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待ち惚け

作者: 翡翠


あれから何年たっただろう……


いや、ちゃんと覚えている

これは現実逃避だ

認めたくないのだ

待って待って、待ち続けてそれでも帰ってこない


「あれからもう16年か、本当にどこ行ってんだか」


ふらっと現れてここに居着き、またふらっと出て行ったとおもったらそれっきり帰ってはこなかった


あいつは行くとき「次帰ってきたら一緒に旅をしよう」と言ってくれた

それに浮かれて私は次の日から旅の準備をしたってのに


今もその準備は欠かさずやっているというのに…


それでも帰ってはこない。


「はぁ、人に期待だけさせといてそれっきりとか、ありえないだろ」


あいつが拾ってきたあの子はあいつと出会った頃の私と同じ年齢になってきている


そうそうあの赤ちゃんを拾ってきてその後の子育ても私がやったのだ

思い出したら腹が立ってきた


どうしてこう自分にできないものは全てこちらに丸投げなんだ

少しは手伝えってんだ……。


あれから伸ばし始めた髪は背中の半ばまでになった

少しは女性っぽくなっただろうか


伸びた髪をあいつからもらった簪で結わえる


さぁ、今日も開店だ


手鏡というこの簪と一緒にもらったもので出来栄えを確認する




カランコロン





この店特有の鐘が店の入り口から聞こえる


ん?まだ開店の札は出してない

誰だ…


慌てて店の表に出ると一人の男が店の入り口から入って少しのところに立っていた


顔は整っている、スラリとした身体つきだがひ弱な印象は持たない

灰色の髪に眠たげな目の中には同じく灰色の瞳

その身にまとう雰囲気は彼の容姿を台無しにするグッタリとしたもの


男の姿に驚いていると不意に声がかかる


「悪りぃ、随分と帰りが遅くなっちまった」


聞いたことのある声だ、いや、聞き間違えようがない声だ


身体が震える、一つ深呼吸をしようと思ったが呼吸が乱れてそれも難しい

頬に温かい雫が伝う


一つ一つ、確かめるようにもう一度男を見つめる


間違いない、あいつだ


これは幻想だろうか

あんなことを口に出した瞬間にこれとか

もっと早く口に出しとけばこの再開も早くなっていただろうか


私は確信した瞬間に駆け出した


一気に詰め寄り逃さないように抱きしめる


少し背伸びをして…



その瞬間にいろんな感情が湧いては消える

今度来たときはなんと言ってやろうと思ってたんだっけ?

どんな怒声を浴びせ、どんな罵声を吹きかけ、どんな悪態をついてやろうとおもったんだっけ?


「おせぇんだよ……この、ばかっ」


こんなことしか言えない自分が悔しい

帰ってきてくれたことにこんなにも喜んでいる自分が悔しい


期待させたのはこいつだ

狂わせたのはこいつだ

私を変えたのはこいつだ


ならば責任はとってもらおう

一生こいつに付きまとってやる



絶対に放してやるものか

















「なぁ【レイン】…」


「なんだ、万年遅刻野郎」


「あ、あの…さ」


「なんだよ、さっさとい…」


言葉が途中で途切れる

無理やり途切れさせられた


「俺と………


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