南瓜
空の青に茜色が差す頃合い。
木枯しが人通りのまばらな田園地帯を寂しげに吹いてゆく。
そこに緋袴を履いた巫女が足を踏み入れた。
腕には白い子猫を抱えている。
寒さのせいか子猫は細かく震えていた。
子猫はじっと前を向いて田畑を眺めていたが、南瓜畑の近くにくると、急にナァと小さく鳴いた。
南瓜畑で収穫にあたっていた農夫は、その声で振り向く。
土にまみれた、その顔は、何処か青ざめているように見えた。
「その南瓜…」と、巫女は農夫が丁度手にしていた南瓜を視線で示して言う。
「その南瓜は食べない方が良いかと思います。」
凛としたよく通る声で忠告した。
農夫は突然の言い掛りに不信感を顔に貼り付ける。
巫女は続けて告げた。
「その南瓜には毒があります。」
農夫は、その言葉を聞くと、顔を真っ赤にして怒りを顕わにする。
「馬鹿も休み休み言え!これは俺が丹精込めて作った南瓜だ!毒なんてあってたまるか!!」
農夫の権幕に巫女の腕の中で子猫が怯えたようにナァと鳴いた。
すると、農夫は急に勢いを失い、怯えたように怯む。
「と、とにかく、この南瓜は今日のおまんまなんだ。誰だか知らんが、縁起でもない事はいわないでくれ。」
そう言うと、農夫は急いで南瓜を近くに置いてあった荷車に載せ、そそくさと足早に立ち去っていく。
巫女は暫く農夫の後ろ姿を目で追っていたが、やがて子猫に視線を戻した。
子猫は巫女の腕の中でじっと畑を見つめている。
巫女は猫の視線を追って、畑を見た。
そこは、つい今しがた掘り出された南瓜が埋まっていた場所だった。
ふいに子猫はナァと一声鳴くと、巫女の腕から飛び降りて、南瓜のあった辺りを後ろ足で掘り始める。
それを見た巫女は、そっと子猫の隣に座り込み、一緒になって両手で畑の土を掘り始めた。
爪に土が入り込む。
陽がうす暗く翳ってきた時分になって、やっと巫女の目に土に埋もれた目的のものが見えた。
それは白い毛並の大きな猫の死体だった。
遺体は何かで殴られたのか、あちこちに茶褐色の血の跡が見て取れた。
顔は、苦しそうに口を大きく開き、目を見開いている。
子猫は、その死体に縋りつくと、ナァと悲しそうに鳴いた。
「母親ですね。」
確認する巫女の声に、再び子猫はナァと声を上げ肯定の意を示す。
すると母猫の遺体はすぅと溶けて消え、骨だけになった。
巫女は、骨だけになった母猫の口元を凝視する。
骨となった猫の口からは、先程の南瓜の蔓が生えてきていた。
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