間章 奴隷だった少年
気がついたら暗い所にいた
「ウゥ……」
周りに誰か居るのはわかる
けどそれが誰なのかはわからない
「ワゥ……」
お父さんは?お母さんは?
知ってる匂いがしない
知らない匂いしかしない
「こいつか?」
「へい、ウルフ族のガキです!まだ3歳ですから調教のしがいがありますよ!」
「うーむ……どうするかな……」
「ウゥ……」
「随分弱っているな」
「連れてきたばかりですからね」
「そんなのがもつのか?」
「お安くしますよ!」
「うーむ」
「…………」
何を話しているのかわからない
けど嫌な感じしかしなかった
・・・・・・・・
数年後、自分が奴隷だというのを理解した
奴隷とはいたぶられる存在
見下される存在
自分がそんな存在なのを理解した
「ふん、この役立たずが!」
そう言って前を歩くのは自分のご主人様だ
自分は全然売れずにいた、それで苛立った奴隷商人に格安で売り飛ばされてここにいる
このご主人様も奴隷商人と同じだった
何かあれば殴る、蹴る
食べ物を貰えないことはよくあることだった
「旦那様には内緒ですからね?」
ご主人様の秘書をしてる人がたまに自分に食べ物をくれた
この食べ物がなかったら自分は死んでいたかもしれない
・・・・・
「………」
ドサッ!
ご主人様に言われて林檎を運んでいると身体の力が抜けて倒れてしまった
林檎……拾わないと……
「大丈夫かい?」
見たことない人が林檎を渡してくれた
「ウッ………」
「立てるか?」
見たことない人が自分を立たせてくれた
「ゴメン…ナサイ…」
「謝ることはない、拾うの手伝うよ。」
見たことない人が林檎を拾ってくれた
自分は林檎の入った籠を持ち上げて運ぶ
「ハァ、ハァ」
届けないと………
・・・・・・・
「足りん!林檎が足りんぞ!!」
そう言ってご主人様が自分を殴る
「貴様林檎を食ったな!」
「ウゥ……」
自分は食べてない
そう言おうとしたけど
「なんだその目は!!」
バキィ!
殴られる
「罰を与えるしかないな……」
ご主人様がニヤリと笑ってそう言った
・・・・・・
嫌だ嫌だ嫌だ!
「ウゥ…」
自分は大きなモンスターに襲われている
なんで襲われているのかわからない
ご主人様にここに行くように言われたから来ただけなのに
転けてしまった
モンスターが迫ってくる
あぁ、死ぬんだ………
そう思って眼を閉じたら
「生きてるな?間に合ったな?!」
そんな声が聞こえた
「ガッ?・・・・・」
「よし!生きてるな!チョコ!」
「クエッ!」
ポイッ!
「!?」
鳥にいきなり咥えられて投げられた
ドサッ!
「よっと!」
投げられて男の人が自分を受け止めた、昼間の人だ
「ウウッ?」
自分は訳もわからず男の人を見る
「色々起こって混乱してるかもしれないからこれだけ言っとくよ、俺は君を助けに来た!」
助けに来た・・・奴隷である自分を
自分は混乱しながらもその事実を理解した
「ウウッ・・・ウウッ!」
そして理解したと同時に泣いた
「もう大丈夫だからな・・・取り敢えずチョコにしっかり掴まっとけよ!」
自分は助かったんだ
・・・・・・
その後、男の人がモンスターを崖に落として倒した
ナッツの都に戻ったら男の人は鳥を走らせてお店の前で止まった
「おいで」
自分の手を握ってお店に入る
お店の中には秘書の人がいた
男の人と秘書の人が何か話している
秘書の人が紙を男の人に渡した
男の人は紙を破って燃やした
「ふーん……いい人に拾われましたね」
秘書の人が自分に言った
・・・・・・
別の建物に連れていかれた
建物の部屋に連れていかれて着ていた布を脱がされた
叩かれる!そう思って身体が震えた
そうしてたら男の人も服を脱いで裸になった
そして部屋の中にある別の部屋に一緒に入って座らせられた
そして水をかけられた…………この水、全然冷たくない?
温かい?
その後はブクブクしたので身体がブクブクになって
また水をかけられて
何回か繰り返した後に部屋を出て、フワフワな布で身体を拭かれる
そして男の人が服を少し切って自分に渡した
どうすればいいの?
「着方がわからないか?」
そう言って男の人が自分に服をきせた
「アッ……ウゥ……」
訳がわからないでいると
「取り敢えずこれ食って寝ろ、明日から色々教えるからな?」
男の人が何かを渡してきた
……なにこれ?
「食べていいぞ?こうだ」
男の人が似たような物を囓る
自分も真似をする
ジュワ
口の中に何かが広がる
「ウゥ!?アッ、アッ!?」
僕は男の人と物を交互に見る
そして物を囓る
おいしい!おいしい!!
食べ終わったら男の人が僕をベッドに寝かせた
初めて乗るベッド……柔らかい……
「ほら寝ろ、もう夜遅いからゆっくり休め」
男の人が自分を撫でる
安心する……ドンドン……意識が…………………
・・・・・・・
朝が来た
男の人が僕の手を握って建物の広いところに連れてきた
そこで座らされて、男の人が別の人に何か言う
少ししてから見たことない物が自分の前に置かれた
あ、これ……秘書の人が分けてくれたのと似てる
男の人の真似をして物を食べる
「アゥ……ウァ!」
おいしい!!凄くおいしい!!
・・・・・・
そのあとは別の建物に連れていかれて服を買った
大きさから見て自分の服みたい
何個も着せられた……
ボロボロの布じゃないんだ……
僕……この人の奴隷なんだよね?
朝居た建物に戻った
「さてと、坊や!君にはこれから言葉や文字やらなんやらかんやら教えていくからな!!」
「?」
男の人はそう言って自分に色々話した
最初は理解できなかった
何を言ってるのかもわからなかった
数日経った頃、やっと言葉というのを理解してきた
自分がこうして考えることが出来たのも、知らないうちに言葉を覚えていったからだって男の人……カケル様が言った
それから更に数日経って
「コンニ……チワ……」
「こんにちは!」
挨拶を覚えた
更に数日経って
「これハ……ナイフ……デス」
「よし!いいぞぉ!」
カケル様は自分をよく撫でてくれる
上手くできた時は凄く撫でてくれる
駄目なときも優しく撫でてくれる
この人の奴隷になってから……一回も痛いと思うことは無かった
・・・・・・
1ヶ月経った頃
「これは……リンゴ……です」
僕は林檎を指差す
「正解だ!」
カケル様が撫でてくれる
「さて、そろそろ聞けるかな?」
カケル様がそう言って自分を見る
「?」
「坊や、君の名前はわかるかな?」
名前?…………
「あれ、それ、これ、奴隷、役立たず、犬、」
「全部名前じゃないな……」
自分に名前なんてない……
「名前が無いんだな?」
「……はい」
「なら今日から君の名前はシルバだ!銀色の眼をしてるしな!」
「……シルバ?」
名前?えっ?シルバ?
自分の……名前?
「そうだ!…………あっ、嫌だった?」
「嫌じゃ、ないです……」
名前……自分の……名前!!
シルバ!!シルバ!!
カケル様から名前を貰えた
・・・・・・・
名前を貰ってから数日後
「カケル様……計算……できました」
「よし、採点するぞ…………………よし!満点だ!!よくやったシルバ!お前天才じゃないのか!!」
自分を撫でるカケル様
「カケル様が……教えてくれたから……」
「……あー、シルバ?そろそろその『カケル様』はやめてほしいんだが?」
「?シルバは、カケル様の奴隷だから……」
「あのなシルバ……君はもう奴隷じゃないんだぞ?証明書も燃やしたし」
「でも……シルバは……」
自分は俯く
だったら自分は、僕はなんなの?
「…………うーん……そうだな、シルバ」
カケル様は僕を持ち上げる
「あのさ、もし自分の立場がわからないって言うんなら……その、なんだ……あぁ!言うとなると結構恥ずかしいな!!」
カケル様が顔を赤くする
そして自分の目を見て
「シルバ!!お前は俺の弟だ!!」
「おと……うと?」
「弟だ!わかる?俺の弟!俺はにいちゃん!」
「にい……ちゃん」
弟……にいちゃん
昔、見たことがある……少し離れた檻に入れられていた兄弟を、お互いに助け合って、支えあって……凄く羨ましかった
「にい……ちゃん?」
「そうだ!俺はお前のにいちゃんだ!!」
胸が熱くなる
「にいちゃん……」
「あぁ!」
「にいちゃん」
「なんだ?」
「にいちゃん!!」
「どうした弟よ!!」
「にいちゃん!!」
「っと!」
僕はにいちゃんに抱きついた
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
そしたら何故か涙が出てきた
悲しくないのに、嬉しいのに
涙が出てきた
「……よしよし」
にいちゃんが僕を撫でてくれる
こうして僕に、にいちゃんが出来た
・・・・・・・
「よし!にいちゃーん!チョコ出したよー!!」
「おーう!!」
僕はにいちゃんに買われてから色んな物を貰った
最初に命を助けて貰った
自由を貰った
名前を貰った
弟として……家族を貰った
そして
僕は胸元を擦る
数日前まではそこには奴隷の焼き印があった
今も焼き印はある
でも、それは奴隷の焼き印じゃない
にいちゃんが考えてくれた兄弟の印だ
奴隷の焼き印の上に新しく焼き印を入れたのだ
凄く痛かったけど、僕が冷やしてもらってる間に、にいちゃんも背中に同じ焼き印を入れていた
そして焼き印を冷やしながら僕に言ったんだ
『これが、俺達の兄弟の証だ!もう誰にも馬鹿にさせないからな!!』
嬉しかった
「ほらシルバ!」
「うん!」
にいちゃんが僕を前にするようにチョコに乗せて抱き締める
「よし!出発!!」
「出発!!」
「クェー♪」
僕達はナッツを出た
僕はにいちゃんについていく
何処までも何処までも
いつか、この恩をにいちゃんに返す為に
もっと強くなって……にいちゃんを僕が守るんだ!!




