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#15 仮眠、2019年、サンドイッチの中身 (3)


 2019年が終るまでの1週間、僕はミヤガワさんとヨダ、そして同志と呼ばれる人たちと行動をともにすることになる。

同志と呼ばれる人たちは、みんなミヤガワさんと同じくらい若く、どこかの大学生だったらしい。とはいえ、その中では僕が一番の年少であることには違いなかった。ヨダがリーダーのような役割をして、自動車を運転する。夜になると、僕たちは車に乗り込み、山を越え、いろいろな場所にでかける。その場所は、官公庁の建物であったり、外国企業の建物であったり、公共の駅や公園であったりした。

そして、たいがいいつも、僕とヨダが見張りに立ち、同志たちはそこにあるいろいろな壁に、グラフィティ・アートを描いた。真夜中、雨が地面を打つ音にまぎれて、スプレー缶をカラカラと振り、同志たちは素早く無駄のない動きで、千切れた獣の残骸のような、不気味な文字を描いてまわる。僕にはその価値がよくわからなかったが、ミヤガワさんが、とてもかっこいいわ、と感動していたので、僕もあわせることにした。

海外企業の建物の壁には、【EXPLOITATION IS NOT PERMITTED】搾取を許さない、【LEAVE FROM JAPAN】日本から去れ、だとかの抗議のメッセージを描き、官公庁の建物には、【FOOL】愚か者、【NO ONE FOLLOWS IT】誰も従うな、などの警告のメッセージを描いた。

そして公共の壁には、【RECAPTURE IF IT IS DEPRIVED】損なわれたのなら奪い返せ、と描いた。


ミヤガワさんはすぐに他の同志たちと仲良くなり、素人のくせにグラフィティ・アートをやってみたいと言い出した。それでもしばらく練習すると、彼女はまさしく才能をひきだされたみたいに、大胆に鮮やかにグラフィティ・アートを描き始めた。僕は少し悔しい思いをしながら、暗闇の中で踊るようにしてグラフィティ・アートを描く彼女の後ろ姿を眺めていた。

明け方になり、僕たちの住処に戻ってくると、シンドーが温かいコーヒーやサンドイッチを作って待ってくれていた。ミヤガワさんや同志たちは、その夜の成果を誇り高そうに語り、美味しそうにサンドイッチをかじった。僕は会話の輪にはいることができず、適当に心無い相槌を打ちながら、同じようにおどおどとしているシンドーの隣によく座った。

ミヤガワさんたちが大きな声で、国や外国企業をけなしている傍らで、僕はサンドイッチの中身について、シンドーによく質問していた。


そのようにして、2019年は終わろうとしていた。


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