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感動の再会(偽)

 目の前に立つ銀髪美人さんは鋭い目付きで俺たちを睨みつけている。長身でカチッと制服を着込んだ凛とした立ち振舞いの彼女の眼力は、俺たちをすくみあがらせるのに十分だった。


(まずいまずいまずい! 絶対不審がられてるってこれ!)


 隣をちらりと見ると、モヤシくんも顔を青ざめさせて固まっている。どうやら頼りにはならなさそうだ。


(となると……メカ! あとはお前だけが頼りだ!!)


 俺は耳につけた魔道具に意識を集中させる。


『はわわわわわわ、せ、生徒会副会長のレイナさんであります……! も、もうおしまいでありますぅ!』


(ダメだこいつら役に立たねぇ!)


「どうしたの? そんなに黙り込んで……何か話せない理由でもあるのかしら」


 ただでさえ険しかった目にギラりと光が宿る。


「い、いえ! 副会長さんに話しかけられて緊張しちゃっただけですよ」

「それにしては少し脅えすぎな気もするけれど……それで、あなた達は誰なのかしら。私は全校生徒の顔と名前を覚えているのだけれど、あなた達は記憶にないの」


(全校生徒!? どんな記憶力してるんだよ! そして意識高ぇなおい!)


 くそ、副会長さんの真面目さのせいでとてつもないピンチだ。仕方ない、後がちょっと面倒だけど奥の手を使うか……!


「あ、お化粧頑張ったからかもしれませんね! ふふふ、私、お化粧には自信あるんです。みんなにも化粧すると別人になるって言われてますし」

「化粧……? そんなに濃い化粧をしてるようには見えないけど?」


 苦しい言い訳に聞こえたのか、副会長さんの目にとうとう殺気が見え始める。

 俺は震えそうになる体を抑えて、穏やかで自然な笑みを無理やり浮かべる。


「そこは腕の見せ所ですよ。ちょっと待ってくださいね、今少しだけお化粧落としますから」


 俺はポーチからウェットティッシュを取り出し、右目の当たりを拭いとった。


「きゃっ!!」


 凛とした副会長さんからは想像出来ないような可愛らしい悲鳴が上がる。それもそのはず、今俺の右目は跡形もなく消え去っているのだから。まるで、のっぺらぼうのように。

 俺は左目だけで、ウェットティッシュにそっくりそのまま写し取られた目を見ながらほくそ笑んだ。


 奥の手として、とある仕掛けを仕込んでおいた。右目の化粧だけ二重にしてあったのだ。

 俺は右目を閉じたまま、ファンデーションを塗りたくってパッと見そこには目がないように見せかけた。その上に水で落ちるメイクで、リアルな目を書き込んだのだ。

 ウェットティッシュで拭えば、その下のファンデーションの層だけが残り、のっぺらぼうになるってわけだ。ずっと右目を閉じてるのはなかなか大変だったが、副会長さんの今の顔を見られただけで努力の甲斐があったぜ。


 副会長さんは、凛とした空気や殺気が嘘のように消え失せ、ただただ動揺しているようだった。顔を少し白くして、意味をなさない言葉途切れ途切れに呟いている。

 よし、ここはダメ押しで……

 俺は右目をゆっくりと開き始めた。副会長さんから見れば急に目が現れたように見えるだろう。


「ひぃっ!」


 二歩後ずさる副会長さん。当初の怖いイメージは完全に消え、ただの可愛い女の子になってしまっている。


「どうですか? 結構なものでしょう? あ、それと今日来た異世界からの訪問者の方に、少し聞きたいことがあるのですが、どこの部屋ですか?」

「そ、そこの角を曲がって三番目の、左の部屋だ……」

「ありがとうございます!」


 硬直した副会長さんの横をモヤシくんを引っ張りながら通り過ぎる。


『す、すごいであります! あの副会長をやり過ごしたでありますか!』


 メカの賞賛を気持ち良く浴びながら、俺は前髪の分け目を変えて右目を隠す。


 万が一ノーメイクの目が見られると女装がバレるかもしれないな。それよりはのっぺらぼうの方がマシだし、また右目はつぶっておくか。


 ──さてと、副会長さんという関門を越えたあとは何事も無く到着出来た。この扉の向こうには愛莉が居るはずだ。


 俺は扉を丁寧に三回、ノックした。しばらくしてガチャりと扉が開く。出てきたのは赤い髪の小さな女の子だった。小学生くらいだろうか、背は俺の胸くらいまでしかない。


「どちら様ー?」


 あどけない声でそう言う彼女に俺は震える声で答える。


「愛莉ちゃん、いる、かな……?」

「愛莉ちゃんのお友達なのー? じゃあどうぞー、入っていーよー!」


 俺はモヤシくんをまたもや引きずり、女の子の案内に従って部屋に入る。廊下を曲がるとリビングのような部屋があり、そこに愛莉が居た。その横には銀髪の美少女。

 よし、イタズラスタートだ……。


 俺はリビングに一歩足を踏み入れると、膝から崩れ落ちて泣きだした。もちろん演技だ。


「愛莉ちゃん……本物の愛莉ちゃんだぁ……!! ずっと、ずっと会いたかった……!」


 愛莉は泣き崩れる女装した俺を見ると、慌てて立ち上がり、困惑した顔のまま駆け寄ってきた。


「ちょ、え、私のこと知ってるの? あぁ、もう、とりあえず泣き止んでよ」

「ぐすっ……覚えてない、の……? ほら、私だよ、阿久木小学校でいつも一緒だった……」


 阿久木小学校は俺と愛莉の母校だ。愛莉からすれば、初対面のはずの女の子が自分の母校を口にしたわけだ。となると、自分が忘れているだけで知り合いだったのかもやと思うはず。

 相手が号泣しながら、会えてよかったと言っているならなおさらだ。お前のことなんて知らないとはとても言えないだろう。


「え、もしかして貴女も日本から……? 小学校の友達……でもその頃ずっと一緒だったってあのバカくらいしか……」

「もしかして……忘れちゃったの……?」


 ここで袖を掴んで上目遣い。オメメうるうるも追加だ!


「いや、そういうわけじゃ……」

「ほら、私だよ私……」


 そろそろ良いタイミングだろう。俺は少しずつ声を地声に戻しながら、俯いて素早くメイクを落とす。そして顔をあげると同時に勢い良くウィッグを投げ捨てる。


「幼馴染みの菅原虎太郎様だよ!!! 赤子の頃からの付き合いなのに、忘れるなんて酷いじゃないか!」


 愛莉はさっきまでの困惑顔はどこへやら、ツチノコが降ってきたみたいな呆け顔だ。

 そして同じく俺を案内してくれた小さい子と、愛莉の横に座っていた銀髪メガネクール美女も驚ききった顔をしている。


 ふむ、愛莉のルームメイトたちだろう。これから愛莉がお世話になるのだろうし、きちんとした挨拶が必要だろう。


「初めまして! 俺は愛莉同様異世界からやって来ました、菅原虎太郎! 歳は十六、趣味はイタズラ、性別は見ての通り、男の中の男だ!!」


 俺はフリフリのワンピース姿でそう宣言した。


「え、男の子……?」


 小さい子が数学の難問に遭遇したかのような難しい顔で呟いた。ははは、現実ってのは難しいもんだからな!


「そしてこちらは、俺のルームメイトで女装が趣味のモヤシくん、別名マハトだ!」

「女装は趣味じゃないからね!? あとマハトが本名だから!」


 おぉ、モヤシくんナイスツッコミ! なかなか素質があるじゃないか。


「女装……? 女の子、だよね?」


 小さい子の困惑が更に深まる!! こんな小さい子をいじめるのは誰だよまったく。


「え、えと、その男です。なんか、ごめんなさい」


 モヤシくんは律儀に謝りながらウィッグを外した。3人の女子の目がさらに大きく開かれた。まぁこれだけの美少女の正体が男だって言うんだから、驚くのも無理はない。


 さて、そろそろ落ち着いて欲しいんだが……。


 俺は完璧にポーズを決め、イケメンスマイルで愛莉に話しかけた。


「約束通り、会いに来たぜ」

「なっ……バカじゃないの!? 普通に会いに来なさいよー!!!!」

「ぐはっ!!」


 愛莉のストレートパンチがまたもや俺の鳩尾にクリーンヒット。俺はその場に倒れ伏した。


「愛莉……お前がナンバーワンだ……ガクッ」


 カンカンカンカーン! 俺のスマホから試合終了のゴングが流れた。


 部屋にいる全員から向けられる、珍獣を見るかのような視線を浴びながら、俺は敗北感に打ちひしがれるのだった。

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