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#18 眼球、アイボリー、背骨 (2)

『いいんだ、お嬢。』


いびつな形にめくれ上がったヨダの唇が、動く。


『聞け、ミゾグチ。』


ヨダの声は、すでに声ではなく空気の塊のように脆く、不確かなものになっている。ひどく聞きとりづらかったが、僕は目を閉じて、すべての神経をもって耳

を澄ます。


『ハヤサカは、俺たちを利用していたんだ。あれは根っからの運動家だった。本当のハヤサカは、俺たちと共にはいなかった。最初からずっと、あれは別の組織の人間だった。』


ヨダはそこまで言い切ると、激しい痛みを泣いて訴える。

ぐしゅぐしゅとおぞましい音をたて、ヨダの唇から血液や膿の泡が噴き出す。ミヤガワさんはまるで自分が暴力を受けているみたいな、短い悲鳴をあげる。


『あいつは、さぞかし俺たちを馬鹿にしていたんだろうと思うよ。』


ヨダは地獄の苦しみの淵から、憎悪をこめて言う。真っ黒になった彼の顔の半分で、まるで別の意思を持ったみたいに、真っ白い眼球がぎょろぎょろとせわしく動いている。


『俺たちには秘密で、爆弾を爆発させたんだ。』


そう言い切ると、ヨダは声をあげて泣き始める。

そして、意味不明な言葉を喚き始める。それはもはや、正常な神経を焼き切られた人間の泣き方だった。顔面を焼かれた激しい痛みと、精神の拠り所に裏切られた絶望は、ヨダから人間らしさを奪い去った。くらべるものがないほど残酷な姿だった。僕は、ヨダの呪いのような意味不明な泣き声を聞くのが耐えられなかった。


でもおそらく、彼女は僕以上に壊れてゆくヨダを見たくないはずだった。

次第に車の中に酷い匂いが充満し始める。

僕の吐しゃ物の匂いや、ヨダの腐った肉の匂いだった。

 自動車が大きくカーブすると、僕の身体はシートの上で跳ね上がった。ぎしりと、身体が捻じ切られてしまうような痛みが走り、僕は悲鳴をあげる。僕は呼吸を整えながら、慎重に身体を仰向けに起こす。いたるところの皮膚の下から、尖った釘が突き抜けてくるような感覚が繰り返しやってきては、僕の神経を消耗していった。

僕の視点は静かに、アイボリー色の車の天井と、車の窓から覗く傾いた雪空を行ったり来たりした。

時折、僕たちを追いかけてきたみたいに、灰色の雪が車の窓を叩くのが見えた。頭の中には、あたたかい車のエンジンの音が継続して響いている。それは、僕とヨダ、彼女の鼓動の一音一音を、糸を紡ぐように繋げた、ひとつの大きなこだまのように聞こえる。


僕は灰色の雪が次々に空から現れる光景を、長い間、見ていた。


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