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ポイズンリムーバー

私の娘はさあちゃんと申しまして幼稚園の年少さんでした

はじめての親子遠足でさあちゃんと手をつないでハイキングに行きました

小さなお山の広場でレジャーシートを敷いてお弁当を食べようとしたときに

さあちゃんがスズメバチに刺されてしまいました

他の子も刺されたようですが、さあちゃんだけがその場で死んでしまいました

さあちゃんは顔を真っ白にして口から泡を出していきなり死にました

私はこの日のために買ったピンクのシートに座ったまま

動かなくなったさあちゃんを抱っこしたまま震えておりました

アナフィラキシーショックだと誰かが言いました

人々が私たちのまわりを囲んで泣いておりました

私の記憶はそれきり途絶えました


気が付くと私はその広場で一人で座っておりました

私の手にはさあちゃんの写真と針のない注射器があります

これはポイズンリムーバーといって毒虫や毒蛇に咬まれた時に毒液を吸いだす便利なものです

さあちゃんがまだ赤ちゃんだった時に夫が買ってくれたものです

小さな蚊に刺されても刺された場所が大きく腫れる子だったので買ってくれたのです

虫に刺されたらすぐにこのポイズンリムーバーという吸引器で吸い出すといい

そうしたら腫れが少ないから操作も簡単だからとちゃんと用意してくれたものなのです

なのに私はそれを持ち歩きませんでした

虫よけスプレーで十分だと思っていたのです

あの親子遠足でも私はこれを持っていきませんでした

だからさあちゃんが死んだのは私のせいです

違うよ誰のせいでもないよ、スズメバチが悪いのだよと皆が言いました

でも私は自分を責めました……その方が私の気が楽だからです


天気が良いと私はあの広場に出向いてピンクのシートを敷いて座ります

スズメバチは私のそばに来ても決して私を刺しません

私はスズメバチに話しかけます

「あなたたち、さあちゃんを殺して満足でしょうどうか私も思い切り刺して殺してちょうだいな」

スズメバチはそんな私には何もしませんでした

あるとき、いつものように座っているとスズメバチに刺された子どもが泣いていました

私はその子に走り寄り手に持っていたポイズンリムーバーで毒液を吸いだし助けることができました

何度もお礼を言われて私の心に何か暖かいものが流れました

そうだ、私はこれを持っていれば私でも役立つのだろうね

私はこれを持って広場に座り続けました

いつのまにか私はポイズンリムーバーおばさんと呼ばれるようになりました

若い人は何でも言葉を縮めますね、略してポイリムおばさんですって!


ある日、誰かが私の前に立った。見上げると夫だった

夫は茶色のボールのようなものを持っていた

「見てくれ。ぼくはスズメバチの巣を除去できるようになったよ。

少なくともこの山にはもうスズメバチは出てこないよ」

私は「ありがとう」と言いました

やがて夫はスズメバチの除去人としてあちこちの人に依頼されるようになりました

夫はスズメバチハンターと言われました。略してスズハンおじさんです

私は夫についていくポイリムおばさんです

人の役にたって初めて私たちは、さあちゃんの死を乗り越えられるようになりました

私たちはいつでも一緒に手をつないで歩きます。新しい命が私のお腹にいます





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