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青一色

掲載日:2026/09/21

2026/09/12 写真 階段




 人生に疲れた。

 そう言ってしまうのは言い過ぎかもしれない。

 でもやはり、どれだけ考えても、人生に疲れたという言葉に辿り着く。

 仕事は生きていく上で必要だ。

 仕事をして、お金を稼ぎ、それを基に生活をしていく。

 しかし思うのだ。

 生活の為に仕事をしている筈なのに、仕事の為に生活をしている気がする、と。

 早出勤、残業、遅くなる帰宅時間。

 家に帰ってからは洗濯をし、翌日の弁当を作り、軽く食事をして寝る。

 休日は、日頃の疲れが取れず、ほぼぐったりと寝転がって過ごす。

 今思うと、学生の頃は学校に通うのが苦痛ではあったけれど、今よりも断然に日々を楽しめていたんじゃないだろうか。


 ある日のことだった。

 急に何もかもが嫌になり、仕事を辞めた。

 そして、銀行の預金をほぼ全ておろし、目的もなく電車に乗った。

 知らない駅で降り、歩き、また知らない駅で乗る。

 そんなことを繰り返していたら、気が付くとやけに長い階段の前にいた。

 ここが一体何処なのか。

 この先に何があるのか。

 調べようと思えば調べられる。

 スマホの便利さである。

 でも、敢えて調べずに、目の前の何段あるのかも分からない、長い長い階段を上がり始めた。


 最初は軽やかな足取りだった。

 でも、上がれば上がるほど、足への負担が増していく。

 ふくらはぎに違和感を覚え、膝が悲鳴を上げ始め、足全体が鉛のように重くなる。

 まるで人生のようだ、と思った。

 好奇心旺盛だった幼い頃は何をするにも軽やかで、少しずつ人生経験を積み違和感を覚えていく。

 そして責任、重圧、ストレスで心が悲鳴を上げ、体が、脳が重くなっていく。


 友人に勧められた心療内科。

 でも、そんなところに通う必要はないと勝手に判断した。

 きっと通院していたら鬱だ何だと言われたんだろう。

 友人もそう思ったから勧めてきた筈だ。

 きっと違う、大丈夫、自分は『普通だ』。


 長い長い階段も後少し。

 階段を1段上がる度に、1歳ずつ歳をとっている感覚だった。

 後少し、もう少し、頑張れ。

 自分を励まして上がりきる。

 両手を膝に乗せ、荒い呼吸を何度も繰り返す。

 視線はまだ地面。

 額から流れる汗が、地面を濡らす。

 顔を上げる。


「────」


 青い。

 全てが、青かった。

 眼前に広がる海は何処までも青く、雲1つない空との境界線が分からない。

 青一色のキャンバスの前に立っているような気分だった。

 優しい青が包み込んでくれるような感覚。

 そして、胸の内にへばりついていたあらゆる感情を、洗い流してくれているような感覚。

 潮風が汗まみれの体を吹き抜ける。

 そうだ、写真。

 スマホを取り出してカメラアプリを起動する。

 でも、やめた。

 これは写真に収めても、今感じているこの感情を収めることはできない。

 しっかりと、目に焼き付けよう。

 大きく息を吸い込み、


「ああああああああああ!」


 全てをぶちまけるかのように叫んだ。

 なんだか、生まれ変わった気分だった。

 新しい自分。

 きっとこれから、頑張れる。

 そう思った。

個人的には青より黒が好きです。

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― 新着の感想 ―
写真を撮ろうとして、やっぱりやめるところが好きでした。 よもぎさんのお話は、何気ないものや出来事から少しずつ気持ちが動いていく感じがいいですね。 長い階段を登った先で一面の青が広がるところも読んでいて…
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