エンディングの舞台
いつもよりはすこし大きな夜会。
今日はリディアも、侍女としてではなく、令嬢として、夜会に参加する。
楽しみだな。
誰よりも早く顔を見たいのに、行く手をいろんな人からの挨拶で遮られる。
「アルフレッド殿下、私の娘なのですが」
「アルフレッド殿下はいつも凛として聡明でいらっしゃる」
おだてる言葉か、婚約者候補の紹介ばかり。
そんな言葉を無下にすることもできず、作った笑顔で言葉を交わす。
パーティーともなればいつものことだ。慣れたものだ。
この年にもなって婚約者も決めない第一王子となれば、まぁ、仕方ない。
ただ一人探す人はどうも見つけられない。
来ていないわけがない、この会場にはいるはずだ。
アベルがふと私の隣を通る。
貴族の挨拶に足を止めず、スタスタと歩いていく姿が気に食わない。
お前がそんな感じだから、私は苦労するんだ。
アベルの行く先にリディアがいるものなら…
と勝手に想像して怒っていたが、彼は会場の外に向かっただけだった。
また逃げたな。
その姿に呆れるように鼻で笑う。
ふと、視線を感じ、会場の隅でイザベラを見つけたが、
私の顔を見ると、ひどくおびえたように体をびくつかせていた。
なんだ?
私が何をしたわけでもない。
最近はイザベラの性格が変わって、親しみやすいと思うようになったところだ。
「アルフレッド殿下」
後ろから静かに声をかけられた人は見なくてもわかる。
「なんだ?ギルベルト。」
「殿下、そろそろ夜会が終わりを迎えますので、もう少ししたら、挨拶のためにお戻りください。」
「あぁ、そうだな。もう少ししたらな」
いつものことだが、挨拶だけでパーティーが終わってしまう。
パーティーを楽しみたいなど今更ないが、今回はリディアが来ているのに。
やっと少し話をしてくれるほど打ち解けたと思ったのに。
まだリディアに会っていない。
後はテラスか。
次に挨拶を待っていた貴族に急いでいる風を装い断りを入れ、
テラスに早足で向かう。
テラスに出ると、
リディアがいた。
会いたかった。やっと会えた。
鼓動が速くなると同時に口元が少し緩む。
どうも私は会えてとても嬉しいらしい。
リディアは他に誰もいないテラスから暗闇で見えもしない庭園を見ている。
その表情はとても穏やかだった。
なにかいいことがあったのだろうか?
「やぁ」
リディアに話しかけるといつものようににこりと笑った。
「ごきげんよう、アルフレッド殿下。」
「何かいいことでもあったのかい?いつもより楽しそうだ。」
リディアに並ぶように隣に立ち、柵に肘を置く。
「えぇ、やっとやっと、うまくいったんです。」
リディアはいつもあまり話さないから、ここで何が?と聞くのは、また品がない。
それに、
今日のリディアは、いつものように壁を感じない、優しい笑顔。
穏やかな少女のような声。
よっぽどのストレスから解放されたのだろう。
もう、そのストレスが何だったのかとか、何がうまくいったのか。など、その真相などもうどうでもいいのかもしれない。ただ、リディアが笑顔なら。
「そうかい。それはよかったね。」
「あら、何がとは聞かないのですね?」
すこしいたずらっぽい笑顔で、大きく髪を揺らしながら、私にまっすぐ向きなおす。
その姿はいつもとあまりに違って、やっと「リディア」が見れたのではないか。と心がうるさい。
ただ、リディアが嬉しいのなら。
ただ、リディアが笑えるのなら。
リディアが幸せを掴めたのなら、それでいい。
だから私は、ただ
「君の幸せを願うからね。」
その一言が彼女の耳に届いた瞬間、強い風がテラスに吹いた。
強い風に一瞬目を閉じて、リディアを見直した時、
時間が止まったのかと思った。
騒がしいパーティーの音が一瞬で消えたように思えた。
それぐらいの衝撃だった。
リディアは、私の目をまっすぐ見つめ、顔もゆがめず、静かに涙を流した。
さっきまでの穏やかな表情はなくなり、何の感情も見えず、固まってしまったリディアに声をかけようと、手を伸ばして、口を開いたが、
「すいません、目にゴミが…失礼します。」
「そうか、」
私に顔をそむけるように下を向いて、リディアは慌ててテラスから離れていった。
その後を追うこともできず、
私は、真っ暗で何も見えない中庭を見つめることしかできなかった。




