目を輝かせていた。

「いや、聞こえんのかよ!?」

 どんな耳してんだよこの子。それに、さっきぶっ倒れたのはどうした!?

「残念ながら、ない」

「あっ」

 短い声にならない声を漏らし、再び、少女は倒れそうになった。

「──なので、帰ったら作ろうと思う」

「やったぁ!」

 床に手をついたその反動だけで体勢を立て直した……だと……?

「……何、この子」

「だから言ってるだろ?妹だよ。(くう)って言うんだ」

「いや、まぁ、それは何度か聞いたから知ってる、けど……」

 何というか、すごい子だなぁ……。


 どうせ、僕の事など、見られもしないだろうから、と思い、僕は空を良く見ることにした。

 と、いうか、男ばかりと会っていたせいで、女の子がとても尊いものに感じた。

 ちなみに僕はロリコンではない。

 その子は、腰まで伸ばした白髪に、左目を覆う黒の眼帯が目立ち、ブレザータイプの学制服に身を包んでいた(どこかで見たことがあるような気がするけれど、学校名までは分からなかった)。身長や、その言動からして、中学生、だと思う。

「……?」

 ──まぁ、人間で、あればだけれど。

 まぁ、天は妹、と言ってはいたが、顔はあまり、似ていると思えなかった。

 仮に、そうだとしても、半妖の兄を持つ少女。きっとこの子も、何か怪奇を見に宿しているのかもしれない。

「ねぇ?」

 それにしても──可愛い顔してるなぁ。

 眼帯のせいで、少し痛いオーラが出てしまっているのが残念だけれど。こう、邪眼とか言いながら左目が疼きそうだけれど

「ねーぇ?」

 まぁ、それを抜きにしても、とても、可愛いと思う。どうせなら、天じゃなくてこの子に助けられたかった。ちなみに僕はロリコンでは──

「てやっ」

「げふぉ──ッ!?」

 ふいに、女子中学生に、腹を、殴られた。

 ──殴られた?

「……そんな哀れむような顔で人の事見ないでほしいんだけど。それに、ジロジロ見ないで、えっち」

「………………」


 僕は、凄く、死にたくなった。

 まぁ、既に、死んでいたのだが。

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