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SFチックな異世界?

 フロワは、厳しい現実を知って愕然とする俺を尻目に説明を続ける。


「これは異世界からの訪問者を守るための措置だ。学園に通いながらこの世界、セアリアルのことを学んで生活の基盤を作ってもらうのが狙いだ。当然、費用は国が持つから心配はいらない」

「さっき言ってた、勇者との契約、だからですか?」

「そうだ。今から二百年前、世界の危機に召喚された勇者は、今後自分と同じように召喚されてくる者の保護を条件に世界を救ったんだ」


 おぉ、世界を救った報酬が同胞の保護とは心まで勇者だったんだな。こりゃ勇者様には足を向けて寝られねぇな。


「その保護の条件とは、未成年に教育を受けさせること。大人だった場合は自立するための援助を行うことだ」


 異世界に急に放り出されたら困るもんな。でも、それだけ国の力を借りたら、国に良いように使われそうなもんだが……。


「後は、国が異世界からの訪問者を利用することの禁止だ。本人が望んだ場合を除いて、国が異世界からの訪問者を国に仕えさせることはできない」


 え、それって……。


「虎太郎の今までの演技が全部無駄ってことね……」

「ふざけんなぁぁぁぁ! そういうのは最初に言ってくれよぉぉ!」


 え、なに? 手のつけられない悪ガキの演技も、愛莉の力を隠すために痛いの必死に我慢したのとか、全部無駄なの? 俺、すっごい道化じゃね?


「何を嘆いてるのかは知らないが、説明を続けるぞ。というわけで、お前達には学園に通ってもらうんだが、俺は特別扱いは一切しない。お前らには普通の生徒と同じ授業を受けてもらうし、寮にも入ってもらう」

「寮がある学校なんですね」


 フロワと愛莉は、涙を流しながら床に膝をついている俺を無視して話を続ける。


「あぁ、手続きは全て済ませておいたから、今日から寮に入ってもらうし、学校にも明日から通ってもらう」

「きゅ、急ですね……」

「グダグダしてても仕方ないからな。あぁ、あと、その髪型は校則違反だから明日はまともな髪型で来いよ」

「にゃっ!?」


 すっかり天つらヘアーのことを忘れていたのだろう。愛莉は頭を抑えながらしゃがみ込んでしまった。

 涙を流して膝をついている男子高校生と、その隣で恥ずかしそうに頭を抑え、しゃがみこんだ猫耳女子高生の奇妙な図の出来上がりだ。


 フロワはそんな俺たちを興味無さそうに見下ろすと、話を続けた。


「今から寮に案内するから、ついてこい。それじゃあ、失礼します。学園長」


 そういうと踵を返して入って来た扉から出ていった。俺は置いていかれては堪らないと、泣き真似をやめて小走りで追いかけた。後からは愛莉も来ている。


「その学園長って?」


 追いついた俺は、フロワに尋ねた、


「それも説明してなかったのか。全く……。あの人はこの国最高の魔法使いであり、お前達が通うことになる学園、ソルセリア学園の学園長だ」


 マギーア爺さんが学園長だったのか! なら面白そうな学園だな。なにせ、色々やらかしてもあの爺さんなら笑って許してくれそうだし。


「虎太郎、この髪ほどきなさいよ」


 新しい学園生活に思いを馳せていると、愛莉が不機嫌そうにそう言ってきた。


「へいへい」


 俺は歩きながら愛莉の天つらヘアーをほどいていく。ほどく最中どさくさに紛れて猫耳を愛でていたが、愛莉にバレて肘鉄を喰らった。めげずに再び猫耳を撫でようとするも、猫耳は見当たらなかった。


「くっ! 時間切れか……! 愛莉! 後で猫化スキルのレベリングするからな! 10分だなんて短すぎる! 俺はもっと猫耳を触りたいんだ!」

「何でアンタに触らせるためにレベリングしなきゃなんないのよ」


 愛莉は冷たく言い放つと、歩く速度を少しあげた。360度、円を描くように広がった髪が風を受けて微かに動く。

 ふぅ、持ってたポマードをかなり消費しちまったが、完成したな。全ての髪の毛がピンと針のように真っ直ぐに、かつ全方位に伸びている。名付けてクジャクヘアー! ポマードを使っているから、口裂け女が出てきても安心だ!

 ふっ、また1つ傑作を世に生み出してしまった。


 フロワの背中についていき城の中を歩く俺たちだったが、愛莉は振り返り、俺にジト目を向けた。


「ねぇ、虎太郎。アンタ、私の髪を元に戻したのよね? すれ違う人皆、私の頭を見てギョッとするし、なんか髪の毛にすっっっごく違和感があるんだけど?」

「そりゃ、そのクジャクヘアーは人目を惹くし、空気抵抗も凄そうだもんな」

「クジャクヘアーって何よ!」


 愛莉はポケットから手鏡を取り出し、自分の髪型を見て悲鳴をあげた。


「何よこれ!」


 愛莉は物凄い形相で俺を睨んでくる。とりあえず、猛犬を抑えるように頭を撫でようとしてみる。すると思いっきり手を噛まれた。


「痛い痛い痛い! なんで噛みついてくるんだよ!」

「アンタがレベリングしろって言ったんじゃない。動物っぽいことすればジョブレベルが上がるんだから、これは立派なレベリングよ?」

「わかったわかった! 俺が悪かった! 髪も直すから許してくれ!」


 ようやく解放された手を見ると、くっきりと歯形が残っていた。全く、急に噛み付いてくるなんて躾のなっていないやつだ……。


 渋々、愛莉の髪をスタイリングしなおす。さっきのクジャクヘアーでポマードをつけまくったせいで、手がベタベタだ。

 歩きながらで、しかもポマード塗れという状況にかなり苦労しながらも、ようやく仕上がった。芸能人にも負けないくらい、完璧な出来だと思う。


「完成だ」


 愛莉は素早く鏡で出来栄えをチェックする。


「なかなか良いじゃない」


 愛莉は様々な角度からチェックした後、偉そうに評価を下した。全力を出した甲斐あって、愛莉様はこの髪型をお気に召されたようだった。


「ついたぞ」

「え?」


 いつの間にか寮へと到着していたらしい。くそっ、スタイリングに集中しすぎて異世界の街並みを見逃した!


 寮はかなり立派で2棟あって、どうやら三階建てらしい。レンガ造りでなかなかにオシャレだ。これを学生寮にするのはもったいないくらいだな。


「右が男子寮。左が女子寮だ。中に入れば寮長が案内してくれる手はずになってる。じゃ、俺の役目はここまでだ。わからないことは同じ部屋のやつに聞け」


 そう言ってフロワはさっさとどこかに行ってしまった。まぁ、担任だって言ってたし何かと忙しいんだろう。


「ねぇ、同じ部屋の人って……」

「寮って言うくらいだから、一人一部屋じゃ無いんだろうな。あぁ、そうか愛莉はコミュ障だからルームメイトと仲良く出来るか不安なんだな?」

「誰がコミュ障よ!」


 愛莉は友達作りが上手いほうじゃないが、根は優しいし、ちょっと冷たく見えるのさえ何とかなればすぐに打ち解けるだろう。だが、まぁ不安になるのもわかる。


「夜中に会いに行ってやっから、そう心配すんな」

「……とか言って、ただイタズラしに来たいだけでしょ」

「くっ、バレたか」

「そりゃ、長年一緒にいるからね。アンタの行動理由の殆どがイタズラだってことは十分理解してるわよ。……でも、ありがと。待ってるから」


 最後の言葉は小声でぼそっと付け足された。ここまで弱みを見せる愛莉は珍しい。やっぱり異世界に来てかなり不安なんだろう。


「よし、んじゃしばしのお別れだな。ルームメイトとちゃんと仲良くなるんだぞ?」

「アンタこそ、迷惑かけるんじゃないわよ?」


 お互い顔を見合わせて同時にぷっと吹き出す。俺は手をひらひらと振って、右側の男子寮へと歩いていった。横目で愛莉を見てみたが、変な不安も緊張も抜け、自然体になっていた。あれなら大丈夫だろう。


 量に入ると、恰幅のいいおばちゃんが出迎えてくれた。このおばちゃんが寮長なのだろう。


「あんたが異世界からの訪問者だね。話は聞いてるよ。あたしはここの寮長さ。気軽におばちゃんとでも呼んでおくれ。じゃあここの規則を話しながら部屋に案内するから、しっかりついて来な」


 寮長のおばちゃんは無駄話を一切せずに、テキパキと進めていった。おばちゃんは複雑な魔法陣が描かれた壁の前で止まると、俺の方を振り返った。


「まずはここの魔道具で魔力を登録してもらうよ。寮に入る時はここの魔道具に手を当てれば、魔力認証で扉が開く仕組みになってるんだ」


 !? いきなりハイテクアイテム出てきやがった! 指紋認証みたいな仕組みだろ? この異世界の文明レベルってどうなってるんだ? 俺たちみたいな異世界からの訪問者が色々やらかしたのか?


 おばちゃんがおもむろに壁に手を触れると、壁に描かれた魔法陣が輝き出した。


「管理者番号00001、管理者権限執行、生徒登録」


 おばちゃんのよくわからない言葉に動揺する俺を無視して、寮長のおばちゃんは俺の手を掴んで強引に壁へと触れさせた。


『認証が完了しました。生徒番号10153』


 機械的な音声が響くと光が収まり、おばちゃんは俺の手を離した。


「これであんたはいつでもこの寮に入れるようになったよ。まぁ、物は試しさ、もう一度これに触ってみな」


 おばちゃんに促されるままに魔法陣へと手を伸ばした。触れると、触れた場所から波紋が広がるように壁が光った。


『魔力認証完了。生徒番号10153。入寮を許可します』


 さっきと同じ音声が聞こえたかと思うと、目の前の壁が音もなく左右へとわかれた。


「なにこれすげぇ! おばちゃん! こっちの世界ってこんなのばっかりなのか!?」


 こんなSFチックなものが溢れている世界なら、獣耳っ娘がいないことなんて全然許せる! あぁ、なんて男の浪漫をくすぐってきやがるんだ!


「ははは、喜んでもらえて嬉しいけど、こんなのはここだけだよ。30年ほど前に来た異世界からの訪問者が趣味で作ったんだ」

「くっ! 残念だぜ……」


 てか趣味でこれ作るってとんでもねぇな。30年ほど前ならまだ生きてそうだし、是非とも会いたいものだ。


「じゃ、部屋に案内するよ。付いてきな」


 おばちゃんから寮の細かい規則を聞きながら、寮の中を歩くことしばし、俺の部屋へと到着した。134と書かれたプレートが掲げられている扉の前で、俺は一人立ち尽くした。


 この先には俺が長い間一緒に暮らすことになるルームメイトがいる。さて、どんなヤツら何だろうか。




 次の更新は、本日の午後4時頃の予定です。

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