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徒然異端草子  作者: 文月
3/5

南瓜

空の青に茜色が差す頃合い。

木枯しが人通りのまばらな田園地帯を寂しげに吹いてゆく。

そこに緋袴を履いた巫女が足を踏み入れた。

腕には白い子猫を抱えている。

寒さのせいか子猫は細かく震えていた。

子猫はじっと前を向いて田畑を眺めていたが、南瓜畑の近くにくると、急にナァと小さく鳴いた。

南瓜畑で収穫にあたっていた農夫は、その声で振り向く。

土にまみれた、その顔は、何処か青ざめているように見えた。

「その南瓜…」と、巫女は農夫が丁度手にしていた南瓜を視線で示して言う。

「その南瓜は食べない方が良いかと思います。」

凛としたよく通る声で忠告した。

農夫は突然の言い掛りに不信感を顔に貼り付ける。

巫女は続けて告げた。

「その南瓜には毒があります。」

農夫は、その言葉を聞くと、顔を真っ赤にして怒りを顕わにする。

「馬鹿も休み休み言え!これは俺が丹精込めて作った南瓜だ!毒なんてあってたまるか!!」

農夫の権幕に巫女の腕の中で子猫が怯えたようにナァと鳴いた。

すると、農夫は急に勢いを失い、怯えたように怯む。

「と、とにかく、この南瓜は今日のおまんまなんだ。誰だか知らんが、縁起でもない事はいわないでくれ。」

そう言うと、農夫は急いで南瓜を近くに置いてあった荷車に載せ、そそくさと足早に立ち去っていく。

巫女は暫く農夫の後ろ姿を目で追っていたが、やがて子猫に視線を戻した。

子猫は巫女の腕の中でじっと畑を見つめている。

巫女は猫の視線を追って、畑を見た。

そこは、つい今しがた掘り出された南瓜が埋まっていた場所だった。

ふいに子猫はナァと一声鳴くと、巫女の腕から飛び降りて、南瓜のあった辺りを後ろ足で掘り始める。

それを見た巫女は、そっと子猫の隣に座り込み、一緒になって両手で畑の土を掘り始めた。

爪に土が入り込む。

陽がうす暗く翳ってきた時分になって、やっと巫女の目に土に埋もれた目的のものが見えた。

それは白い毛並の大きな猫の死体だった。

遺体は何かで殴られたのか、あちこちに茶褐色の血の跡が見て取れた。

顔は、苦しそうに口を大きく開き、目を見開いている。

子猫は、その死体に縋りつくと、ナァと悲しそうに鳴いた。

「母親ですね。」

確認する巫女の声に、再び子猫はナァと声を上げ肯定の意を示す。

すると母猫の遺体はすぅと溶けて消え、骨だけになった。

巫女は、骨だけになった母猫の口元を凝視する。

骨となった猫の口からは、先程の南瓜の蔓が生えてきていた。

※宜しければ感想・アドバイスなど頂ければ幸いです。


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