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元殺し屋の鬼神、異世界でBARを開く。女神に壁ドンして貰った通販スキルで、最強美女たちを無自覚に餌付けしてしまった  作者: 月神世一


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EP 7

魔王、来店。そして陥落

それは、地下アイドル・リーザのライブが終わり、店が少し落ち着きを取り戻した頃だった。

突如として、小料理屋『龍』の空気が凍りついた。

店の外から漂ってくるのは、ただの殺気ではない。世界を圧し潰すような、絶対的な「魔」のプレッシャー。

「ひぃっ!? な、なにこの魔力……!?」

ウェイトレスのルナが、ガタガタと震えてカウンターの下に隠れる。

店に残っていた常連客たちも、顔面蒼白で動きを止めた。

カラン……コロ……ン……。

ドアが開く音が、やけに重く響く。

入ってきたのは、漆黒のドレスを纏い、長い黒髪をなびかせた絶世の美女。

その背後には、空間すら歪むような闇のオーラが渦巻いている。

ワイズ皇国を統べる最強の魔王、ラスティアだ。

「……ここね。私の可愛い部下たちを骨抜きにし、公務をサボらせているふざけた店というのは」

彼女の瞳は、絶対零度のように冷たい。

最近、側近のルーベンスをはじめとする魔族たちが、仕事もそこそこに「龍って店がヤバイ」と言って消える。

魔王として、この元凶を放置するわけにはいかない。

「店主はどいつかしら? ……挨拶代わりに、ブラックホールで店ごと更地にしてあげるわ」

ラスティアが掌をかざす。

その手の中に、光すら飲み込む暗黒の球体が生成されかけた――その時。

「……おい」

カウンターの奥から、低く、ドスの利いた声が響いた。

「他所の店で物騒なモン広げるんじゃねぇよ。営業妨害だ」

「……は?」

ラスティアの手が止まる。

魔王である自分に対し、全く怯まず、あろうことか説教をしてくる男。

赤と黒の服を着たその男――龍魔呂は、タバコの火を消しながら、真っ直ぐにラスティアを見据えていた。

「な、なによその態度は……! 私は魔王ラスティアよ!? 恐怖でひれ伏しなさい!」

「魔王だか何だか知らねぇが……ウチに入ったなら、アンタはただの『客』だ」

龍魔呂はカウンターを出て、ラスティアの目の前に立った。

身長差20センチ。

見下ろす龍魔呂の瞳に、ラスティアは思わず息を呑む。

(な、なによこの男……私の魔圧を至近距離で受けて、眉一つ動かさないなんて……!)

龍魔呂は、ラスティアの整った顔をジッと覗き込んだ。

「……それに、アンタ」

「な、なによ……命乞いなら……」

「随分と、寂しい目をしてるな」

「――ッ!?」

ラスティアの時が止まった。

寂しい? 私が?

最強の魔力と、絶対の権力を持つ私が?

「強すぎる力は、周りから人を遠ざける。……アンタ、誰かとメシ食ったのはいつだ?」

図星だった。

部下たちは彼女を恐れ、崇めるばかり。

対等に接してくれるのは女神ルチアナくらいだが、彼女も普段は天界にいる。

ラスティアは常に、広い王宮で一人、豪華だが冷めた食事を摂っていたのだ。

「う……うさ、うるさいわね! 余計なお世話よ!」

ラスティアは顔を背けたが、動揺は隠せない。

龍魔呂はフッと小さく笑うと、優しく言った。

「座ってな。……心が冷えてる時は、甘いモンに限る」

龍魔呂は厨房に入り、【地球ショッピング】を起動した。

検索:『スイーツ』『濃厚』『温かい』。

数分後。

甘く、ほろ苦い香りが店内に漂い始めた。

「……食いな」

目の前に置かれたのは、白い皿に乗った『フォンダンショコラ』。

そして、ベルガモットの香りが立つ『アールグレイ』の紅茶。

「……なによこれ。黒い塊?」

「ナイフを入れてみろ」

ラスティアは訝しげにナイフを入れた。

サクッ。

とろぉぉぉ……。

中から、熱々の濃厚なチョコレートソースが溶岩のように溢れ出した。

「っ!?」

その視覚的な暴力に、ラスティアの喉が鳴る。

フォークで掬い、口へと運ぶ。

「んっ……!!♡」

ラスティアの瞳が見開かれた。

表面のサクッとした生地と、中のトロトロのチョコ。

温かさと甘さが、冷え切っていた魔王の心臓を直接鷲掴みにする。

(あ、甘い……! なにこれ、魔法!? いいえ、これは……!)

続いて、アールグレイを一口。

柑橘の香りが、チョコの甘さを上品に中和し、鼻孔をくすぐる。

「……おいひぃ……」

魔王の仮面が崩れ落ちた。

そこには、ただ美味しいお菓子に感動する、一人の女性の顔があった。

「……甘いモンは心を溶かすぜ」

龍魔呂はカウンター越しに、満足げに食べるラスティアを見守っていた。

その眼差しは、手のかかる客を見るようでもあり、愛しいものを見るようでもあった。

ラスティアの胸が高鳴る。

こんな風に、ただ一人の「女」として扱われたことなんて、数千年の時を生きてきて一度もなかった。

(ズキュウウウンッ!!)

完食したラスティアは、ナプキンで口元を拭うと、真っ赤な顔で龍魔呂を睨んだ。

「……責任、取りなさいよ」

「あぁ?」

「私の舌も、心も……こんなにトロトロにしちゃって! 魔界のご飯じゃ満足できない身体にされちゃったじゃない!」

「……大袈裟な奴だな」

龍魔呂は呆れつつも、新しいタバコを取り出した。

「気に入ったなら、また来りゃいい。俺の店は逃げやしねぇよ」

「……絶対よ。毎日来るわ。もし店を閉めたら、地の果てまで追いかけてブラックホールに沈めるから」

それは、魔王なりの「プロポーズ(脅迫)」だった。

「へいへい。……お手柔らかに頼むぜ」

こうして。

小料理屋『龍』のカウンターの隅は、これ以降「魔王の指定席」となった。

彼女は毎晩のように来店し、甘いスイーツを食べながら、働いている龍魔呂の背中をうっとりと見つめるようになる。

「……龍魔呂様、また変な女性ひとを誑かしましたねぇ……」

「人聞きが悪いこと言うな」

ルナのジト目を無視して、龍魔呂はシェイカーを振る。

最強の魔王すら常連に加わり、店のカオス度は限界突破しつつあった。

だが、このハーレム状態を、天界からギリギリと歯ぎしりしながら見ている女神がいることに、龍魔呂はまだ気づいていない。

「……私の龍魔呂なのにぃぃぃ!! ラスティア、抜け駆けはずるいわよぉぉぉ!!」

女神降臨まで、あとわずか。

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