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放課後。
帰宅のため学校から駅へ向って歩いていると、後ろから軽快に走ってくる足音。そして右肩へ軽い衝撃。へっ?何か叩かれた?誰だよ!ケンカ売ってくるならダッシュで逃げてやるぞ!先月でケンカは痛いって思い知ったんでぃ!
「やっ!海田君一人で帰ってるの?私も一人なんだぁ!一緒に帰ろっ!」
高橋真夏だった。えっ?入学式以来だね!そして入学式の時より可愛くなってない?振り返った瞬間、胸キュンってしたよ!何コレ!これが俺の変?じゃなくて恋?
「???どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。ちょっとびっくりしただけ。」
「びっくり?どうして?」
「いや、高橋さんが俺にその…話しかけてきた事に?」
「なんで疑問系?入学式の時も話しかけたじゃない。」
地下鉄の中でな。あれはほれ、あれだろう?入学式の緊張もあって、見た事のある奴がいたからだろう?なんとなく不安で声をかけて安心したかったからじゃないのか?
「海田君、女子の事意識しすぎだよ!話しかけられた事に驚くって、自意識過剰だよ!」
あははっと笑う真夏ちゃん。うーむ、そう言われてしまうと確かにな。話しかけられた事に意味は無いのだろうね。でも、思春期の男の子は色々複雑なんだよ!
「そういえば高橋さんって、中学の時四組だったよね?コーヒーの空家のボンボン、金平の事知ってる?あの、いつも前髪をジェルで立ててる奴。」
「ボンボンって…。でも知ってるよ!結構仲良いよ私と金平君。どうして?」
「いや、金平と俺は幼馴染でさ。アイツも四組だったから知ってるかと思ってね。」
「知ってる知ってる!海田君と金平君が幼馴染なのも、金平君から聞いて知ってるよ!私と金平君も中学3年間、同じクラスだったからね。金平君、良く海田君の話してたし。」
金平の奴、俺の何を話してたんだ?中学の頃、俺は真夏ちゃんのことを知らないぞ?真夏ちゃんだって俺の存在を知らないはず。自分の知らない奴の話なんて聞いたって面白くないだろ!金平の奴、何考えて真夏ちゃんに俺の話を振ってたんだ?
「金平もアホだな。高橋さんは中学の頃俺の事知らないのに、知らない奴の話をして…。」
「えっ?私、中学の時から海田君の事知ってたよ?」
「えっ?マジで?」
「うん。本当だよ!中学の時、少しだけど話した事もあるよ!覚えてないの?」
うわぁ、普通に覚えてないよ。いつだ?ってか、真夏ちゃんの事だから普通に違う事言ってたりしない?入学式の朝のように。その可能性高くない?だって、中学の時の俺は普通に女子に嫌われてたんだよ?そんな俺が真夏ちゃんの様な子と喋ったら、絶対に覚えているはずだ。だが記憶にないって事は、真夏ちゃん俺と誰かを勘違いしてないか?だが、俺はジェントルメンだ!レディーに恥をかかすわけにはいかない!よし、得意の口八丁で乗り切るぜ!
「ああはいはい、覚えていますとも!忘れるわけないじゃないですか!ただ、中学の何年の頃だったかなぁ、あれ?」
「二年の頃だよ!」
「そうそう、二年の頃でしたよね!なつかしいなぁ。」
「はぁ、海田君覚えてないんだね。そんな嘘ついてまで話合わさなくてもいいのに。」
「えっ?嘘なんてついてませんよ?本当にほら、二年の頃でしょ?」
「入学式の時にも言ったけど海田君、早口で敬語になってるよ。海田君が嘘つく時の特徴。これもネタ晴らしすると、金平君から聞いたんだよ。」
あのバカボン!なんてこと教えやがる!おかげでジェントルメン海田と名乗っていた俺が、レディーに恥じかかせてしまったじゃないか!今度逢った時、あの前髪維持するために使ってるジェル、洗い流して実は前髪が変な天然パーマ掛かってる事バラしてやる!ジェルとるメン海田になってやる!
「まっ、覚えてないだろうからいいけどね!本当にちょっとだったからさ!」
なんて話してると駅に着いていた。改札を抜けてホームへ向う。丁度良く地下鉄が着いていたので、それに乗る。ちょうどよく席が空いていたので二人で座ると、
「うっちゃんと真夏ちゃんじゃん!久しぶり!」
あーん?どこぞの前髪天然パーマのバカボンの声が聞こえるぞ?あと、俺の事を背中にデカいフライ返ししょってる奴みたいに呼ぶけど、小学校の頃のあだ名だから気にしないように!
「金平君、久しぶりだね!この前、金平君のお家の喫茶店で会った以来かな?またお店に行くからね!」
「ぜひ来て来て!大歓迎だよ!それにしても、珍しいコンビで帰ってるんだね?大体うっちゃんはちょっと恐そうな人たちと帰ってるからいつもは見かけても声かけづらいのに…って、うっちゃんはなんでそんなに恐い顔で俺を見てるの?」
「別に…。」
「なんかうっちゃん、機嫌悪い?真夏ちゃん、なんかあった?」
「えっ?何もないよ!どうしたの、海田君?さっきの中学の頃の話で気に触る事あった?」
真夏ちゃんが気遣うように俺を見上げてくる。やめろよ、その上目遣い!危うく惚れちゃうだろ!可愛いな!
「中学の頃の話してたの?どんな話?」
「私が金平君と仲良くて、金平君から海田君の話を聞いていたって話だよ!あっ!駅に着いた。じゃあ、またね!」
真夏ちゃんの家はどうやら俺や金平の降りる駅の一つ前の駅が最寄らしく、胸元で手を振りながら地下鉄から降りていった。
「金平、これから用事あるか?なかったらちょっと金平の家によって行きたいんだけど。」
「特にないけど…なんかあった?さっきも言ったけど、うっちゃん微妙に機嫌悪いし。」
「そりゃぁ、聞きたい事がたぁーくさんあるからなぁ!中学の頃の話しだがぁー、俺が良く知りもしない女子にぃー、俺の癖の事まで詳しく話してしまうぅー、金平君になぁ!」
「うっ!ま、まて!話せば解る!人間、話し合うことで解り合える事があると思うんだ!」
「うんうん、だからこれから金平の家で話し合おうって事にしたんじゃないか!ただ、話し合いだけで全てが解決するなら、この世から戦争はなくなっていると言う事は忘れないでくれな!」
「いい笑顔で怖い事言わないでよ。まずは賄賂で釣ろう。アイス奢るんで暴力は勘弁して!」
「うん、戦争は良くないよね!暴力反対!言葉は人類が誇る最高のコミュニケーション!」
「相変わらず、物に釣られる性格が変わってなくて安心したよ、うっちゃん。」
呆れ顔で言う金平をよそに、俺はホクホク顔で駅に着くのを待っていた。