リュードさんの教え、その2
俺は考える
「さて、どうしたものか……」
さっき投げた斧が尻尾の先端に当たった時の音からしてかなり硬い
そして………
「シャアアア!!」
あの甲殻………斧じゃ傷一つつかないかも
「チョコの走りで勢いをつけながら斧で斬るか?」
いや、弾かれるな
「チョコ!あの蠍の周りを走ってくれ!その間に考える!」
「クエ!」
ドドドドドドド!!
蠍の周りを走る
どこか弱点になる場所はないか?
6本ある足
さっきから突き刺そうとしてくる尻尾
顔の部分も甲殻で覆われている
「くそ、弓矢とか使えたら眼を狙うのにな………」
武器はフーラ村を出たときから使ってるこの斧と獲物を解体するナイフくらいしかない
「槍とかも買っとくべきだったか…」
槍術が使えるわけじゃないが、チョコの走りなら顔に近付いて眼を突き刺すくらいは出来た
「斧で潰すか?」
いやそれも無理そうだな、眼は顔から凹む様についている
飛び出していたら斧でも潰せたが、おの形状なら斧は眼に届かない
「どうする………こういうときは………思いだせ俺!」
俺は必死に思い出す、こんな魔物との戦い方もリュードさんから教わっているんだ!
・・・・・・・
『いいかカケル、旅に出たならお前は色んな種類の魔物と戦うことになる』
『はい!』
『魔物と聞いて何が浮かんだ?』
『ウルフ、それとスライムとか?』
『そうだな、だがそれだけじゃない、王都に向かうまでの道中にはスネークやパンサー、ゴブリンなんかもいるぞ』
『蛇と虎………あれ?ゴブリンって魔物扱いですか?この間村に来てましたよね?』
『あいつらは善良な種族だからな、一緒に商売したり薬を調合したり………だが悪党もいる』
『…………』
『山賊と一緒に活動するもの、村を襲撃するものもいる』
『…………そんな』
『そいつらにはウルフとはまた違う戦い方が必要だ、例えば鎧を着た奴もいる』
『斧が鎧で防がれますね』
『そうだ、だからそういう奴の相手は関節を狙え』
『関節?』
『ああ、首、肘、手首、腰、膝、足首、鎧のここらへんは隙間があるんだ、動きやすいようにな』
『つまりそこを狙えば』
『斧で斬れる』
『関節部分………』
『これは他のやつにも言える事だ、どんな硬い奴でも関節部分は柔らかい、じゃないと動けないからな』
『じゃあ、そこを狙える様に訓練しないと!』
『よし!なら早速だ!!』
・・・・・・・・
「そうだ、関節!そこなら斬れるはず!」
俺は蠍の足を見る……身体と足を繋いでる部分………足の付け根
「あそこか!」
あそこを斬れば………足を切り落とせる!
「チョコ!走れ!」
「クエエエ!!」
チョコが蠍に突っ込む
「シャアアアアアアア!」
蠍が尻尾をなぎはらう
「クエ!」
チョコがジャンプして尻尾を避ける
「ウウ!」
少年が揺れに驚く
「しっかり捕まってろ!」
俺は斧を構える
もうすぐ足下を通る
その瞬間に!
「はぁ!!」
俺は斧を振る
ザクッ!
斬りつけた感触、弾かれてはいないが
「切り落とせてはいないか………ならもう一回!!」
チョコを旋回させ同じ足に近付く
「ふん!」
ブン!
ザクッ!
さっきよりも深く斧が入る
「シャアアア!!」
「よし、次で切り落としてみせる!!」
もう一度チョコを旋回させた
ヒュ!
「クエ!?」
「うぉ!?」
チョコが旋回した時に蠍の尻尾が突いてきた
バキィ!
「えっ?」
今の音は?てか右手に一気に軽くなって………
俺は恐る恐る右手を………斧を見る
「おいおいおい!?嘘だろぉ!?」
斧の柄が折れて刃が地面に落ちていた
蠍の尻尾が斧の柄を折ったんだ
「やべぇ、武器が!!」
「シャアアアアアアア!!」
「クエエエエ!!」
「チョコ!突っ込むの中止!」
「クエ!?」
チョコが蠍に向かうのを止めて横に走る、蠍の周りをまたグルグル走る
「武器が無くなった!癪だが逃げるぞ!」
くそっ!倒すって言ってきたのにな!このまま戻ったら難癖つけられるが………武器がないのはどうしようもない!
「チョコ!あの森に突っ込め!」
「クエ!」
「シャアアアアアアア!!」
蠍が追い掛けてくる
平地なら撒けないかもしれないが森なら木々が邪魔をして逃げやすいはずだ
俺達は森に入る
バキィ!
バキィ!
ガサガサ!
ドドド!
考えが甘かった………
「そこまでするかぁぁぁ!?」
「シャアアア!!」
蠍が木々を尻尾でなぎ倒す
そして追い掛けてくる
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!」
「ウウ………」
少年が怯えている………そうだ、俺がこんなこと言ってたら怖いよな
「……………」
しかしどうする?このままナッツまで逃げたらあの蠍も突っ込んでくるぞ?
「んっ?」
走っていたら前の方の様子がおかしい
「………!?チョコ止まれ!」
「クエ!!」
キィィィィ!!
チョコが止まる
「崖!?」
俺は振り返る
「シャアアア!!」
蠍がドンドン迫ってきている
前には崖………少し高低差があって向こう側の方が低い
後ろには蠍………とてもじゃないが後ろに向かっても逃げ道はない
「こうなったら………チョコ!」
「クエ!」
「跳べ!」
「クエ!?」
「お前なら跳べる!信じろ!」
「………クエ!」
チョコが少し後ずさる
「シャアアア!!」
蠍がすぐ側に迫る
「クエ!」
ドドド!
チョコが助走つけて走る
そして
「クエ~!!」
「くっ!」
俺は手綱を握り少年を落とさないように抱き締める
ダン!
チョコが跳ぶ
「クエエエ!!」
ヒュウウウウ!!
風が耳を撫でる
今、俺達は空中にいる
下はかなり深い崖
落ちたら死ぬのは間違いない
向こう側には………届
ダン!
ドドド!
いたぁ!!
「しゃおらぁ!よくやったチョコ!」
「クエ!」
「シャアアア!!」
ダン!
「おま!?」
蠍も崖から跳んだ
嘘だろ!?
バキャ!
ドス!
ガラガラ
蠍の足が1本俺達の目の前の地面に突き刺さる
蠍は2本の足も地面に突き刺そうとする
「こいつも跳んでくるとか………」
どうする?どこかに武器になるものは………いやまた走って逃げるべきか?
ブチッ!
「ブチ?」
蠍の方からそんな音がした
ヒュウウウウ
グシャ!
「………えっ?」
蠍の姿が目の前から消えていた
あるのは地面に突き刺さる1本の蠍の足
「変な音がしたよな?」
「クエ!」
「ウッ………」
チョコも少年も聞いているみたいだな
俺はチョコから降りて崖に近付く
「…………………」
崖を覗く………暗くて見えないな
そう思っていたら月が雲から現れたのか月明かりに照らされた
「お!見えた見えた………」
崖の底がうっすらと見えた………あのピクピクしてるのは蠍だよな?
「落ちたのか?」
蠍は潰れているみたいだ………足が1本無い
「あそこは……俺が傷付けた部分」
そうか………さっきこっち側に突き刺した足は俺が付け根を傷付けた足か
その足が蠍が体勢を整える前に重さに耐えきれずに千切れて………
「た、助かった…………」
本気で怖かったな………




