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#7 蟹工船、ラジオ、獣(けもの) (1)

7.蟹工船、ラジオ、けもの


 投石事件があった日から、ヨダが姿を消した。


あれ以来、ヨダはハヤサカという男といっしょに、どこかにいってしまって戻ってこない。僕は小屋の中でひとりきりになり、窓の向こうで降り続ける雨をぼんやり眺めることが多くなった。時折、ヨダにもらった【小林多喜二の蟹工船】の文庫をぱらぱらとめくった。活字を追うのに疲れると、僕は目を閉じ、雨の音に耳を澄ました。遠くから、眠りが長い時間をかけてやってくる音が聞こえてくるような気がした。穏やかな地響きみたいに。

 僕が眠りを貪り始めると、誰かが小屋の戸をどんどん叩いた。それは僕に腹を立てているような音に聞こえた。僕はベッドから時間をかけて降り、入口の戸を開ける。小屋の中に、雨のにおいと雨の音が滑らかにはいりこんでくる。


『こんにちは、ミゾグチくん。』


戸を叩いていたのはミヤガワさんだった。彼女は薄いブルーの傘をさし、ターポリン素材の大きなショルダーバッグを肩から掛けて立っている。僕は思わず笑う。純粋にさみしくて、そして純粋に彼女に会いたいと思っていたからだ。

彼女は僕をまっすぐに見て言う。僕の心の動きを見極めようとするみたいに。

『今から、いっしょに来て欲しいんだけど。』

彼女のまつげが震えているのがわかる。『おねがいできるかな。』

僕は、もちろん、と笑顔のままで頷く。

彼女はお礼をいうしるしに微笑んだが、すぐに何かを深く考えるみたいに静かな表情になる。僕は急いで、古く真っ黒いレインコートを羽織り、入口にたてかけてあった黒い傘を手に取った。


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