安全に見える≠守られている
「ううん……」
俺は空が白み始める時間に、目を覚ました。
背中がバキバキで、野宿をした結果が身体に表れていた。
変に身体を動かすと痛めてしまいそうだ。
ルーチェにマッサージをしてもらいたいが、様々な部分で手伝ってくれる彼女に、頼むのも申し訳ない。
むしろ俺がルーチェにしたい気分だ。
そんな事を考えながら、周りを見ていく。
ルーチェは起きている。
たき火は消えていて、寝ている間に燃え尽きたのだろうな。
「あれ?」
虫の音がしない。
鳥の鳴き声がしない。
風があるのに、草の揺れる音が薄い。
「静かすぎるわ」
家の中に居たって、もうちょっと音がする。
それなのに、何故だ。
と、ウィンドウが出てくる。
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◆周囲状況
・敵意反応:なし
・魔物反応:なし
・人影:なし
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状況からすると、安全に見える。
だけど、ルーチェが視線を巡らせ、俺の気持ちを察したのか、言い放った。
「”安全”ではありません。”誰も関与していない”だけです」
そう言われた途端、鳥肌が立った。
安全ではないって、どういうことなんだ。
「見てください」
昨日、座っていた場所の地面がいつの間にか均されていて、食べ残しや骨、紙くずなどが一切無い。
ゴミを放置したわけじゃないが、おかしい。
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◆環境変化
・人為的清掃:疑い
・追跡痕跡:消失
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「”何も残さない者”が通った可能性があります」
ルーチェは低く告げた。
何者なんだ、それ。
彼女には分かるかもしれないが、俺には分からなかった。
「誰も、来なかったのよね?」
恐る恐る訊いてみる。
「”来なかった”のではありません。”関わる価値がない”と判断されただけです」
もしかしたら、いつの間にか死人と化していたのだろうか。
あの人物みたいに。
「街道では誰も助けず、誰も見ないし介入しません。だからこそ、争いも起きないのです」
それは安全に見えるだけの、偽りの平和。
俺達は薄氷の上で動いているのだ。
背中に、夜露とは違う冷たさが貼りついていた。
「昨日の人物も、こうやって、消えていったのね」
誰も助けず、誰も通報せず、誰も責任を取らなかった、昨日を思い出した。
氷が割れる可能性はいくらでもある。
割れないためには、下手な動きはしないこと。
そう思えてしまった。
「ええ。だから街道は、嘘をつかないのです」
ルーチェは否定せず、俺に話していった。
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◆街道認識
・保護概念:なし
・正義介入:向こう
・生存基準:自己判断のみ
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「昨日より怖いわ」
同時に、生きたい気持ちが強くなる。
荷物をまとめながら、出発の準備をしていく。
「それで正解です」
ルーチェは短く返して、微笑んだ。
「”何も起きない朝”は、ここでは”警告”ですから」
それと共に、この場所を後にして街道を進んでいく。
シエラニコシエに向かって。
この朝、俺達は『無事だった理由』を誰にも訊かれなかった。




