笑顔
今日も両手いっぱいの資料をもって、自室に戻る。
最近はやけにアルフレッド殿下の機嫌がいい。
おかげでいつもダラダラと進めていた職務も最近は時間を作るためか、てきぱきとこなしてくれているから、こちらも助かっている。
王宮の廊下を歩いて、自室に向かう途中、どこからともなく現れた、サロンで働く侍女に出会った。
「お手伝いいたします。」
にこりと笑う笑顔はいつも完璧だ。
私が少しは笑ったらどうかと言われるほど、笑顔が苦手だから彼女の笑顔は少し見習いたい。
「ありがとうございます。お願いできますか?」
そういって、彼女にとってきっと重たくないほどの書類をお願いする。
会話も弾まず、ただ私の自室まで足を進める。
扉を開けて、書類を机に置いたあと、お礼を言おうと口を開いたとき、彼女の方が先に話した。
「どうぞ。」
書類束から抜き出した一枚の書類は私宛てではなく、アルフレッド殿下宛ての書類だった。
なぜそれがわかったのか。
その書類が今日ないと困ることまで彼女は知っていたのか。
そんなことを考えている間に、彼女は失礼します。と部屋から立ち去ろうとする。
「ちょっと待って、」
呼び止めたまではよかったが、言葉が続かない。
なぜわかった?なんて問い詰めるように言ったら、怖がられてしまうか?
ありがとう。ぐらい言えばいいのに、まっすぐに私を見る彼女の目に戸惑う。
呼び止めるだけ呼び止めて、言葉の続かない私に
「うふふ」
彼女は眉を下げて、優しく笑った。
いつもの完璧な笑顔じゃない、穏やかで、優しい笑顔。
そんな笑顔の彼女から目を離せない。
「ギルベルト、書類を見ていないか?」
開いたままの部屋の扉からアルフレッド殿下が入ってくる。
「あ、」
部屋にいる彼女を見てずいぶん驚いていた。
それもそうか。私の部屋に彼女がいる理由が殿下にはわからない。
「失礼します。」
彼女はいつもの笑顔に戻り、お辞儀をして部屋を去っていった。
そんな彼女を姿が見えなくなるまで視線を送り続けるアルフレッド殿下。
分かっている。
殿下の興味の先が彼女なことは。
「こちらですか?」
私の方に視線を一切向けない殿下に、書類を渡す。
「ん?そうそう。よくわかったね。これさえあれば今日はもう仕事終わりだね。」
「で?なんでリディアがここにいたの?どういう関係?」
急に目が鋭くなるアルフレッド殿下。
顔はニコニコしていても、明らかに怒っている。
「さっき、道ですれ違った時に、荷物持つのを手伝っていただいたんです。」
「ふーん、彼女は優しいからね。」
パンッ
と書類をはじく殿下。
分かっている。殿下は独占欲が強い。
いつも私は大切なおもちゃを見ることも許されない。
でも、少しだけ、私だけ彼女の優しい笑顔を見れただけで、それだけ。
それだけで、この王宮の冷たさに耐えるための、僕だけの宝物になった。




