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地下鉄が駅に着きそのままコンビニへ。俺は金平にアイスと缶コーヒーを奢らせ、ホクホク顔でそれを食べ飲みしながら、、若干引きつり顔の金平と歩いていく。
コーヒーの空家は四階からなる建物で、三階までが会社になっており、四階が金平の家になっている。暗証番号を押し、オートロックの玄関を開ける金平。いやー、小学生の頃から数え切れないほど金平の家には来ているけど、いつ来ても高級マンションと錯覚してしまう作りだよね。神様は確実に贔屓してるよね!金平は生まれた時から勝ち組じゃないか!くそっ!
玄関の中に入ると直ぐにエレベーターがあり、一階と四階しかボタンのないそのエレベーターに乗り金平の自宅へ。会社の最上階に家がある所為なのか、玄関先からずっとコーヒーのいい香りがする。四階に着き、どうみても高級マンションの廊下にしか見えない廊下を進み金平の家の中へ。どうでもいいけど、どうしてこの家は廊下の時点で涼しいの?冬はちゃんと暖かいし。以前に金平に尋ねたところ、「廊下にもエアコンは付いてるから。」だとさ。
ムカつく。俺の家なんてリビングでも扇風機しかないぞ!こんな一日に何回通るか解らない廊下に24時間エアコン点けっぱなしなんて、ただの電気代の無駄遣いだろうが!俺を廊下でいいから住ませてくれや!
勿論、金平の部屋にもエアコンは完備だ。俺の部屋は扇風機すらないけどな!くそっ!今日だけで何回「くそっ!」って思わせる気だ金平め!ここに来る度に思ってるけどな!余談だが、金平の家のリビングにはミニ映画館かっ!と突っ込みたくなるスクリーンがあり、プロジェクターで地上波のテレビが見れる。小学生の頃はこの大画面でテレビゲームをして、その画面の迫力に魅せられたものだ。家に帰って両親に同じものを買ってと強請った記憶がある。その時の両親の言葉が、「金平君の家とウチを一緒にするんじゃありません!」だったのは当然だろう。金平の部屋のテレビでも俺の家のリビングのテレビより大きいんだから、金持ちって羨ましいよね!
「で、うっちゃん。聞きたい事って何?中学の頃に真夏ちゃんにうっちゃんの話をした件なら謝るけど。」
「まさしくその件についてなんだけどさ。なんでお前は高橋さんとの会話の中で俺の事を話題に挙げてたんだ?普通、第三者を話題に挙げるとすると、お互いに良く知ってる人間を話題にするんじゃないか?よく知らない男子の、それも俺のようにブサメンの女子にキモがられてた奴の話なんて、聞いてても面白くもなんともない事くらい金平なら解るだろ?」
「キモがられてたって…。またうっちゃんはそういう事いうし。だから自意識過剰って言ってんのに。別に中学の頃の女子はうっちゃんの事を嫌ってたりしてなかったって!イケメンとは言わないけど、ブサメンって程じゃないし。あれは青井さん達のグループに嫌われてただけで、うっちゃんは別に…。」
「そんな事は今はどうでもいいんだよ!あと、ブサメンを否定してくれたのは嬉しいがイケメンとは言わないって、逆に傷つくからな!自意識過剰はほっといてくれ!それより、なんで高橋さんに俺の話をしたんだよ!」
「ああ、そうだったね。一つ、うっちゃんは勘違いしてるよ。」
「勘違いしてる?俺が?」
なんだよ、俺が何を勘違いしてるって言うんだよ。生まれてこの方、自分をイケメンだとか勘違いできてたのは、せいぜい小学三年生までだぞ!小学四年生くらいからは、もう女子に興味津々で同じクラスの女子に片っ端から話しかけてたら、「海田キモい!鏡見てから出直しておいで!」とか、よく不登校にならなかったなっていうくらいの事を女子のほぼ全員に言われた俺は、そこから現実を見る事にして、俺のようなブサメンは女子にあまり話しかけないようにしようって生きてきたんだぞ!若干トラウマになったのか、未だに女子に話しかけたりするだけで緊張するんだからな!
「勘違いなんてしてねぇーよ!さっきも言ったように俺はブサメンだと自覚してる!」
「うっちゃんこそ何の話してるんだよ!違う違う!勘違いしてるって言うのは、確かにうっちゃんの話をしたのは俺だけど、最初にうっちゃんの事を聞いてきたのは真夏ちゃんからって事!」
「なんで高橋さんが俺の話を聞きたがるんだよ。」
「知らないよ。ただ、中二の夏頃だったかな?真夏ちゃんが突然『金平君って二組の海田君と仲いいよね?よく一緒に帰ってるし。』って、聞いてきたんだよ。それこそ、根掘り葉掘りって感じで。俺も真夏ちゃんみたいな可愛い子に話しかけられて舞い上がったから、かなり余計な話しちゃった事は認めるけど。うっちゃんこそ何か思い当たる事ないの?」
「うーん、良く解らんな。中二の夏頃?なにも心当たりがないし、そもそも、高橋さんが同じ中学だって事も入学式に知ったくらいだしな。」
「そういえば、真夏ちゃんが学校祭の会議で何かやらかしたって事は聞いた事があるけど。うっちゃん、中二の頃学校祭の実行委員やらされてたよね?」
「ああ、嫌な事思い出させるな金平。担任の南の授業中に3D○でモン○ンやってんのがバレて、その罰でやらされたな。まっ、会議中は全て寝てたから全然役に立たなかったけどな。」
「寝てたの?学校祭の会議で?大物だね。」
「なんか金平に大物とか言われると腹立つな。高橋さんがその会議で何をやらかしたんだよ?」
「詳しくは解らないけどね。ウワサ程度の事だけど、真夏ちゃんが実行委員の会計で、お金が万単位で合わなくて真夏ちゃんが盗ったんじゃないかって疑われたとか。このウワサ、結構有名だったよ。疑われたのが真夏ちゃんっていうのは広まってなかったけどさ。それにしたって、うっちゃんはこういう事に疎すぎるよね。」
「はじめて聞いたな。」
「実行委員が知らないって、かなり問題じゃない?」
「いや、確か金が合わないって言う話はしてた様な気がするけど、丸く収まったはずだよな?」
「うん。丸く収まってなかったら、真夏ちゃんはあんなに元気じゃないよ。」
「で、結局どうして金が合わなかったんだ?」
「それを俺に聞く時点でうっちゃんに実行委員とかやらせちゃダメだよね。確実に一般人だった俺よりも実行委員のうっちゃんの方が詳しくないとおかしいんだから。」
「ちょくちょく嫌味言わなくていいから、さっさと答えろよ。」
「ごめんごめん。確か、当時の一年生が返したって言い張ってたけど、実は返し忘れてて鞄の中にあったらしいよ。最初から返し忘れたの知ってたけど、大事になってしまって言うに言えなくなったって事だったけど。」
「アホか!そんなもん、最初からパクる気で言わなかったんじゃねぇのか?」
「いや、それが本当に忘れただけらしいよ。そうじゃないと、お金が合わないって発覚してから1週間も鞄の中に入れてないよ。盗る気なら家に置いてくればバレないんだもの。どうやら、隙をみて会計袋に戻そうと毎日持ってきてたけど、事件発覚から元々厳重だった管理が先生たちに移って、更に厳重になったから返せなかったみたい。」
「はっ!馬鹿らしい。一番最初に発覚した時に返していれば大事にならなかったのにな。高橋さんもとんだ濡れ衣着せられたもんだ。」
「うん。実際その事件が解決するまでの真夏ちゃんは別人のように暗くなってたし、早退したり欠席したこともあったよ。」
「そりゃそうだよな。結構メンタル強いと思ってる俺でもそれは堪えそうだ。で、さっきから話が脱線してる気がするが?その学校祭実行委員の話と、高橋さんが俺の事を聞いてきたのと何の関係があるんだ?」
「ここまで話しても思い出さないとは…真夏ちゃんの恋も前途多難だね…。」
「あん?何か言ったか?だから、何の関係があるんだよ?」
「別に?ただ真夏ちゃんとうっちゃんの接点って、それ位しかないかなって思って聞いてみただけだよ。うっちゃんに思い当たる事がないなら、俺にはわからないよ。自分で考えなよ。」
「おいおい、なんだよ。突然冷たくなりやがって。」
「悪いけどうっちゃん、これから少し用事があるんだ。」
「そ、そうなのか?さっきは用事ないって言ってたじゃねぇか。」
「忘れてたんだよ。じゃあ、うっちゃん悪いけど。」
「ああ。今日は突然悪かったな。また来るわ。」
「家帰って中学の頃の事を考えたら、何か思い当たる事があるかもしれないから、ゆっくり考えれば良いよ。じゃあね。」
「??ああ。わかった。じゃあな!」
なんだか追い出されるように帰されたな。あいつ、本当は何か知ってるんじゃないのか?帰り際、突然機嫌悪くなってたし。でも、金平があんな態度をした時は、金平から聞き出す事はまず無理だ。無駄に意地張る奴なのは長年の付き合いで解ってるからな。しょうがない、金平の言う通り中学の頃の事を色々思い出してみるか。
その夜一晩中、中学の頃の事を思い出していたが、結局何も解らず、次の日は無駄に寝不足で学校に登校する羽目になった。