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放課後。
俺はナヨと一緒にアーケード街まで出てきた。本当は制服姿で街中は歩きたくないんだよな。旧月高校の生徒は、所構わずに喧嘩をする。喧嘩をした相手は旧月高校の制服を覚えていて、旧月の制服を着ている奴を標的にする傾向があり、俺のような数少ない一般の生徒にまで喧嘩を売ってくるんだ。そんな事は、ろ○でなしブルースや湘南○愛組の中でやってくれ!迷惑この上ないんだよ!
そんな事を思い、ちょっとビビりながら待ち合わせ場所に着いた俺達は、まだ待ち人が来ていない事を確かめ、ベンチに座って待つことにした。
「ちっ。こっちの方が早く着いちまったな。今メールで急かすから待ってくれな。」
こっちも特に予定ないし、無理に急がせなくても良い、とナヨを止めようとした所で俺は今制服を着て待っているんだと気づき、止めるのを辞める。
「朝美の奴、返信来ねぇし。」
どうやら、しばらくはここで待たされるようだな。はぁ、絡まれない事を祈ろう。
「はぁ?なにコイツ?わけわかんねぇ!」
ナヨが携帯を見て突然大声を上げだした。ちょっ、やめて。目立たないで!カツアゲされたらどうするの?痛いのも嫌だし、お金取られるのはもっと嫌だぞ俺は!
「ほら海田。返信来たと思ったらこれ見てみ。訳わかんねぇから。」
ナヨはそういって今返信が来たであろうメールを見せてくる。なになに、『会う気が無いんだね。帰っちゃうの?』って、なんだこの女?アホなの?こっちは結構前から待ち合わせ場所にいるっての!ちっ!だから3次元の女は嫌なんだ。2次元の女の子はまずこんな訳のわからない事言わないし、何よりモブでも可愛いからな!まぁ、間違ってもナヨには言えないけどね。
「あっ、居た居た。名寄君、遅くなってごめんね!」
「遅せーぞ、朝美。来ないのかと思った。」
「ごめーん。」
いやナヨさぁ、来ないのかと思ったじゃねーだろ。さっきの意味不明なメールについてはスルーなのか?
既に俺は帰りたくなっていた。だって、コイツ等リアル女子の言動は全く理解できないんだよ?脱童貞は目指しているけど、やっぱりコイツ等は何か違う気がする。うん、コイツ等って複数形で言ってる事で解るだろうけど、このナヨの彼女候補?の隣にもう一人女子が居た。黒髪ショートの活発そうな女子だね。○ジャーの清水なイメージだな。ソフトボールやってそう。二人ともセーラー服(多分、南陽女子の制服)が似合ってて可愛いけど、朝美ちゃんは頭軽そうなイメージだね。もう一人の子は…あれ?機嫌悪いのかな?
「紹介するね。この子がこの前言ってた私の友達の沙冬美。」
「こんにちは。」
挨拶で終わりか!何か睨んでないこの子?やっぱないわ!俺には無理だ!
とか考えているとナヨが、
「ほれ、これが海田。」
「どーも。」
ナヨめ!突然振ってくるから、俺まで無愛想に挨拶しちまったじゃないか!あっ、でも嫌われれば早めに帰れるかもしれないからいいのか。よし、元から女子とはコミュ障なんだ。このまま無愛想でいってやるぜ!目指すは銀○のプラカードのないエリザベスだ!
…プラカードなかったらエリザベスかオバQか解らなくなるじゃん!あっ、頭に毛があるか無いかで判るか?それじゃあ改めて、プラカードのないオバQ目指します!
「じゃあ、とりあえずゲーセンでも行くか!」
「うん!名寄君、ぬいぐるみとってね!」
「俺はそんなに上手くないぞ。期待するなよ。海田も頑張って沙冬美ちゃんに何かとってやれよ!」
「……」
「なんだよ。返事も出来ない位緊張してんのか?女子と話すの緊張するって言ってたけど、ここまでとはな。」
「えー!海田君って、女の子と話すだけで緊張するの?ウケる!」
「だろ?だから、中学の時もあまり女子とは話してなくて、女子に嫌われてたんだってよ!」
ゲーセンへ向かいながらナヨが話してる。うん。上手くコミュ障スキル発動できたな!ただし誤解された上、中学の頃の恥ずかしい話まで暴露されちゃった。てへっ!
それより、話が違うじゃねーか!俺も沙冬美だかって女より朝美ちゃんの方がいいぞ。いや、さっきナヨの暴露の所為で、朝美ちゃんも厳しいと思ってきたけどね。何が『同じ子狙いになったらその時に考えればいい』だ?ナヨは最初から朝美ちゃん狙いで、話し合う気全くないじゃねーか。この話が来たときは、ナヨの引き立て役で呼ばれただけだと思ってたけど、この分じゃ朝美ちゃんとは出会った時からいい感じで、俺へ自慢したかっただけじゃないか?ホント、イケメン爆発しろっ!
「ちょっと、あんた!」
突然左肩を掴まれた。誰だなんだ?俺なんかした?
「私はね、女の子を紹介してもらおうって男が大嫌いなの!出会いくらい自分で見つけれないの?」
沙冬美ちゃんだったよ、俺の肩掴んできたの。そしていきなり怒られた。カルシウム足りないの?煮干食べよう!骨も丈夫になるし!
「朝美にお願いされてしょうがなく来たけど。本当は来たくなかったんだから!何とか言いなさいよ!」
「…沙冬美ちゃんはお見合い結婚否定派なんだね。」
「はあ?あんた何言っての?脈略無いじゃない!話をはぐらかそうとしてるの?」
「いや、女の子を紹介してもらう男が嫌いだって言うからさ。お見合い結婚は全部必ず紹介してもらうからね。」
「そうは言ってないわよ。結婚とはまた違うじゃない!」
「違わないよ。お見合い結婚って言ったって、紹介されてすぐに結婚する訳じゃないでしょ?何ヶ月、何年かお付き合いしてから結婚するんじゃない?
あと、その理論でいくとナンパしてくる男とかが沙冬美ちゃんの理想なのかな?」
「なんでナンパしてくる男が私の理想なのよ!ナンパしてくる男なんて大嫌いよ!」
「矛盾してるよ。さっき『出会いくらい自分で見つけなさい』って言ってたよね?ナンパは自分で出会いを探す、手っ取り早い方法だよ?」
「…」
「まぁ、確かに沙冬美ちゃんの言い分も解るけどさ。女の子紹介してもらう男って、飢えてる男ってイメージが強いもんね。あながち間違ってないし。でも、さっきナヨが暴露したように俺は女の子と話す事に慣れてないんだ。中学の頃に女子に嫌われてたってのも本当だし。」
あれ、なんかイライラしてきた。ナヨの奴、本当余計なこと言いやがって!この沙冬美ちゃんも理不尽だし!
「高校入ったら女子に嫌われないで普通に話が出来る生活がしたいと思ってたのに、同じ学校の女子はヤン女ばっかで恐いし!違う学校の女子とお近づきになりたくもなるっての!」
なんでだろう。泣きたくなってきた。ってか俺は無愛想、コミュ障で行くはずだったんじゃなかったっけ?気づいたらベラベラと説教くさい中年オヤジみたいな感じじゃないか!酒もってこい!
「…ぷっ、あはははっ!途中からただの愚痴じゃない。何なのあなた!」
なんか爆笑されてますけど?おかしいな。沙冬美ちゃんがあまりにも頭が固い頑固オヤジみたいなこと言うから反論してただけなのに。
「あー、笑ったわ!そんなに海田君の学校って恐い女の子ばかりなの?」
「…うん。残念ながら9割はヤンキーじゃないかな。男女ともにね。」
「なんでそんなガラの悪い学校に海田君や名寄君みたいな、普通っぽい人が通ってるの?」
「いやー沙冬美ちゃん、初対面なのに聞きにくいことズバッと聞いてきたね。素直に頭が悪いからだよ、俺はね。ナヨは…」
おっと。ナヨの話までするところだった。あぶないなぁ。…あれ?さっきナヨは俺の中学の頃の事、つらっと喋ったぞ?仕返ししとくか。
「ナヨはね、ああ見えても中学の頃は随分悪かったみたいだよ。高校入ってからのナヨしか知らない俺には信じられないけど。ウチの学校の先輩方もナヨと同じ中学の人は、ナヨが廊下歩いてると避けて歩いてるの見たことあるけど。
でも、今のナヨしか知らない俺にはそんな事関係ないよ。基本的にナヨはいい奴だし。」
あれ?仕返ししたつもりだけどなんでだ?最終的にナヨを褒めてしまったぞ?俺のバカ!
「ふーん、そうなんだ。海田君と名寄君は本当に仲がいいんだね。そんな風に気の合う友達が出来たんだから、いい学校に行ったじゃない!」
なるほどね。そういう考え方もありだね。でも正直に言って俺は、男の友達よりも女の子とお友達になる事しか考えてなかったけどね!
「…あと、さっきはごめんなさい。海田君の言う通り私の発言はお見合い結婚を否定した発言だと思うわ。」
そう素直に謝られると立場が無いな。俺はただ単に条件反射で屁理屈並べ立てて、自分の行動を正当化しただけなんだけどね。だが、ここは俺が正しかったと押し通そう!
「いや、気にしてないよ。違う学校の女子を紹介してくれると聞いて、ノコノコと付いてきたのは事実だしね。」
「同じ学校の女子は恐いし、違う学校の女子と仲良くなるためにね!」
くっ。何も言い返せねぇ。調子に乗って勢いのままに余計なことは喋っちゃいけないね。
まあ、それでも女子相手にここまで緊張せずに話せたのは初めてだから、沙冬美ちゃんには感謝かな?
そんな風に考えていた時、突然大声が響いた。