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T-Eater  作者: しらたき
第1章
2/2

1 ツイは盲目

「おー、伸びてる伸びてる!」


 中学に通い始めたばかりの言野健斗は、自分の部屋でスマートフォン片手に興奮気味につぶやいた。

 ちなみに、ただいま午前三時である。良い子はみんな寝る時間だ。

 健斗が今していることは、自分が思ったことや体験したことを、主に身内に、さらには、あったこともないような見知らぬ人に、果てには世界の人々につぶやいて拡散できるという、情報共有のSNSアプリだ。

 このアプリの存在は、同じクラスにいた、小三からスマートフォンなるものを持っているやつから紹介されたもの。そいつはもう三年間くらいそのアプリをやっているのだという。中学入学の時に買ってもらってから、そいつに「何か面白いアプリはない?」と聞いて、すぐに紹介されたのが、このアプリだった。

 その時の健斗は、こいつが言うんだったら面白いのだろう、と、特徴だとか、危険性だとか、そういった知識は皆無の状態で始めて、今に至っている。


「やっぱりな! 面白いよなこの俺のつぶやき!」


 そうこうしている間にも、健斗のつぶやきは、どんどん世界に拡散されていく。健斗も、それを見てベッドの上で嬉しそうに跳ね上がった――と同時に、ぴたりと止まった。

 危ない、また怒られるかもしれない……。

 ベッドで飛び上がったりしたら、下の階で寝ている両親が起きて、絶対怒りに来る。健斗はそう思ったのだ。


「おおっ! また伸びてる!」


 このひと暴れの間にも、百人くらいからの反応があった。このことで、健斗はさらに上機嫌になり、今度はベッドの上を何回も転がる。確かに、転がるだけなら、何も音はせず、両親が起きる心配もない。



 そう、この『他者の反応』こそが、このアプリの面白いところのひとつなのだ。

 自分がつぶやいたことが、それを見たユーザーの心に響いたとき、そのユーザーは、自分の思いを反応で返すことができる。

 ただ、この選択肢を取ることができるのは、つぶやいている人を『アプローチ』した人だけだ。いいかえれば、自分がつぶやきを送る端末の中で、『この人のつぶやきは見ますよ』と、設定をした人だけ。だから、つぶやいたからって、瞬時に世界へ拡散されるわけでもない。となると、必然的に、アプローチする人は、周りにいる同じアプリを持っている知人や、自分の好きな芸能人ということになる。

 ただ、健斗の場合は、まだこのアプリを初めて余りたっていないため、アプローチされている人は少ない。ただ、健斗は自分のつぶやきを見てほしいという一心から、誰とも知らない人を半ば適当にアプローチしていたため、それに答えるようにアプローチを返してくれた、どこの誰ともわからない人たちが、健斗のツイートを見られる状況にあった。

 さて、ユーザーの反応については三つの選択肢がある。

 一つは、メッセージを送ること。

 面白いです! とか、なんでこう思ったの? とか、自分がそのことに興味を持っているということをアピールできるのだ。

 一つは、ニッコリ。

 これは、メッセージとは違って、ボタンひと押しでいい。自分があるつぶやきを気に入ったら、そのつぶやきの下にあるにっこりマークのボタンを押しさえすれば、相手に『お気に入りされました』の通知が来る。ためになったり、笑うことができたりしたときに押すボタンだ。

 そして、もう一つは、拡散。

 これは、お気に入りのボタンの隣にある、放射状に広がった線のボタンを押すことによって実行できる。このボタンを押すと、そのボタンを押した人が、つぶやいた人と同じつぶやきをしたことになる。

 なお、この拡散のミソとなるのは、『拡散したユーザーをアプローチしている人にも、つぶやきが伝わっていく』ということ――つまり、このつぶやきを、自分をアプローチしている人たちに共有したいと思った時に取りうる選択肢ということだ。これによって、世界へと拡散されていくつぶやきが、日々生まれている。



「やべぇ、もう千人も拡散してるよ!」


 興奮気味に叫んだ健斗のスマートフォンに表示されているのは『1000拡散 60ニッコリ』の文字。そして、今現在も、拡散されましたの通知が絶え間なく受信されている。

 本当に面白いつぶやき、というのは、多くの場合、ほかの人に共有したいという気持ちが芽生えて拡散されるものである。ただ、ほかの人が同じ瞬間に一斉につぶやいたりして、あまり人の目に触れられなかったために拡散されずに終わるなど、時と運にもよるものだが。

事実、健斗のところにも、どこのだれかがつぶやいたかもわからないようなつぶやきが端末上に表示されることがあるし、たいていそのつぶやきは面白い。詳細を見ると、拡散した人の数が二千、多い場合で七万など、非常に多くに人に見られていることがわかる。



 健斗も、そんなつぶやきがしたかった。



 だから彼は、自分が面白いと思うようなつぶやきを何回も何回も送信し、反応をうかがった。

 しかし、なかなかみんなに拡散されるようなつぶやきをすることができず、健斗はむきになって、寝る間も惜しんでスマホに向き合うようになっていった。

 まず、学校に登校するときには、何か写真で面白いネタがないかを模索する。だから、通学時間も気を抜くことはない。下校時刻の時は言うまでもないだろう。

 授業中と家にいる時間は、面白い文章を考える時間。授業内容や宿題については、消費する労力を最低限にしていた。

 そんな生活をしているうちに、自分が何気なく思ったことや、少し気になったことをただ意味もなく送信し続けるようになり、彼にとって、このアプリは自分の体の一部とも呼ぶべきものになっていた。


「やっぱり、このつぶやきが面白すぎたんだな……フフフ」


画面に映っているのは、『2000拡散 100ニッコリ』の文字。

ずっと待ち望んでいたこの瞬間。

このアプリにほぼすべてを費やしてきた。その苦労が報われた瞬間だった。



 健斗は笑みを浮かべた。



 ――全裸の状態のままスマートフォンで自分の大事なトコロを隠した写真を見て、満面の笑みを浮かべたのだ。



写真の上には『もうコイツは体の一部になっちゃったから、隠しても意味なくね?(笑)』の文字。

なんども言うが、彼にとってスマートフォンは体の一部のようなもの。だから、この写真は彼なりのジョークを込めた、渾身のつぶやきなのだ。

その渾身のつぶやきが伸びているのだから、彼の機嫌も上りに上ってうなぎのぼり。もし今彼がアパートで独り暮らしをしていたとしたら、親が怒るとか余計な心配もせずに、部屋中を何往復するかわからないだろう。まあ、隣の部屋の人に注意されるのがオチだろうが。


「よし、拡散が三千を超え――ん?」


しかし、ここで、見慣れない通知が健斗のもとに飛び込んできた。

彼は怪訝な表情を浮かべながら、すぐさま『通知』のボタンを押す。ここは、他者が自分に向けて何かしらの反応をした時に、その詳細を表示する欄だ。


『 ルーレ からアプローチされました』


 拡散されました、の通知で埋め尽くされている中で、その通知はひたすら異色を放っていた。

 ルーレって誰だ?

 何かのアニメのキャラか? いや、違うな。

 様々な考えを巡らせながら、健斗は『ルーレ』のプロフィールページを開く。このページには、ユーザーの今までのつぶやきと、簡単な自己紹介。そして、アプローチをしている人数とされている人数が表示されるはず――なのだが。


「……なんだ、コイツ」


 あまりの衝撃に、健斗は同じセリフをつぶやいた。

 つぶやきの数、ゼロ。

 アプローチしている人、ゼロ。

 アプローチされている人、ゼロ。

 ルーレというユーザーは、ほかの人のつぶやきを見ることができる状態ではなかったのだ。

ブロックしないと……。

 ルーレという謎のユーザーに恐怖感を覚えた健斗は、ユーザーと自分との関係を今後一切断ち切る操作、ブロックを行おうと指を動かす。


「あれ? なんでだよ? 何でできないんだよ!」


 しかし、いくらブロックの項目を押しても、画面が反応することはない。フリーズしてしまったのかと思って、電源ボタンを押してみても、画面が消えることはなかった。

 健斗は今まで幽霊というものを信じることはなかったが、この時初めてそれを認め、今まで認めてこなかったことを心から後悔した。


「う、うお……おばけなんてなーいさ♪ お化けなんてうーそさ♪」


 極限まで混乱した健斗は、昔に少し聞いたことがあるだけの歌を妙に明るいトーンで歌ってみる。そんなに歌は下手な方ではないのだが、この時ばかりは音程がぐっちゃぐちゃだ。


「う、うわあああああああああああ!」


 ついに精神の限界を迎え、スマートフォンを投げようとする健斗。しかしなぜだろう、彼の手からそれが離れることはなかった。掌に触れないような微妙な距離を保ちながら、浮いているのが確かにわかった。

 それを自覚した健斗はさらに混乱した。ベッドから起き上がり、壁に向かって手を振り下ろし、端末を思いっきり壁にぶつけた。


「いやだ! 死にたくない!」


 しかし、スマートフォンはゴンゴンと音を立てるだけで、ひび割れることも画面が消えることもない。何か、不思議な力で守られているとしか言いようがなかった。


「お願いですぅ……命だけは……」


 こんな、大の大人でも耐えかねるような心霊現象に、中学一年生が耐えられるはずがなかった。健斗は大粒の涙を流しながら、床に突っ伏して懇願する。

 てっきり彼は、もうすぐ画面から幽霊、もしくは未知の生命体が表れて自分を食べてしまうだとか、目の前のドアが開いて幽霊、もしくは未知の生命体が表れて自分を食べてしまうのではないかと本気で思った。


「ボタンを押せ」


 ところが、現れたのは幽霊でも未知の生命体でもなく、やさしい感情が少しだけ感じられるようなおじさんの声だった。

 でも、今の健斗には、やさしい感情なんてものはもうどうでもいい。ただ、どこかもわからないところから声が聞こえてくることだけが怖かった。


「助けて……。助けてください……」


「ボタンを押さないと、この後お前によくないことが起こる。だから押せ」


 おじさんの声は、健斗の言葉を無視してそういった。

 よくないこと。

 健斗は、その言葉に震え上がった。

 恐る恐る画面を見る。

 ルーレという名前の横には、アプローチのボタン。

 大丈夫、指はまだ動く。

 大丈夫、俺はまだ死ななくて済む。

 このボタンを押しさえすれば。

 大丈夫、大丈夫……。




 健斗の意識はそこで途絶えた。




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