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元殺し屋の鬼神、異世界でBARを開く。女神に壁ドンして貰った通販スキルで、最強美女たちを無自覚に餌付けしてしまった  作者: 月神世一


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EP 9

嫉妬の炎と修羅場の予感

冒険者をデコピン一発で星にした騒動の後。

小料理屋『龍』の壊れたドアは、龍魔呂が【地球ショッピング】で取り寄せた『瞬間接着剤(業務用)』と、ドワーフ製の内装材であっという間に修復されていた。

だが、店内の空気は修復されるどころか、別の意味で張り詰めていた。

「……龍魔呂様ぁ、怖かったですぅ……♡」

ウェイトレスのルナが、どさくさに紛れてカウンターの中に入り込み、龍魔呂の背中にギュッと抱きついている。

「……おい、仕事中だぞ。離れろ」

「やですぅ! まだ足が震えてて……龍魔呂様の背中で充電しないと動けません!」

ルナは上目遣いで、あざとく(本人は天然だが)龍魔呂の革ジャンの匂いを嗅いでいる。

その光景を見た瞬間、客席の美女たちのこめかみに、青筋が浮かんだ。

バキッ。

魔王ラスティアの手の中で、フォークが飴細工のように捻じ切れる音。

パリン。

将軍ライザが握っていたワイングラスに、蜘蛛の巣状のヒビが入る音。

「……ねぇ、龍魔呂」

ラスティアが、凍てつくような笑顔で呼びかけた。

「あぁ?」

「そのエルフの小娘、ちょっとしつけがなってないんじゃない? 私が魔界の教育係(拷問官)を紹介してあげようか?」

背後に漆黒のオーラ(ブラックホールの予兆)が立ち昇る。

「あら、魔王様こそ大人気ないですわよ」

王妃サリーが優雅にグラスを揺らしながら、口元を扇子で隠して笑う。

「若い子が甘えているだけじゃない。……大人の女なら、もっとスマートに独占するわ。ねぇライザ?」

「あぁ。我々なら、龍魔呂殿の剣技の相手も務まる。……夜の『手合わせ』も含めてな」

ライザが頬を染めながら、とんでもない爆弾発言を投下する。

「えーっ!? 龍魔呂さんは私のプロデューサーですよ!?」

ステージから降りたリーザ(地下アイドル)も参戦。

「私の歌を一番理解してくれてるのは龍魔呂さんだもん!」

さらには、立ち飲みスペースでラーメンを完食した不死鳥フレアまでが、艶然と唇を舐めた。

「あらあら、殿方を取り合うなんて野暮ね。……でも、私の『永遠の命』と釣り合うのは、あの強さを持つ男だけかもしれないわぁ♡」

四方八方から飛び交う、嫉妬と独占欲の火花。

店内の魔力密度が飽和し、空間がビリビリと震え始める。

隅で飲んでいた竜王デュークと狼王フェンリルが、青ざめて縮こまった。

「おい駄犬フェンリル、防御障壁を張れ。女の戦いは邪神より恐ろしいぞ」

「……俺、帰っていいか? 寒い(精神的に)」

一触即発。

誰かが動けば、太郎国の王都ごと消し飛びかねない修羅場ハルマゲドン

だが、この状況で一番冷静なのは、台風の目である龍魔呂だった。

「……チッ、うるせぇな」

龍魔呂はルナを背中から剥がし(ルナは「あっ♡」と声を上げる)、タバコを携帯灰皿に押し込んだ。

ダンッ!!

カウンターに重い音を立てて置かれたのは、大きなガラスの器。

「……喧嘩するなら表でやれ。ウチでやるなら」

龍魔呂の眼光が鋭く光る。

「『お口チャック用・特製ジャンボパフェ』を食ってからにしろ」

「「「「パフェ……!?」」」」

ヒロインたちの殺気が霧散した。

そこに鎮座していたのは、【地球ショッピング】の製菓材料をフル活用した、高さ30センチを超える芸術的なパフェ。

北海道産ソフトクリーム、完熟マンゴー、ベルギーチョコ、そして自家製の抹茶プリンが層を成し、頂上にはサクランボが輝いている。

「甘いモン食って、頭冷やせ。……奢りだ」

龍魔呂は無愛想にスプーンを人数分並べた。

喧嘩を止めるために、採算度外視のスイーツを振る舞う。その不器用な気遣い。

「んっ……♡ 冷たくて、甘ぁい……!」

「悔しいけど……美味しいわ!」

「龍魔呂様の味がするぅ(幻覚)」

美女たちはスプーンを口に運び、とろけるような表情で沈黙した。

店内には「はむっ」「んんっ」という色っぽい咀嚼音だけが響く。

デュークがボソリと呟いた。

「……最強の猛獣使いだな、あいつは」

龍魔呂はため息をつき、グラスを洗い始めた。

「……やれやれ。女心ってのは、どんな魔獣より読みづれぇな」

彼は本気で分かっていない。

このパフェが、「餌付け」としてさらに彼女たちの愛を深めてしまったことを。

――一方、その頃。

天界、女神の私室。

巨大なモニター(下界観察用)の前で、一人の女神がハンカチを噛み締めすぎて引きちぎっていた。

「キィィィィィッ!!!」

女神ルチアナである。

「なによあれ! なによあのハーレム!

ルナに背中貸して! 魔王にスイーツあげて! 人妻に色目使われて!

挙句の果てに、フレアまで『いい男』とか言い出してるじゃない!」

彼女の周りには、空になったストロングゼロ(地球製)の缶が転がっている。

「私が……私が見つけたのに!

最初に壁ドンされたのも私!

スキルあげたのも私!

婚姻届(未提出)渡したのも私なのにぃぃぃ!!」

ルチアナは立ち上がり、ドレスを脱ぎ捨てて「勝負服(という名のジャージ)」に着替えようとし――思いとどまった。

「……いいえ。ジャージじゃ勝てない。あいつらは本気よ」

ルチアナはクローゼットを開け、数億年ぶりに「女神の正装フル・ゴッド・モード」を取り出した。

純白の光を纏う、神々しくも露出度の高いドレス。

「龍魔呂……貴方は私のスキル(地球ショッピング)で生きてるのよ?

つまり、貴方のオーナーは私!

だったら……現地まで行って、回収してやるわ!!」

ルチアナの瞳に、ヤンデレじみた決意の炎が宿る。

「待ってなさい泥棒猫たち!

そして覚悟なさい龍魔呂!

今夜、貴方の店に『神』が降臨するわよぉぉぉ!!」

天界が激しく揺れる。

次回、ついに最終回(第1章完結)。

女神降臨による、史上最大の親子喧嘩(?)ならぬ痴話喧嘩が、小料理屋『龍』を襲う!

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