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はぁ。今日も朝からテンション下がるなぁ。毎朝の事だけど。地下鉄に乗って、旧月高校に近づくに連れて多くなる旧月高校の制服姿。ヤンキーばかりが地下鉄の車内に増えていくんだよ!こんな事が毎朝起こったら、俺じゃなくてもテンション下がるだろ!
「おはよ、空!今日も辛気臭い顔してんな!」
「龍か。珍しく一人で登校か?勇はどうした?」
駅から学校へ歩いている途中、後ろから失礼な発言を交えながら挨拶してきたこの茶髪のツンツン頭は上町龍。良く勇と一緒に登校している。口の悪さとヤンキーみたいな外見を除けば面倒見の良い、付き合いやすい奴なんだが、沸点が低く、入学してすぐに友達がいじめられているのを発見し、有無を言わさずにいじめていた奴等をボコボコにしてしまい、停学になるような奴だ。
「今日はちょっと寝坊してな。この髪型作るのに時間掛かるから、勇には先に行ってもらった。サボってなければもう教室にいるんじゃないか?」
以前に聞いた話だと、龍の髪型を作るのに1時間掛かるらしい。今日か○俺は!の伊○みたいな髪型してるからな!それにしても、ヤンキーのクセに髪整える為だけに早起きしてるコイツは、ヤンキーの中でもかなり奇特な部類なのではないだろうか?
「空の方こそ、今日はナヨと一緒じゃないのか?」
「俺とナヨはあまり一緒に登校してないぞ。そもそもナヨの奴、最近学校サボりがちだしな。」
「ナヨ、このままじゃ進級できないんじゃね?」
「その可能性は高いな。アイツも馬鹿じゃないから、きっと解ってるんじゃないかな?」
教室の前に来ると、教室内がざわついている。なんだ?テストの結果発表でもあったっけ?いや、テストの結果発表でざわつくような学校じゃないよな。ほぼ全員が赤点常習犯なんだから。
「なんだ?今日って何かあったっけ、空?」
「とりあえず、入れば解るだろ。」
教室の戸を開けると、旧月高校の中でも特にガラの悪い男女4人が窓際でワイワイと喧しく、反対側の廊下側ではナヨと勇が恐い顔で何かを耐えるように自分の席で座っていた。更に教室の真ん中あたりでは御調子者の野柿が机に伏している。よくよく見てみると、肩が震えている。ありゃ?野柿の奴、泣いてないか?ってか、あのこめかみの絆創膏とか頬の湿布とかはなんだ?喧嘩でもしたのか?
そんな観察を俺がしているうちに、龍は勇とナヨのいる方へ歩いていき挨拶をしていた。
「お早うさん勇、ナヨ。勇は今日も友達いなさそうな顔してるし、ナヨは空と同じで童貞な顔してるな!」
おいおい、なんでついでみたいな感じで俺までディスられてんだ?本当、龍は口が悪いな。裁縫道具があったらその場で口を縫ってやりたいくらいだ。ってか、女子のいる前で童貞暴露するの止めてくれませんかね。…ん?勇もナヨも龍が話しかけたのに、まだ機嫌悪いぞ?なんかあったか?あの日?
「…わりぃけど、俺もナヨも今はその冗談にノれる気分じゃないんだよ。」
なんだ?茶化せるような雰囲気じゃないぞ?勇もナヨも何でそんなに機嫌悪いんだ?雰囲気的に俺や龍が原因じゃないみたいだけど…。
「そんな、人を探るような目で見るなよ。イラついてる原因はアレだよ。」
そう言ってナヨは窓際で騒いでる男女を顎で指す。だが、それだけじゃ余計に解らない。勇もナヨも普段は、あんな見るからにヤンキーのバカ共が騒いでいようが気にしない。らしくないな?
ガッ!
勇が突然机を蹴り上げた。机が立っている俺の目の前まで上がり、自然落下で下に落ちていく。その時には周りはもうザワついてなく、皆こっちを見ている。
ガガン!
勇の蹴った机が床に落ちる。座ってる人間の脚力じゃなくない?さすが脳筋バカ。ってか、俺までビビッたろうが!なにしてくれてんの?
「お前等、いい加減にしろよ?俺もキレるぞ?」
勇はそう言いながら立ち上がり、窓際の男女の下へ歩いていく。4人共顔は蒼白だ。勇は4人が取り囲むようにしていた机の上から手の平サイズの紙切れを取り上げる。
「どのバカだ?こんなもん持ってきたのは?そしてコレを撮った奴はどいつだ?」
紙切れをヒラヒラさせながら4人に問いかける勇。なんだあの紙切れ?写真っぽいが。
ナヨも立ち上がり、勇を含めた5人の方へ歩いていく。俺と龍もなんだか解らないが、ナヨに付いて5人の方へ近づく事にした。近づくにつれて、勇がヒラヒラさせている写真が見えてくる。ん?夜の道路の上で誰かが土下座している写真だな。なんだあれ?
「おっ、おお前等には、かっ、関係ないだろっ!」
ドモりすぎだろ!
ようやく我に返ったのか、4人組みの男子の一人が勇に向ってそう言った。ふと机の上を見てみると、まだ何枚か写真がある。これは…野柿?土下座をするためか道路に正座をし、ボコボコに腫れ上がった顔を俯かせている野柿の写真があった。
「これはなんだって聞いてるんだよ、勇は。俺達が関係あるとかないとかは聞いてないんだよね。」
ナヨが静かな声でそう言う。怖っ!なに、この迫力!普段のオチャラケたナヨじゃない。それにしても、この写真はやり過ぎだな。
ビッ!
机の上と、勇から写真を取り上げた龍が、それを破く。細かく破りゴミ箱へ捨てた後に、
「勇もナヨもキレる前にこんなくだらない写真、破いて捨てろよ。何やってんだよ。」
と、ナヨと勇を非難する。
「無駄だよ。これを破ったところで、他のクラスにも出回ってる。こんな写真、いくらでもコピーしてるんだよ。」
「だからこうして俺が直々にコイツ等に聞きに来たんだろ。で、さっきの質問をもう一度するけど、この写真をもってきたのはどのバカだ?」
うん?他のクラスにも出回ってるんだろ?
「なぁ勇。他のクラスにもこの写真が出てるんだろ?じゃあ、こいつ等が写真を持ってきたとは限らないんじゃないのか?」
他のクラスのやつ等がばら撒いていて、うちのクラスに回ってきたとは考えられないのだろうか?
「いや、俺はこいつ等が登校してくる前に教室に居たんだ。こいつ等が他のクラスの奴に写真を渡してるのも見てるからな。こいつ等がばら撒いている犯人で間違いないさ。」
「だ、だからお前等には迷惑かけてないだろ!俺達は野柿の面白写真を皆に見せてるだけだ!文句あるのか?」
へぇ。こいつ、勇と龍、ナヨを目の前にしてそういう事言えるのか。対したもんだ。まだドモってるけどね。この3人、俺はあまり知らないけど中学の時はかなりの有名人だったらしい。龍は入学当初、2年や3年が挨拶にきてた。謎に上級生に敬語つかわれてたくらいの奴だ。俺は結構ドン引きで遠巻きに見てたから覚えてる。絶対に友達にはなれないと思ってたけど話しかけられたから話し返してみると、面白い奴だった。、いきなり友達庇って停学になるような熱い奴だから仲良く出来てるんだ。勇やナヨに関しては前に説明した通りのヤンチャな奴等だからな。
「迷惑かかってるよ。酷く気分が悪い。間違いなくお前等が持ってきた写真のせいだ。この写真の野柿の傷の具合は、1対1のケンカじゃないよな?俺は1対多数のケンカは大嫌いなんだ。ただのイジメになるからな。その俺にそんな写真を見えるようにばら撒いておいて、迷惑かけてないなんてよく言えたな?」
理解ってはいたけど、本当に怒ったナヨは怖いな。今喋ってた時の目、あれだけで人を殺せるんじゃないかって目をしやがる。
4人組も恐怖を感じたらしく、ソワソワしだした。そこへ教室の扉が開く。
「おはよう。皆、席に着くように!」
担任の白川が入ってきた。この4人、命拾いしたな。
「確実にこの写真の事は聞き出すから、逃げるなよ。」
勇が4人にそう言って自席へ戻っていく。それに倣うように俺達も自席へ。チラッと野柿の方を見てみると、まだ机の上で伏している。確実に俺達の話は聞こえていただろうに、完全に話しに入ってこようとしない。バツが悪いのだろう。あんな写真をばら撒かれたら流石に調子にのることはできないか。でも、お前のせいで俺がまた面倒な事に巻き込まれそうなんだよ!下手にナヨや龍が面倒見いいから俺にまで影響出るんだ。仕方ない。嫌がらせ半分、ナヨ達の手伝い半分で昼休みにでも野柿から話を聞いてみるか