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#14 妄想、火傷、サンタクロース (1)

 14.妄想、火傷、サンタクロース

 

 時刻は、午前2時を回っている。

『部屋を用意しているので、休んでいきなさい。』

ハヤサカがそう言ったので、僕はようやく、ソファから立ち上がることができた。背中には出血したように生暖かい汗が張り付いている。

ヨダは、まだ話がある、と言い、部屋に残った。

 部屋をでると、『シャワーが使える。』と、シンドーが僕とミヤガワさんを案内してくれる。長い廊下を、二人の女の子とともにシャワーに向う状況に、僕はそわそわとして落ち着きをなくす。歩いてきた廊下を戻り階段を降りて、1階のホールまで戻ると、シンドーはホールの奥を指さす。

『向こうのドアを開けると、渡り廊下があって、浴室。』と、シンドーが顔を赤らめながら、たどたどしく言う。他人と会話することに慣れていないらしい。『私、ここで待ってる。』

ミヤガワさんは、シンドーの赤みがさしたままの顔をのぞきこむようにして訊く。

『あなたも、いっしょにはいらないの。』

あなたもいっしょにはいらないの。僕に向けられたセリフみたいに聞こえて、僕はたったひとりで妄想に悶える。シンドーは顔をあげて、ミヤガワさんの目をひとしきりみつめてから、ふるふると首を横に振る。

『ここにいないと、いけない。』

ミヤガワさんは、そう、とシンドーに親密そうな相槌を送ってから、僕の方を見る。

『じゃあ、行こうか。』

彼女の唇には微笑みがひっかかっているが、表情は暗い。

 僕とミヤガワさんは、ホールの奥のドアを開け、暗い渡り廊下を抜け、別棟になっている浴室まで並んで歩く。浴室の入口まで辿り着くと、当然のことながら、【男】と【女】の暖簾があり、入口はふたつに別れている。正直なところ、僕はがっかりとする。そして何を期待していたんだと、自分の馬鹿さ加減に呆れる。当然のごとく入口で僕はミヤガワさんと離れる。

誰もいない脱衣所で衣服を脱ぎ捨て、裸になるとまた、一枚の壁の向こう側

ではミヤガワさんも、僕と同じように裸なのだと妄想した。頭を脱衣所の柱にがすがすと打ちつけ、僕は自分の暴走を鎮めようとする。気を取り直して、浴場へのガラス戸を引く。

 そこはタイル張りの大浴場だったが、お湯は張られてはいなかった。それどころか、ひどくひんやりとしていて、誰も使っていないがらんどうの部屋のような場所だった。仕方なく手前に並んだシャワーコックを捻ると、勢いよく熱いお湯が飛び出してくる。最初は熱い、と叫びそうになったが、そのお湯の小さな滝のような流れは、凄まじく心地良かった。

 僕は身体全体にお湯を染み込ませるように、長い間、そのお湯を浴び続ける。まっ白い湯気がささやかなお祭りのように辺りに立ち昇り、早朝の霧のようにふわふわと、裸の僕を包む。そこで再び、僕は湯気の向こうにある彼女の裸を妄想した。それはもう、止められないのだ。僕はシャワーヘッドでがすがすと自分の頭を殴りつけて、妄想を掻き消す。そろそろ頭から血が飛び出しそうになる。


 着替えがなかったので、丁寧に身体を拭いたあと、しばらく裸のままで身体を乾かす。それから仕方なく、着てきた下着と衣服をもう一度身に着ける。微かに気持ち悪かったけれど、それでも幾分、すっきりとした。26時を過ぎているのに、今日という日を、もう一度やり直すみたいな感覚になった。


 僕は浴室を後にして、渡り廊下を歩き、1階のホールまで戻ってくる。ホールには、30分ほど前に別れたばかりの格好で、シンドーがひとり立ちつくしている。

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