#16 花火、2020年、ナイフ (1)
16.花火、2020年、ナイフ
2019年の大みそかの夜、僕たちはホールに集まり、ハヤサカの演説のようなものを聞いた。ハヤサカは階段を昇り、高い場所から大きな渓谷を眺めるように、ホールに集まった30人近い若者たちを見渡す。
ハヤサカはネクタイを外し、ダークグレーのスーツという服装で、有望な若い政治家の選挙演説のように熱っぽく、あるいは冷静さを織り交ぜながら、はっきりとした声で語り始める。
『我々の活動は、この国に革命の機運をもたらそうとしている。それは、たしかだ。現在は、デモ行動、ビラ配布、グラフィティ・アートを使ったメッセージと、ささやかな活動に甘んじてはいるが、私は、2020年の活動の変革を確信している。』
ハヤサカは息をつく。何か大切なことに耳を澄ますみたいに。
『我々を支援してくれる組織がある。』
ハヤサカはこみ上げる笑いを噛み殺すように、誇りに満ちた表情を浮かべる。
『過去、我々は中国企業を爆破した。犠牲になった者たちへの冥福を我々は祈らなければいけない。だが、我々はあの日、この国の損なわれたものが、いくらかでも取り戻せたことを信じている。忌まわしい東南海大地震は、ただ奪い去るだけの破壊だった。だが、外国企業への爆破行為という破壊は、奪い去るだけのものではない。奪い去り、同時に取り戻すことができる。取り戻すことこそが、我々にとって、そしてこの世界にとって、もっとも大切なことではないか。だから我々は組織の支援を受け、もう一度、それをやる。』
ホールに、救済を求めるような激しい拍手とざわめきが起こる。
多くの若者が昂っている。
僕は、夜の渓谷の底から星を見上げるみたいに、茫然と階段の上のハヤサカを見ていた。
次第におさまっていく拍手の音は、今まさに過ぎ去っていく2019年に向けて、送られているようにも思えた。
どことなく、僕にはそれが寂しい音に聞こえていた。




