花
今日の私はのんびりしていた。
乙女ゲームではアルフレッド殿下とは最悪の関係だったはずが、今では一緒にお茶をしたり、笑いあったりと、穏やかな時間を過ごしている。
私がリディアさんをいじめていないから?
乙女ゲームのイザベラでは無いから?
と推測はしてみるも、うまくいっているのなら、そこまでの心配もしなくていいかな。
このまま、破滅しないで未来に進めるのなら。
と、期待してしまう。
それにはリディアさんとの関係も大切よね。と
サロンに向かうと、めずらしく満席で、どこも空いていなさそうだった。
入り口付近で、どうしようかとキョロキョロしていると、リディアさんが声をかけてくれた。
「イザベラ様、お席が用意できず、申し訳ございません。よろしければちょうど庭園の花が見頃ですし、東屋でご一緒いたしませんか?」
相変わらずのにこりと笑う顔に、完璧なしぐさ。
彼女もまた乙女ゲームのリディアさんではない。
「えぇ、もちろんよ。そうしましょう。」
リディアさんがティーセットの乗ったワゴンを押しながら一緒に庭園に向かう。
東屋に着くと先客がいた。
「アベル殿下。」
乙女ゲームでもいつもそう。アベル殿下のイベントは東屋で起きることが多い。
「あら、アベル殿下。よろしければ、ご一緒しませんか?」
「なんで。」
「まぁ、いいではないですか。」
仲良さそうに話す二人を見て口角が上がる。
やっぱりこの二人、両想いだわ。
突然始まったお茶会は不安になっている私とどうしたらいいかわからないアベル殿下とだから会話が弾まないことを心配してか、普段あまり口数の多くないリディアさんが私たち二人に話題を振ったり、庭園の花や、お茶菓子について話す。
丁寧に盛り付けられた甘いケーキは私と、アベル殿下のもとに置かれた。
あれ?アベル殿下は甘いのは嫌いと前に言ってたような?
と思ったが、アベル殿下はケーキを食べ始めた。
なんだ。食べるじゃん。
とニコニコして見ていたら、リディアさんもアベル殿下のその様子を見て
にこりと笑っていた。
ティーセットをそろえ、三人でお茶を楽しむ。
こんな時間、サロンでもありえない。
そして乙女ゲームでもありえない。
私はリディアさんをいじめ、リディアさんは私なんかより攻略対象と会うことを選ぶ。
私なんて、ところどころに出てくる恋の障害でしかなく、最後に悪者はいなくなってめでたしめでたし。そんなストーリー。
今は、私はリディアさんをいじめていないし、
リディアさんは私を笑顔で迎えてくれる。
でも、乙女ゲーム通り、アベル殿下ルートをたどるリディアさん。
二人を邪魔するつもりなんてもちろんないけど、私の破滅は、たとえ私が行動を変えたとしても、世界によって強制されるのではないか、と考えると、全身が冷えるのを感じた。
ふとアベル殿下を見ると、リディアさんをまっすぐに見つめていた。
私はこの二人に幸せになってほしい。
でも、私も破滅はしたくない。
この二つの思いは同時に叶えられるのかな?
その時、東屋に少し強い風が吹いた。
葉っぱの擦れるガサガサという音が聞こえる。
リディアさんは不意に庭園に視線を向けていた。
無意識だとおもう。
「そういえば、お前はそこの花壇を気にしていたな。」
アベル殿下がそういうと、リディアさんの動きが止まった。
アベル殿下の指さす方向にはまだ花や蕾などない、青々とした茎だけがある花壇だった。
「そこの花壇が楽しみなの?」
私が素朴に疑問を投げかけると、
「そうなんです」
そう答えたリディアさんの表情はいつもの笑顔なのに少し暗い感じがした。
たかが、花壇。
珍しい花だとか、特別な花だとか、そんな話は聞いていない。
でも、リディアさんにとって何か思い入れがあるのだろう。
そんな話、乙女ゲームにもなかったけれど。
「少し冷めてしまいましたね。新しいお茶淹れましょうか?」
いつものようににこりと笑うリディアさんから
これ以上この話題をしないで。
の雰囲気を感じた。
「じゃあ、いただくわ」
これはきっと触れてはいけない秘密だったのかも。




