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#20 終わりの場所 (4)

 僕は灰色の光景の中で、二人の女の子たちのことを考える。


顔に火傷の痕のある女の子のことを考える。

おそらく彼女は、世界が雪で覆われてしまうことを望んでいる。自分の火傷の痕はきっと、雪の中で消えていくと信じているのかもしれない。降り積もる雪が、たとえさらに彼女の顔に、消えることのない別の傷をつくったとしても。彼女は、粛清のように降り続ける雪を、ただ望んでいる。

僕は、それにこたえることができただろうか。

おそらくできたと思う。

僕はハヤサカを刺したことで、あの場所にも雪を降らせたのだ。

あのとき、おそらく彼女は喜んでくれたはずだ。これから彼女は、いろいろな場所で降る雪を見て回るのだろう。おそらく、一生をそのようにして過ごすつもりなのだと思う。

悪くない生き方だね、と僕は一言だけ言いたかったが、それはもう叶わない。


 そして僕は、瓦礫の丘に立ち、わがままばかり言っていた女の子のことを思う。

彼女はおそらく、僕のことを忘れるだろう。僕だけではなくヨダやハヤサカのことも。

それでも僕はかまわないと思う。でもいつか、彼女は自分のことも忘れて、わからなくなると思う。

それは、はっきりとしている。

そう思うと、僕は哀しみに胸を掻き立てられる。

 願わくば、どこかに「そんなにひどいことのおきない場所」があると信じ続ける時間が、少しでも長く彼女にあればいいと思う。

おそらく誰も、そんな場所はこの世界にはないんだよ、と彼女に教えてはくれないだろう。

彼女が自分でそのことに気づいてしまった時、彼女は自分のことがわからなくなる。

そして彼女の世界は終わる。

なんだかひどく切なくて、残酷なおとぎ話を空想しているみたいに思える。

だがそれはまぎれもない、真実の彼女の姿だ。

 

 僕は灰色の光景の中で、そんな彼女のことを思う。

出会ったばかりの頃を思い出す。

彼女は瓦礫の丘にのぼり、東の空を眺めていた。

あのとき、僕は彼女を瓦礫の下から見上げているだけだった。

 今、僕は彼女と同じ瓦礫の丘に上り、そのときの彼女の表情を捉えることができる。

 

 彼女は、誇りに満ちた微笑みを浮かべている。

あらゆる不安の影を、瞳の奥に完全に押し隠しているように、そこには、これから彼女の身に起こる幾重の破滅の示唆をみてとることができない。

彼女らしい、もの哀しい誇りがかたちづくる微笑みだった。

僕は彼女をみつめる。

そして、君は何も心配しなくていいんだ、というように、心の底から溢れる安堵や慈悲をこめて、彼女に笑いかける。


 彼女は驚いたように、僕に幸せそうに笑いかけてくる。




 

                        了



物語はこれで終わりです。

ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。


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