女子寮に潜入開始!
「さて、メカよ。作戦を立てるにも情報が必要だ。あの玄関の魔道具? について何か知らないか?」
俺は化粧下地をモヤシくんに塗り塗りしながらメカに聞く。メカは魔道具を開発するくらいだから、多少は何か知ってるだろう。
「任せるであります! まず、あの魔道具は登録された生徒の魔力を感知すると開く仕組みであります。また、管理者の魔力を感知するといくつかのモードが使えるであります。
1つ目が生徒登録と削除。
2つ目が緊急連絡。要は外に助けを求めるのであります。
3つ目が外敵排除。魔道具が侵入者に攻撃を仕掛けるであります」
な、なんだか思ってたよりも詳しいな。情報量が多過ぎる。嬉しい誤算だぜ。
「ふむ。外敵排除は管理者が指示した場合だけか?」
自動発動ならもうどうしようもないんだが。あんなハイテク機械が行う攻撃なんて、抗える気もしない。
「そうであります。だから管理者にバレなければ侵入してもあの魔道具は反応しないであります」
「その管理者って寮長のことか?」
「そうであります。後は学園長も管理者であります」
学園長ならノリノリで力貸してくれそうではあるけど……こんなことに付き合わせるのもな。
――お次はファンデーションをぺたぺた。
「寮に学生以外を招く時はどうしてるんだ?」
校外の友達を呼ぶのは禁止されてるけど、業者とかが入ることはあるだろう。多分。
「生徒か管理者が開けて、その間に入るであります」
「ん? ってことは開けるのに生徒か管理者が必要なだけで、入る時は部外者でも問題ないのか?」
「そうでありますが……女生徒の協力を得るのは難しいでありますよ?」
「タイミング見計らって便乗すればいいだろ」
見た目は女生徒なんだし、大丈夫だろ。制服があれば完璧なんだが……イタズラボックスも制服は出せないみたいだ。出せるものには制限があるらしいからな。
――フェイスパウダーぽふぽふ。
「じゃ、そうやって入った後は部屋まで行けばいいだけか。なんだ、簡単だな」
――仕上げに薄い口紅をぬりんっ!
「ふぅ、モヤシくんの化粧も終わったぜ! モヤシくん、元から肌綺麗だから軽い化粧でも十分だったな」
「喜んでいいんだかわかんないよ……」
お次は俺の化粧だな。イタズラボックスから化粧用の鏡を取り出してっと。時間がもったいないし、さくっと終わらせよう。
「されてるときも思ってたけど、なんかコタロウ手馴れてるよね」
「そりゃ、良くやってたからな」
「「!?」」
あ、言い方まずかったか。2人が思いっきり引いちまった。
「違うって。今回みたいにイタズラする為だよ。女装というより変装の一種でな」
別人になれればイタズラの幅がぐぐっと広がるからな。母さんに教えてもらいながら必死に練習したさ。
「よし、完成! あとは着替えるだけだ! モヤシくんもほら着替えて着替えて!」
「うぅ、……ホントにこれを着ないといけないのか……」
モヤシくんはフリルたっぷりの白いワンピースをつまみながら、パセリでも頬張ったかのような顔をする。
数秒躊躇ったあと、覚悟を決めたのかゆっくりと服を脱ぎ始めた。
現れた肌は病的なまでに白く、言ってしまえばなよなよしていた。こんなひょろっちいのに、あんな馬鹿力が出るのか……スキル怖いな。
おっと、ぼやぼやしている場合じゃない。俺はイタズラボックスからもうワンセット衣服を取り出すと、着替えを始めた。勿論ウィッグも装着したぞ。
「おぉ、2人ともよく似合っているでありますよ!」
「ありがとな! メカ!」
そうだろうそうだろう。似合うだろ! 割れながら完璧な出来だぜ。モヤシくんはアイドル級の仕上がりだし、俺だってクラスで2番、3番の可愛い子くらいには仕上がった。
母さん仕込みのメイク術は伊達じゃないぜ!
「何も嬉しくないよっ!」
「その姿でその声だと、気持ち悪いであります……!」
「悪い悪い……ごほん」
俺は咳払いをして、喉の形を変える。えーと、女声は確かこんな感じだったはず……。
「これでいいかしら?」
「おぉ! 女の人の声みたいでありますよ! 凄いであります!」
「コタロウ……なんでそんな無駄な技能持ってるの……」
無駄とは失礼な。これも俺の数ある特技の1つだ。
「では、基本的には私が喋りますから、モヤシくん……萌やし……いえ、モヤシくん。うん、そうね萌子さんで行きましょうか。モヤシくんは人見知りの大人しい子って設定で喋らないようにしてくださいね」
モヤシくんの声だと一発で男子ってことがバレるからな。黙っててもらわないと。
「おぉ、コタロウがお嬢様っぽいであります!」
「萌子……萌子かぁ。萌子って呼ばれるのかぁ……はぁ……」
落ち込んで溜息をつくモヤシくんだが、女装のおかげで物憂げな金髪美少女にしか見えない。メカがごくりと唾を飲んでいた。やばいな、このままだとメカが新しい扉を開いてしまう。
「早速侵入開始ですわ! 萌子さん! 行きますわよ!」
「コタロウ、キャラがぶれぶれだよ……」
勿論わざとだ。本番では大人しいお嬢様バージョンで行くつもりだから安心してくれ。ですわ口調は言っててキツいからな。
「あ、ちょっと待つであります。行くならこれを付けて行って欲しいであります」
メカは補聴器のようなものを俺たち2人に1つずつ渡してきた。それほど大きくも無いから、耳につけても髪で隠せそうだ。
「これは魔道具であります。半径1キロ以内なら連絡が可能で、更に小型カメラを内蔵しているのでこちらからも2人の状況を確認できるという、非常に優れた魔道具なのであります!……まぁ、作ったのは師匠なのでありますが」
「おぉ! ナイスだメカ! これでメカのサポートが受けられるな」
にしてもこんな便利な魔道具作れるって、メカの師匠何者だ? いや、こっちの世界ではこれが普通なのか? まぁ、今は置いておこう。
モヤシくんは早くも渡された通信機を耳につけていた。慌てて俺も装着すると、黒いポーチを取り、立ち上がった。
「では、今度こそ行きましょう。萌子さん。くれぐれもバレないようにお願いしますわよ。道中、仕草の指導もしますからそのつもりで」
まぁ、大半の相手とは廊下ですれ違う程度だろうから、歩き方さえ教えれば大丈夫だろ。
俺はそう楽観し、モヤシくんの手を引きながら玄関の扉を開けた。
「あ、待つであります。そのまま出ると大変なこ――――」
バタン。扉が閉まる。
ん? 今メカが何か言ってたか? まぁ大したことじゃないだろ。
「なんで手を繋いでるんだよ。気持ち悪い」
「話しかけられたら面倒だから、話しかけにくい空気を作った方がいいんだよ。仲良さそうにしてたら間に入りにくいだろ?」
「そうだけどさ……」
ぶつぶつ言うモヤシくんを無視して前を向くと、男子達が遠くでひそひそ話しながらこっちを見ているのに気づいた。
「ん? どうしたんだろ」
モヤシくんも気づいたのか、不思議そうに首を傾げる。
あー、そうか。しくじったな。俺たちは今女装してるんだから、アイツらからしたら男子寮に女子が現れたわけか。……まぁ、何とかなるだろ。女子がいるってわざわざチクリに行くやつも居ないだろうし。
話しかけるにもモヤシくんが可愛い過ぎて腰が引けてるみたいだしな。
そんな男子達の視線を乗り越え、ついに女子寮の前にやってきた。
しばらく不自然にならないように女子寮前をうろつく。すると、耳につけた魔道具から声が聞こえた。
『右側から来るのは、ここに住む生徒であります』
右を見ると、3人の女子生徒が楽しげに話しながらやって来ていた。
よし、あいつらの後についてって中に入るぞ。
「萌子さん。堂々と、ですよ? その方が怪しまれませんから」
無言でこくりと頷くモヤシくん。かなり緊張してるみたいだな。仕方ない。ここは俺が一肌脱ぎますか。
俺はモヤシくんの耳に口を近づけて囁いた。
「女装してる今なら、女子のお風呂も覗き放題ですよ?」
「!!!!」
モヤシくんは顔を真っ赤にして、口をパクパクさせた。多分、喋っちゃいけないというのを律儀に守っているのだろう。
「冗談ですよ。これで緊張もほぐれたでしょう?」
モヤシくんは数秒固まったあと、肩を落として笑った。よし、これでバッチリだな。
俺たちは堂々と3人の女子の後をつけていった。メカとモヤシくんから事前に聞いていた通り、この時間には寮長が居ないようだ。
難なく女子寮への侵入に成功した。順調だな。後は愛莉のいる部屋を聞いて、そこまで行くだけだ。
最大の難関をクリアした今、恐れるものは何も無い!
「そこの2人。見ない顔だけど、誰かしら」
前言撤回。女子寮に入っても難関だらけみたいです。
俺は険しい顔で睨みつけてくる、長く美しい銀髪の美人さんを見て体を硬直させた。