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下準備② シン

「あいつらーー。どこまでもるぅるぅをばかにするのだーー」

 ごろりごろりと寝台の上で転がる我が君様。

 たいへん可愛らしいです。

 寝台から落ちたり、壁に直接ぶつかってしまわぬようクッションを配置します。

 あの方々も我が君様を心配されてるのですよとは言えなくて、私は小さく笑うのみ。


 出かけてまいりますと告げれば大きな紅い目が私を写します。

 我が君様は引き止めたりはなさいません。ただ、伺うような眼差しで見つめるのです。



 我が君様の前より下がり、会いに参りますは我が君様が不満をぶつけておられた方のお一人。

「準備はいいのかい?」

 頷いた私を黒いマントに包み込み、次の瞬間、そこは異世界だったのです。


「さて」


 硝子の美しいこじんまりした建物。遠くもなく潮の香り。

 さぁさぁとしのつく雨。

 時刻は月の時。

 しっとりとした扉を叩くと現れたのは物静かな女性。

「夜分、失礼致します。神父様にお会いしたいのですが?」


『こちらへどうぞ』


 女性の声は何処かくぐもっているような音。聞き取りにくい音でした。ただ仕草が優しく招いているとわかるものです。

「ありがとうございます。シスター」

 私は静かに大人しくかの君様の保護下にて姿を隠したまま様子を覗き見ます。

「白翁殿の契約者殿には初にお目にかかります。白翁殿に相談がありましてまいりました。お時間をよろしいでしょうか?」

 ひっそりとしているのに迎えてくれた長衣の男性はちらりと私に視線を送ったように思います。

 契約者だからでしょうか?


 ふわりと風をまとって現れた高位者の存在に私は身を縮めます。


「久しいね、白翁。ご機嫌は、ナナメ?」

 かの君様はふわりと口調を崩されます。

「うちのちびっ子がこちらで過ごすコトを選びそうでね。面倒ながらフォローに回っているんだよ。異界での過ごし方はうまくできるとも思わないからね」

 しばし、彼らのみの会話が続きます。高位者の会話を許可無く理解するような真似はしません。

「……若作り」

「若いんだよ」

「翁呼ばわりされるいわれはない」


 あら?


「隠居爺なんだからいいじゃないか、こっちは現役」


 何か会話に不穏さが滲み出した頃、かの君様の元より、ころりと放り出されます。


「だいじょうぶ?」

 床に転がる前に長衣の、白翁様のご契約者様の方が拾い上げてくださいました。

 私のサイズはご契約者様の手に握りこまれても隠れられるほどです。


『ぎゅげ』


 お礼を告げようとして声が伝わらないことを思い出します。

 私の鳴き声は音波を伴うので気をつけなければ脆い物を破砕します。軽く、かの君様ににらまれました。

 白翁様のご契約者様の方の掌から降り、事前にかの君様に渡されている術具に力を流します。

 用意していただいた『ヒト』の姿をとるための術具です。

「お気遣い、感謝いたします。白翁様のご契約者様」

「どういたしましてぇ」

 にこやかに穏やかに対応してくださいます。


「おい、あっちの翁呼びはいいのか?」

「……」

「まぁ、小娘なのは確かだけどなー」

 軽い口調でかの君様が白翁様に語りかけてらっしゃいます。白翁様から不機嫌そうな雰囲気を感じます。

 ぅう。白翁様呼びはよろしくないのでしょうか?

 何か不備があったのでしょうか? ただ、かの君様とのことでしたら良いのですが。口のだしようがありませんから。



 それにしても、細い手足。気恥ずかしい膝上丈の衣装。『シスター』と呼ばれた方は露出は少なかったです。

「あの、人の子としておかしくないでしょうか?」

『ヒト』であろう白翁様のご契約者様に尋ねます。

「かわいらしいメイドさんですねぇ」

 にこにこと褒めていただきました。スカートはもう少し長くてもよいとのおしえていただけてほっといたしました。


 その後、移動して我が君様より幼い方にもご挨拶。


 次の移動先は我が君様の痕跡が強く残る場所。

 かの君様もこちら風を意識なされた装いへと切り替えてらっしゃいます。

 我が君様の資料によると問題はないはずだったのですけど……。『ラノベだけを参考にすんな』とぼやかれました。



「夜分、失礼いたします。先程連絡を入れた者です」

 そこにいるのは黒髪の女性。

 かの君様はパルパニエが持たせた我が君様の絵姿(フォト)を見せつつ帽子を取っての一礼。

「ウチの同僚がお世話になりまして」

 あらまぁと絵姿を見た女性は笑う。

「まぁ、これはご丁寧に。どちらかといえばウチの子達が、迷惑をかけているような感じですけれど。よければ上がっていってくださいな」

「ありがとうございます。姉妹の長女さんですか? 長い髪だと聞いておりましたが、切ってしまわれたとか?」

 母親だと聞いてかの君様が態とらしく驚かれ、和やかに会話を進められていきます。

 途中、私の存在にはしゃがれたコトに驚いてつい正体を現してしまったのは失態と言えると思えます。

 かの君様たちのお考えである『子供のうちは役割に準じた労働ではなく、多様な経験を積むべき』であるコトと、『仕事中毒(ワーカーホリック)』の気がある我が君様への懸念を織り交ぜつつ説明し、迷惑料がわりの手土産を差し出します。


 かの君様に促され、今一度人の姿をとり、ご挨拶いたします。

「私は、シンと申します。我が君様が来られるまでにこちらでの過し方を学び、我が君様のお力になりたいのです。よろしければ、ご教授いただけないでしょうか?」

「ええ。かまわないわよ」

 どっちの姿も可愛いわねぇと三人の女性がはしゃがれます。ええ。お三方に正体を知られました。かの君様はかまわないと手を振るのみ。

「そう言えば、お名前は?」

「名乗りは、契約ともかすものであり、不要な結びは避けたく。失礼ながら……。仮称であれば、くぅちゃん(仮とでも♪」


 かの君様!?


「あら。名乗って良かったの?」

 『くぅちゃん、かわいー』『やはりカッコ仮まで込みで』『長いじゃなーい』という会話を経てから、私を見て、奥様が尋ねられます。

「私は低位のモノですし、我が君様との契約がありますので、そちらが優先されます。私どもと契約を交わそうと言う物好きな方もそうはおられませんし、元来は言語疎通は難しいので名を呼ばれることはまずありませんから」


 少し、重力を操って、音波な鳴き声なだけという特に利点の少ない低位生物なのです。

 人の姿をとる術すら自力では無理なのです。


 あら?


 なんだか可愛いのにと言って撫でられるのですが、一体何事なのでしょうか?


 あ、私の居場所は本体で休める閉鎖空間があれば問題ありませんので。外でもいいんですが……。


 お気遣いありがとうございます。


 渚様にマグカップという食器を寝床として準備していただきました。

 密閉ケースコード有りの『ぱるぱにえ』様からの預かり物も引き渡せて一安心です。




『うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話』

http://ncode.syosetu.com/n2532br/

香取神父様 白るぅるぅ 教会


『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』

http://ncode.syosetu.com/n7439br/

青空太陽さん、渚ちゃん 青空家の女性お二人。

お借りしております。

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