青一色
2026/09/12 写真 階段
人生に疲れた。
そう言ってしまうのは言い過ぎかもしれない。
でもやはり、どれだけ考えても、人生に疲れたという言葉に辿り着く。
仕事は生きていく上で必要だ。
仕事をして、お金を稼ぎ、それを基に生活をしていく。
しかし思うのだ。
生活の為に仕事をしている筈なのに、仕事の為に生活をしている気がする、と。
早出勤、残業、遅くなる帰宅時間。
家に帰ってからは洗濯をし、翌日の弁当を作り、軽く食事をして寝る。
休日は、日頃の疲れが取れず、ほぼぐったりと寝転がって過ごす。
今思うと、学生の頃は学校に通うのが苦痛ではあったけれど、今よりも断然に日々を楽しめていたんじゃないだろうか。
ある日のことだった。
急に何もかもが嫌になり、仕事を辞めた。
そして、銀行の預金をほぼ全ておろし、目的もなく電車に乗った。
知らない駅で降り、歩き、また知らない駅で乗る。
そんなことを繰り返していたら、気が付くとやけに長い階段の前にいた。
ここが一体何処なのか。
この先に何があるのか。
調べようと思えば調べられる。
スマホの便利さである。
でも、敢えて調べずに、目の前の何段あるのかも分からない、長い長い階段を上がり始めた。
最初は軽やかな足取りだった。
でも、上がれば上がるほど、足への負担が増していく。
ふくらはぎに違和感を覚え、膝が悲鳴を上げ始め、足全体が鉛のように重くなる。
まるで人生のようだ、と思った。
好奇心旺盛だった幼い頃は何をするにも軽やかで、少しずつ人生経験を積み違和感を覚えていく。
そして責任、重圧、ストレスで心が悲鳴を上げ、体が、脳が重くなっていく。
友人に勧められた心療内科。
でも、そんなところに通う必要はないと勝手に判断した。
きっと通院していたら鬱だ何だと言われたんだろう。
友人もそう思ったから勧めてきた筈だ。
きっと違う、大丈夫、自分は『普通だ』。
長い長い階段も後少し。
階段を1段上がる度に、1歳ずつ歳をとっている感覚だった。
後少し、もう少し、頑張れ。
自分を励まして上がりきる。
両手を膝に乗せ、荒い呼吸を何度も繰り返す。
視線はまだ地面。
額から流れる汗が、地面を濡らす。
顔を上げる。
「────」
青い。
全てが、青かった。
眼前に広がる海は何処までも青く、雲1つない空との境界線が分からない。
青一色のキャンバスの前に立っているような気分だった。
優しい青が包み込んでくれるような感覚。
そして、胸の内にへばりついていたあらゆる感情を、洗い流してくれているような感覚。
潮風が汗まみれの体を吹き抜ける。
そうだ、写真。
スマホを取り出してカメラアプリを起動する。
でも、やめた。
これは写真に収めても、今感じているこの感情を収めることはできない。
しっかりと、目に焼き付けよう。
大きく息を吸い込み、
「ああああああああああ!」
全てをぶちまけるかのように叫んだ。
なんだか、生まれ変わった気分だった。
新しい自分。
きっとこれから、頑張れる。
そう思った。
個人的には青より黒が好きです。




