#1 私は出会う
ごめんなさい。
緋音くんなら、大丈夫だと思うけれど。まだ緋音くんのそばにいたかったよ。
「緋音くん」
声がこぼれた。
緋音くんは私の全てだったよ。緋音くんは、今でも私の全てだよ。
いつも緋音くんの心は、
「ありがとう」
そう言ってくれていた。
「好きだよ」
そう言ってくれていた。口には出さないけれど。
私は何をしたのだろう。緋音くんのために。緋音くんは、いつでも私のそばにいてくれたのに。
緋音くんは、前を向いてくれるだろうか。上を向いてくれるだろうか。
初めて出会ったときのような顔をしていないといいのだが。私は勘違いをしている。緋音くんは一人でも大丈夫だ。緋音くんは、私なんかよりずっと強いよ。私がいなくても平気。助けられたのは私の方なんだから。私が心配しなくても、全然平気なんだから。
緋音くんは、自分で自分の道を切り開けるよ。
「緋音くん」
私は叫んだ。声が枯れるほど。
緋音くんに会いたいよ。
もっと話したいよ。もっと笑いたいよ。歌いたいよ。
緋音くんは情けないかもしれない。けれど、すごい。弱気なところも相手に見せられるし、涙を流してもきれいなままでいる。
あの海で出会い。あの海で言葉を紡ぎ。あの海で泳ぎ。あの海で笑い。あの海で泣き。あの海で約束をして。あの海で歌い。あの海で夢を追いかけて。あの海でお別れをした。
あの海は、いつもあそこにいた。
学校帰り、あの海に行った。
今日、テストが返ってきた。もちろんいい。テストがあっても変わらなく、1位だ。これからも落ちる予定はない。
今日もまたあの海に行こう。そう思い、家に帰る前に寄った。
この海は最近、見つけたお気に入りの場所。誰にも言っていない。潮の香り、波の音、砂の色、全てが合わさって心地よい。幸せな気分になれる。そして、そこで歌うと一番楽しくなれる。
今日は、新しく作った歌を歌うことにした。
キミの声を聞いて
風に乗って この耳まで届くよ
世界中に響くよ
青い空 白い雲 はにかむ笑顔
何もかもが輝いているよ
ふと思い出した キミのこと
あの日々の想いと
私は人の気配に気づき、歌うのをやめた。そして、後ろを振り返った。
「ごめんなさい」
私は謝った。後ろにいたのは、制服姿の怖そうな人だった。
「別に怒ってない」
彼は言った。
「よかった。こんなところまで来るなんて、あなたは珍しい方です」
「えっ?」
「普通は、声がしても気にしないものです。それに、ここは目立たないところだから」
私は思ったことを言った。
「いや、すごく、きれいな声だったから」
彼は褒めてくれた。
「ありがとう。また、聴いてくれる?」
私はうれしくなって、そう言った。
「うん」
彼は答えた。
「私は七瀬真保歌。よろしくね」
「俺は真夏緋音。よろしく」
「素敵な名前」
彼、緋音くんは照れているようだ。
「また明日も来てくれる?」
「うん。学校が終わったら」
「ありがとう。ここで会おうね」
そう言って、私たちは別れた。
緋音くんは、見た目よりやさしそうな人だった。
また明日も行こう。緋音くんともっと話してみたい。