海に咲く百合
海を見下ろす丘の
古ぼけたベンチに腰掛けて
輝く沖を見つめた
そっと伝えたい言葉があって
とても言い出せなくて
海風に揺れる花のように
うなずくあなたがまぶしかった
どんなことを話したのか
もう忘れてしまったけど
たった一度の
一度きりの
海に咲く百合でした
ゆったりと羽を広げ
やわらかい弧を描いて舞う
海鳥はいつまでも漂って
わたしも遠くへ行ってしまうのと
あなたはぽつりと言った
よく晴れた午後の海原が
僕の心を翳らせるから
水平線に浮かべた恋心は
海の向こうへこぼれ落ちる
たった一度の
一度きりの
海に咲く百合でした
たった一度の
一度きりの
やさしい百合でした