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元殺し屋の鬼神、異世界でBARを開く。女神に壁ドンして貰った通販スキルで、最強美女たちを無自覚に餌付けしてしまった  作者: 月神世一


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EP 8

最強の常連たちと、龍魔呂の過去

小料理屋『龍』。

その夜、店内の人口密度と「戦闘力密度」は限界を突破していた。

「はいはーい! 『枝豆』と『タコの唐揚げ』お待たせしましたぁ!」

ウェイトレスのルナが、満席の店内を蝶のように舞う。

客席を見渡せば、まさにカオス。

カウンターの左端では、王妃サリーと将軍ライザが、ワイングラスを傾けながら頬を染めている。

「ん~♡ この『カマンベールチーズ』、ワインに合いすぎよ……」

「龍魔呂の料理は、剣の修行より奥が深いな……」

右端の「指定席」では、魔王ラスティアが周囲に不可視の結界を張り、独占欲丸出しでフォークを舐めている。

「……龍魔呂、あっちのサリーたちにサービスしすぎじゃない? 後で私にも『あーん』しなさいよ」

そして特設ステージでは、リーザが新曲『残業バスター』を熱唱し、サラリーマンたちのコールが響く。

厨房の龍魔呂は、中華鍋を振りながら溜息をついた。

「……何の集会だ、こりゃ」

カランコロン……。

その時、店の引き戸が開き、新たな客が入ってきた。

瞬間、ラスティアとライザの動きがピタリと止まる。

入ってきた3人組から漂うオーラが、尋常ではなかったからだ。

一人は、仕立ての良い着流しを着た、渋い銀髪のイケオジ。

一人は、燃えるような赤髪の超絶美女。

一人は、眠たげな目を擦る、野性味あふれる青年。

世界の調停者、三柱の聖獣――竜王デューク、不死鳥フレア、狼王フェンリルだ。

「ここか。太郎が『俺のマブダチの店がヤバイ』と騒いでいたのは」

デュークが鼻を鳴らす。

「ふーん。店主はなかなかいい男じゃない。私の好みだわ」

フレアが艶然と微笑む。

「……腹減った。肉食わせろ」

フェンリルがあくびをする。

並の店主なら、この三人が揃っただけで失神するだろう。

だが、龍魔呂は中華鍋から皿に料理を移し終えると、タバコを咥えたまま言った。

「いらっしゃい。……生憎と満席だが、立ち飲みでもいいなら構わねぇぞ」

「ククッ……我らを立たせるか。面白い」

デュークは愉快そうに笑い、空いていた立ち飲みスペースに陣取った。

「注文は?」

「太郎が言っていた『豚骨ラーメン』とやらはあるか?」

「ラーメン屋じゃねぇんだがな……。ま、**【地球ショッピング】**で『一蘭』のセットなら取り寄せられる。俺流のアレンジで良けりゃ作るぞ」

「ほう、良いだろう。その腕、見せてもらおうか」

龍魔呂は手際よく麺を茹で、秘伝のタレと、店で煮込んだ特製チャーシューを乗せる。

数分後。

「お待ちどう」

出されたラーメンを啜った瞬間、デュークの目がカッと見開かれた。

「――ッ!! なんだこの濃厚なスープは! 骨の髄まで響く……いや、魂が震える味だ!」

「あら、美味しい! お肌がプルプルになりそう!」

フレアもスープを飲み干し、フェンリルに至っては「おかわり。丼ごと食わせろ」と吠えている。

世界のトップたちが、たった一杯の麺で陥落していく。

その光景に、ラスティアが不満げに頬を膨らませた。

「ちょっと! 新入りが龍魔呂を独占しないでよ!」

「あぁ? 小娘(魔王)、年長者を敬わんか」

一触即発の空気。

だが、その緊張を破ったのは、神々の戦いではなかった。

「おいおい、姉ちゃん。可愛い耳してんなぁ?」

店の中央テーブル。

酔っ払った冒険者の男たち(モブ)が、配膳中のルナの腕を掴んでいた。

「きゃっ!? あ、あの、離してくださいぃ……」

「いいじゃねぇか。俺たちSランク冒険者だぜ? 俺の酒が注げねぇってのか?」

男たちは気づいていない。

自分たちの背後に魔王がおり、横に聖獣がおり、カウンターに将軍がいることを。

店内が一瞬で静まり返り、VIPたちが「消すか?」「燃やすか?」「喰うか?」と殺気を放ち始めた――その時。

ヒュンッ!!

風を切る音がした。

「――あ?」

冒険者の男が気づいた時には、目の前に「赤と黒の影」が立っていた。

厨房にいたはずの龍魔呂が、瞬きする間に男の背後に移動していたのだ。

「……おい」

地獄の底から響くような声。

龍魔呂の指には、無骨な鉄の指輪が鈍く光っている。

「ウチの従業員に、気安く触ってんじゃねぇよ」

「あぁ!? なんだテメェ、ただの料理人ごときが……」

男が剣に手を掛けようとした、その刹那。

龍魔呂の右手が霞んだ。

拳ではない。

中指を親指で弾く、いわゆる「デコピン」の構え。

だが、そこには赤黒い闘気が圧縮され、空間が歪むほどのエネルギーが込められていた。

バヂィィィィンッ!!!!

「ごべぇっ!!??」

破裂音と共に、冒険者の男が弾丸のように水平に吹き飛んだ。

店のドアを突き破り、路地裏の向こうの壁まで一直線。

「ひぃっ!? あ、兄貴が一撃で!?」

残された取り巻きたちが腰を抜かす。

龍魔呂は、ユラリと紫煙を吐き出しながら、冷徹な瞳で見下ろした。

「……客として来るなら歓迎する。だが、ウチの敷居を跨いでナメた真似するなら」

龍魔呂の瞳が、一瞬だけかつての『DEATH4』の色を帯びる。

「命のスペア、用意してきな」

「ひ、ひぃぃぃぃ!! ごめんなさいぃぃ!!」

冒険者たちは泡を食って逃げ出した。

静寂が戻った店内。

壊れたドアの蝶番が、キィ……と音を立てる。

龍魔呂はフゥと息を吐くと、震えるルナの頭に手を置いた。

「……怪我はねぇか? 怖がらせて悪かったな」

「た、龍魔呂さまぁ……♡」

ルナの瞳はハートマークになりかけている。

そして、それを見ていた店内の女性陣(と一部の男性陣)の心にも、決定的な矢が突き刺さった。

(((((……抱いて!!!!)))))

ラスティア「強い……! 私の魔力障壁すら貫きそうな指弾……!」

ライザ「あの踏み込み、神速……! 剣を交えたい(意味深)!」

フレア「あらやだ、男前すぎるじゃない……♡」

「……ドアの修理代、高くつくな」

龍魔呂は頭をかきながら厨房に戻ろうとするが、背中に刺さる熱視線の量が倍増していることに、やはり気づいていない。

「……注文がねぇなら、皿洗うぞ」

鈍感な最強の男を中心に、夜は更けていく。

だが、ヒロインたちの「正妻戦争」のゴングは、今まさに鳴らされようとしていた。

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