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【番外編】僕の嫌いな笑顔


よく晴れた日、彼女はきっとここにいる。と王宮にある花壇に向かう。

彼女は昔から花が好きだった。

だからきっと、ここでも。


予想していた通り、花壇を眺めているリディア


「リディア」


と声をかける。


なぁに?


と優しく笑ってくれるリディアを思い出す。またあの笑顔が見れる。そう思っていた。


「はい」


固い返事と共にふり向いた彼女は固まった笑顔で恐怖を隠しているように見えた。


「…」


僕の顔をまじまじと見て、やっと思い出してくれたのか


「カイル?」と驚きと困惑の表情のリディア。


今すぐにでも抱きしめたい。

リディアを不安にするすべてを消し去れるように。


「そうだよ。カイルだよ。」


「ずいぶんと大きくなったね」


いつの間にかリディアの背を越していた。5年でずいぶんと成長した。


「私もずいぶんと変わってしまったでしょ」


悲しそうに笑う彼女は、あのふわふわと明るい笑顔も、楽しそうで大きな身振り手振りも、弾むような声もすべてなくしてしまっていた。5年。たったそれだけの時間での変化とは思えない。

何があったのか、と聞いてもリディアは「大丈夫」としか言わないだろう。


「どうしてここに?」


「王宮で宝飾品を見せてほしいという話があってね。父もそろそろ僕にも仕事を覚えてほしいと言うことで一緒に来たんだ。」


僕の家は商人をやっていて、昔から王族や貴族の方々相手に宝飾品をご案内していた。リディアと出会ったのも、その仕事がきっかけだった。家がリディアの家が納める領地だったから、仕事。を言い訳に父について行っていたが、いつの間にか、リディアに許可をもらい、ただ、屋敷に遊びに行っていた。



「カイルももう大人ね」


リディアが昔に褒めてくれた時と同じように目を合わせて、頬をなでる。

あの時はかがんでくれていたリディアも、今はつま先立ちをしても僕と目の高さは合わない。


そんなリディアを見て笑顔がこぼれると、リディアもつられたように、僕の知っているリディアの笑顔が見れた。


僕の伸びた背を自分ごとのように喜んでくれるリディアを昔を思い出していると、突然、リディアの手が止まった。表情が固まり、僕の肩越しに一瞬何かを見ていた。



「やぁ、リディア。いい天気だね。」



僕の後ろから聞こえた声の主はこの国の第一王子。アルフレッド殿下。とギルベルト様。

僕は声も出せず、ただ深くお辞儀をした。


「君は、先ほど、挨拶をしてくれたね。名前は…」


「カイルと申します。」


「そうか、そうだったね。」


「リディア、彼とはずいぶん親しいのかい?」

「殿下」


後ろにいたギルベルト様がアルフレッド殿下を軽く制止する。

言葉は柔らかくても分かる。アルフレッド殿下はずいぶん怒っている。



「同郷の友人です。」



にこりと笑うリディアは、不気味なくらい、完璧な笑顔だった。

ふわっと笑う、あのリディアの面影はどこにもない、完璧な笑顔だ。僕は一瞬でその笑顔が嫌いになった。


リディアが何かに怯えてるような何かを隠すようなそんな笑顔な気がしたから。



「ふーん、そうか。じゃあ、リディアまた後でね。」



そういうと、アルフレッド殿下は去っていった。



「リディアここの仕事は大変じゃないか?」


僕が聞ける唯一のセリフだと思う。

リディアを不安にさせる何かを僕が、



「大丈夫よ。心配しないで。」



リディアは僕の目を見なかった。


強く手を引いて、ここから彼女を連れ出すことはできないだろうか。

そんなこと、できるわけないよな。



リディアは少し迷ったあと、




「…もしもね、」


と消え入りそうな声で話し始める。

僕はその先の言葉を絶対に聞き逃さないようにリディアを見つめ返す。





リディアが僕を頼ってくれる。

そんな気がした。






「あら、アベル殿下。」



リディアが少し向こうを見つめ、姿勢を正し、丁寧にお辞儀をする。


「悪い。邪魔するつもりはなかった。」


頭をガシガシ掻きながらばつの悪そうに、第二王子のアベル殿下がこちらに歩いてくる。

二人で話す姿を見るとずいぶんと仲がいいようだ。



そうだよな。第一王子に、第二王子。二人ともリディアに興味津々だ。

ただ、花壇で二人で話しているだけなのに。あざとく見つけてきて、

アルフレッド殿下なんて嫉妬心むき出しで、取って食われそうだった。

アベル殿下はリディアとの仲を見せつけるように、二人にしかわからない話を始める。



勝てるわけない。



分かっている。リディアが王宮に行ったと聞いた時から、この恋はあきらめるしかないと分かっていた。王宮は優秀な騎士、頭脳明晰な貴族様。ましてや、王子様が近くにいる世界だ。



勝てるわけがない。




あきらめるしかない。



無意識のうちに、僕はアベル殿下をにらみつけていたのか、一瞬、アベル殿下と目が合った。

ただアベル殿下は視線を感じて視線を送っただけかもしれない。

でも、僕には、警告のように感じた。



「邪魔したな。」



片手をあげて、去っていくアベル殿下のうしろ姿を微笑みながら見つめるリディアに、胸が苦しくなる。


今にも泣きそうで、そんな顔をリディアに見られたくない。

今すぐにでも、ここを



「リディア、ごめん。もう時間だから。僕は帰るよ」


「あ…ごめんなさい、時間を取ってしまったわ。」



投げやりな言葉に罪悪感を覚える。

リディアの顔が見れない。


「また来週来るから。その時もここで会いたいな。ここの花壇も咲いてるころかな?」


何とか取り繕った言葉と何とかリディアの顔を見た。

リディアの瞳が少し揺らいだように見えた。





「…そうね、楽しみにしているわ。」



「じゃあ、」



逃げるように王宮を去った。

最後に見たリディアは僕が嫌いな完璧な笑顔だった。





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