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こうこうせい。  作者: 理衣田
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プロローグ


 初めての学校への登校、初めての地下鉄通学。何もかもが初めて、これからの3年間に大きな期待と、少しの不安をこめて登校する入学式。普通なら。

そう、普通ならそこに期待があるはずなんだ!なのになぜ俺は不安しかないんだ!寧ろ、絶望感にまで昇格しそうだぞ!そう、こんなクズみたいな現実はいらない!やはり現実などより、妄想!妄想バンザイ!妄想最高!

 

地下鉄に揺られながら中二病を発症させている痛い奴。いやいや、あまり痛い目で見ないでやって!彼も頑張ってるの!頑張って今日も生きてるの!と、自己弁護に必死になっている俺が、なぜこんなにも現実逃避をしているのか。冒頭でも触れているように、今日は俺がこれから通う学校「旧月高校」の入学式だ。中学の頃勉強が大嫌いで、だからといって不良をする勇気もなく、まじめに学校に行ってはいるが何のために学校に行くのか意味を見出せず、しかし学校をサボったり登校拒否をする事も良しとは思えず、超絶中途半端野郎。そんな俺だからこそ中学の成績は奇跡のオール2。もちろん、真っ当に勉学に励んでいた同級生達との差は歴然。俺に選べるだけの高校はなく、この旧月高校も中学の担任からは、「まぁ、合格できるかは怪しい」というありがたいお言葉を頂いたのだが、さすがは私立の最底辺高校。専願で、2学期末から受験日当日まで必死に勉強した甲斐があったのか見事合格!

 

なぜそこまで勉強嫌いの俺が高校受験に必死に勉強することができたのか?それは、旧月高校は元々女子高でここ10年で共学になった学校。中学時代に甘い恋愛体験など皆無だった俺は、それを聞いた瞬間から妄想モード突入!元女子高の学校には女子が多いはず!それならばいくらブサメンの俺でも、漫画の様な恋愛もできるはずだ!だってイケメンがどれだけ居ようと、重婚の認められないこの大日本帝国、1対1のお付き合いが基本じゃん?じゃあ、女子の多い学校ならブサメンの俺にもおこぼれ来るじゃん?ふはははっ!残念俺様勝ち組補完計画!確変決定!

しかし、その計画も入学式のこの地下鉄の中で頓挫。周りを見渡すと俺が着ている服と同じものを着ている人、多数。謎に目に付くのが男子生徒ばかり。彼らを見てみると…。怖っ!何だこのヤクザみたいな人たち。ホントに高校1年生?裏の社会1年生の間違いじゃない?

はぁ。マジで何を浮かれていたんだ?俺。すっげー馬鹿じゃね?つーか、ちょっと考えれば解るんじゃね?偏差値の低い学校ですよ?ヤンキーのたまり場だろ!甘い恋愛って何だ!辛い高校生活の方を何故考えなかった!考えられないほどに浮かれてたって、なんですか?約3ヶ月も必死に勉強してて気づかないって何してんの、俺?

やべっ。マジで嫌気が差しすぎて、お腹痛くなってきた。ちょ、駅に着いたら速攻便所ですな、これは。

とか何とか思っていると、隣に人が近づいてくる気配がある。誰だよ、こんな時に!俺は今、人間の尊厳を守れるかどうかの激闘中なんだぞ!空気読めよ!

チラッと恨みがましい目を向けてみると、そこには俺と同じ制服を着ている、セミロングで、ある程度の整った顔をしている女の子の姿が。


「やっ!海田君もこの地下鉄に乗ってたんだね!」


この子、何で俺の名前知ってるの?つーか、とりあえずは可愛いといわれるであろう容姿してるのに、俺と同じ制服って事は、残念な成績なのか?残念な頭の子って事か?容姿だけ良くても、学校が旧月高校なら、残念な高校生って事だぞ!


「???もしかして、私を忘れてる?受験の時に、一緒に行った仲なのに…」


一緒に受験した?いや待て、俺は自慢じゃないが女子と話すときは自意識過剰に舞い上がる奴だぞ!女子に話しかけられただけで、「こいつ、俺に惚れてるな?」とか、本気と書いてマジで思う奴だぞ?そんな俺が、女子と一緒に受験したなんて、リア充的なイベント、忘れるわけがねぇ!大体にして、受験の日は隣のクラスのたいした親しくない男と一緒に…ま、まさか!その年で工事しただと?な訳あるかっ!あのチビでブサメンの男が、2ヶ月会わなかった程度で、こんなに素敵容姿に変わって、ついでに性別まで変わる訳あるかっ!変わるわけあるなら、俺も素敵容姿に変わるわっ!工事はしたくないけどな!

でもそうすると、この子誰だ?本当に心当たりがないぞ?推理してみよう。金○一君のように、華麗にな!


「いやいや、まさか!忘れるわけないですよ?一緒に受験行ったんだから!」


さて、どうにかして思い出さなければ!


「受験の帰り、海田君、付き合い悪いから、結局あの後みんな解散したんだよ。」


帰りって、行きじゃないじゃないか!さっき一緒に行ったって言ってたじゃん!最初から嘘かい!そんなんじゃ推理できるわけないじゃん!じっちゃんもびっくりだわ!つーか、俺が行かなかったからって解散するってどういう事?中学の時なんて自慢じゃないが、女子には嫌われ者だった俺にそんな影響力ありませーん!絶対みんな帰りたかっただけだよ!「どっか寄ってかない?」って発言した青井さん(中学同級生、女子)も、あれ本気で言ってなかったよね?寧ろ俺の方を見て、「お前には言ってねぇーよ」オーラ満開でしたよね!つーか、マジでそろそろ肛門が限界近いけど、俺大丈夫?

無言で居ると、諦めた様に「高橋マカだよ。4組の。真夏って書いてマカだからね!まなつって呼ばないでよ?トラウマなんだから。あと海田君、嘘つくとき敬語で早口になるって中学の頃の男子に聞いたことあるよ。」


そのジト目辞めて。心が痛いから。


真夏って書いて、マカね。ああ、そういえばそんな事を受験帰りの道すがら、話していたのが聞こえてたな。


「勿論覚えてますよ!真夏ちゃんでしょ?忘れるわけないじゃないですか!」


「また敬語で喋ってるし。あっ、ゴメーン!お母さん、隣の車両に置いてきぼりにしてきちゃった!戻るね。」


お母さん?そうだよねそりゃ、お母さんも一緒に居るよね!だって入学式だもの。うんそうそう、普通はいるいる。

チラッと吊革から手を離し、後ろを見てみるとそこには凄く暖かい眼でこちらをニヤニヤと見ている、50過ぎのおばさんがいた。親指立てんなよ!その親指折るぞ、マイマザー!


「いやー、可愛い子だねぇ!あんな子あんたの知り合いに居たの?あっ、友達と言わずに知り合いって言ったのは、あんな可愛い子が、あんたの友達になんかなる訳がないって母さんでも解るから、敢えてだから。」


殴っていいですか?


「何でもいいけど、早く駅に着いてくれないと、漏らしそうな位、腹痛い。」


「あんたが何でモテないか、母さん解った気がするわ。」



無事に尊厳を失う事なく、駅のトイレでスッキリサッパリした俺は、てくてくと住宅街を歩き、丘の上に立つ旧月高校へ。とりあえず、学生玄関の前に張り出されていたクラス表を確認。俺は1年9組のようだ。

それにしても気のせいかな?周囲の男子の比率がやたらと多く思える。それもみんなヤンキーみたいなのばっか。きっと、女子はこのヤンキーみたいな男子共が怖くて、先に教室に行ったんだな。俺も怖いからさっさと1年9組に行こう!目を合わせたらカツアゲされそうだしな。

母親は保護者待機室だかに行くので、ここで別れる。廊下を歩き、1年9組へ。教室にはもうかなりの人数が席に着いていた。黒板に座る場所が書かれている。あれ?女子の数が?気のせいか?きっと気のせいだ。気のせいだと思い込もう。じゃないと心が折れるぞ。俺。

黒板に書かれている自分の席に座り、教師が来るのを待つ。ひたすら待つ。隣の奴等とは目を合わせないように、話しかけられないように、姿勢を正して待つ!だって、怖いんだもの!入学式だよ?初めて来る学校だよ?それは、俺以外もそうだよね?つまり、慣れてない学校って事だよ!慣れてない学校って事は、せめて常識の範囲内で校則的な物は守ろうとするのが一般的だよね?なのに、何で前後左右の奴が髪の毛金髪とか、茶髪なの?ここは外国か?日本だよ?マジかよ、こんなの漫画の中だけの世界だと思ってたよ!俺は確かに漫画の世界に行きたいと思ってたけど、それは、To○oveる的な漫画の世界であって、ク○ーズ的な漫画の世界に行きたいとは思ってないぞ!ここはカラスの学校かっ!

とか何とか思ってる内に、担任の教師であろう人が教室に入ってきた。おいおい、70歳位の爺さんじゃねぇか。大丈夫かよ、この爺さんで。このヤンキーしか居ないような高校でこの爺さんがまともに授業できるの?


「皆さんの1年間担任教師を勤めさせてもらいます、白川です。私は3月まで佐上高校で教師をしていましたが定年退職して、今年この学校に赴任してきたばかりです。皆さんと同じ一年生なので、この1年、よろしくお願いしますね!」

定年退職って事は、65歳か?同じ一年生って…。佐上高校って言うとこの市内じゃ指折りの進学校じゃないか。そんな坊ちゃん嬢ちゃん校から、ヤンキー校に赴任してくるとは…。大丈夫か?生徒にナメられるぞ。まぁ、俺は人の心配してる場合じゃないが。


それにしても、いい加減に認めよう。何で元女子高なのに、こんなに女子が少ないんだ?一クラス50人中10人位しか女子が居ないじゃないか!しかも、殆どヤンキー系!女子まで怖いのかよ!既に自主退学したくなってきたぞ、入学式前に!中学の頃に見ていた妄想は、本当に露と消えたな。何故かって?それはね…人の事言えないけど、みんな不細工なんだよ!普通、クラスに一人くらいは「おっ!」って思う娘いるよね!何で居ないの、このクラス。でもその割りに「怖っ!」って思う娘は10人位居るよ!ほぼ全員じゃねーか。

打ちひしがれているうちに、入学式が始まるらしく、体育館へ移動。いやぁ、やっぱりどこのクラス見ても、ヤンキーみたいな生徒ばっかりだよ!俺、本当になんでこの高校に入学してしまったんだろう?後悔しかないな。校長の話も例にもれず長いし。なんでこのヤンキー達は大人しく話を聞いてるの?二次元の世界の様に暴れたりしないの?いや、暴れたら暴れたで引くけどね。暴れないだけ、ちゃんと三次元してるって事か。

長い校長の話が終わった後は、生徒会長の挨拶。おおぅ!生徒会長は見た目は普通だ!ヤンキー校なのに、普通の風貌だ!なんか、救いの手が見えた気がする!ちゃんと挨拶してるし!これで天上○下の様に「この学園は戦国パラダイスだ!」なんていうような生徒会長だったら、確実に自主退学してたね俺。



入学式も無事に(漫画やアニメのように乱闘騒ぎなくて本当によかった!)終わり、下校しても良いとの事なので、誰かに話しかけられない内にさっさと学校を出てきた(逃げ出してきた?)俺は、母親を待つこともなく、一人で地下鉄の駅へ。誰よりも先に帰り始めた筈なのに、駅にはもう俺と同じ制服を着た奴らが沢山いた。来たときは怖くて周りを良く見ていなかったが、少ない中にも可愛い女子が居るようだ。可愛いけど、やっぱりチンピラの隣に居る頭の軽そうな女の子みたいなのが多いけど、それはまぁ外見が良いからよしとするか!そうでも考えてないとこれからの3年間がお先真っ暗にしか思えないからな!プロは自分を慰める術を知ってるのだよ!(何のプロだよって突っ込みはするなよ!)

おっ、あそこに居るのは真夏ちゃんじゃん。2人の女子と一緒に帰ってるよ。もう既に友達作ったんだな。その友達もうちの高校の例に漏れず、頭軽そうな女子だが…。楽しそうに帰ってるのを見ると、外見は怖そうだが、割と普通の女子なのかもな。ちょっとだけ認識を改めて、この学校に通ってみてみるか?俺の取り柄はまじめに学校に通うことくらいだしな。警戒心だけは無くさずに、だからといって偏見は持たずに旧月高校の生徒達と付き合っていければ一番だよな。


「でもさぁ、やっぱりこんなバカ学校の校長でも、中学の頃の校長と変わらない話の長さでうんざりしちゃった!誰もお前の話なんか聞いてねぇっての!」


「それマジうける!ホント、どこの校長も一緒なんだね。入学式、サボればよかった!」


「いや、サボっちゃダメでしょ!」


「でも、あたしら、中学のときの全校集会とか出たトキないし!真夏は出てたの?まじめだねぇ。」


「そ、そうなんだ。私は出てたけど、別にまじめって言われるほどの事じゃ…」


「スッゲー!真夏、全校集会とかちゃんと出てたんだ!ウチなんて、集会は極悪会の集会くらいしか出てないし!」


「ご、極悪会?の集会?なにそれ?」


「族だよ、族!ボーソー族!極悪会の集会には良く出てたよあたしも!」


「そ、そうなんだ。」


うん、真夏ちゃんがドン引きだな!俺もドン引きだわ!友達は選べよ、真夏ちゃん!あと、心許しそうになる前に、現実を見せてくれてありがとう!やっぱり、心の鍵はちゃんと閉めておかないと、ヤられるな!精神的にも肉体的にもな!

中学の勉強は大事だったな。深く反省しよう。ああ、叶うなら中学の頃に戻って、勉強し直したい!今なら、嫌いな勉強ともちゃんと向き合える気がする!それが叶わないなら、いっその事、剣と魔法が全ての異世界にワープさせてくれ!お願い、神様!


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