大雨
今日は久しぶりに大雨が降っている。
こういう日は門番はとても暇なものだ。
人の出入りも少なく、雨の音だけが響く。
まだ日が落ちるには早い時間だが、今日は日が差さず、薄暗く、
庭園が近いここでは土と草のにおいを強く感じる。
ザーザーと降り続く雨が、石畳を叩く音だけが響いている。その静寂を破って、王宮の奥からタッタッタッと急ぎ足の、小さな足音が聞こえてきた。
ぐっと扉が開け放たれる。現れたのは、いつも挨拶をかわす、リディアさんだった。
彼女の息は乱れており、焦っているようだった。
リディアさんはそのまま駆け出そうとしたが、足元のタイルが雨で濡れていたため、次の瞬間、視界が大きく揺れた。
「危ない!」
身体が動く方が早かった。僕は思わず一歩踏み出し、大きくよろけた彼女の身体を両腕で抱きかかえるように受け止めた。
濡れたタイルの上を、二人の靴が滑る音が、一瞬、雨音よりも大きく響いた。
「すみません、大丈夫ですか?服など汚れていませんか?」
そう聞いたのはリディアさんだった。
リディアさんの顔は焦った顔で、こちらを見上げていた。
この状況では当たり前なのに笑顔じゃないのは珍しいな。とふと思った。
「あ、いえいえ!リディアさんこそ、大丈夫ですか?」
まっすぐに僕を見つめるリディアさんの視線に少し緊張する。
「すみません、急いでいて…ご迷惑をおかけしました…」
リディアさんは深くお辞儀をして、雨の中を走っていた。
少しでも歩けばずぶ濡れになるこの雨の中、どこへ向かうのかと目で追っていると、少し先の建物の下に王家の馬車が先に見えた。
そういえば、今日は夜会があった。殿下たちが向かわれる頃か。
なにか急用でもあったのか。
忘れ物か。
彼女があんなに慌てるなんて、よほどの事態だろう。
あの華奢な体が、この雨に打たれて風邪などひかないだろうか。
そうだ。雨が止んだら、彼女の好きなあの花壇をのぞいてみよう。
やっと成長してきた細い枝がこの雨でやられていないといいけど。
なんて、
いつか話す機会ができれば。と思いながらいつも挨拶を交わすだけ。
もう一言。気の利いたことが言えたら。
いつも考えていたけど、やっぱりうまく話せないものだな。
いや、さっきだって急いでいたし。とまた自分に言い訳をする。
つぎこそは、なにか一言。挨拶以外に話しかけたい。




