街道での反応
街道を進んでいくうちに、朝霧は晴れていって、景色がはっきりとしていく。
周りは意外なほど静かで、のんびりとしていた。
ある程度踏み固められた道の脇には、膝上くらいまでの高さがある草原が。
奥には森が見えている。
「思ったより、静かですね」
「ええ。少し、拍子抜けするほどに」
踏み固められた道。
草原。
遠くの森。
ルーチェも少し安心していた、
そしてUIもそんな感じだった。
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◆街道状況
・視界:良好
・敵意反応:なし
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街道を進んでいって、シエラニコシエへの距離が短くなっていく。
このまま無事に着けるのかと思った。
「あら? 誰か、いるの?」
道の端に”人影”が。
倒れているようにも、座っているようにも見えた。
どうしたんだろうか。
「はい。ですが……お嬢様、立ち止まってください」
ルーチェはさっきとは違って、警戒のこもった声を出している。
どうしたのか。
「えっ?」
「あの方、”助けを求める気配”がありません」
それと共に、ウィンドウが表示された。
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◆異常検知
・対象:人型
・状態:衰弱/警戒混在
・助け要請:なし
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なんだこのUI。
衰弱しているのに、ルーチェの言っているとおり、助けを求めていない。
おかしい。
人なのに、人として振る舞っていないかのような。
すると、この人物が立ち上がった。
「……くれ」
小さめで乾いた声。
上手く聞き取れない。
「水……」
(助けを……? でも……)
聞き取ろうと俺は一瞬、近づいた。
「お嬢様、危ない!」
「えっ……うわっ!?」
この人物は突然、ナイフを振ったのだ。
咄嗟の反応で間一髪、避けることに成功する。
「下がってください!」
さらにウィンドウが表示された。
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◆敵対判定
・分類:人間未満
・交渉成功率:1%
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(何だこの分類!?)
この人物が人間未満だと表示されている。
何があったんだ。
「お嬢様には近づかせません!」
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ルーチェはフラッシュライトを唱えた
範囲を集中させ、敵の視界を奪った
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「……ぐあっ」
眩しい光によって、明らかに怯んでいる。
視界も一時的に奪われているみたいだ。
「お嬢様、今です!」
「え、ああ!」
俺は杖を使って、この人物を思いっきり叩く。
鈍器みたいに使ってしまったが、仕方が無い。
怯んでいた事もあって、攻撃は命中して、鈍い音が街道に響く。
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◆敵判定
体力:瀕死
撤退傾向:強
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「ぐ……あ……」
呻き声がこの人物から出てくる。
でもこの人物は倒れることもなく、逃げるように俺達の前から去っていった。
ただ俺達は追いかけることもなく、そのまま街道で立ったまま。
「何とかなりましたね」
「そうね……」
あの人物はどうなるんだろう。
かなりのダメージを受けていたが。
治療しなければ、助からないかもしれない。
もしも追いかければ、助けられたかもしれないが。
俺は動けなかった。
というか、何故あんな事に……
”人間未満”って判定される、という事は何かが起きないとそうならない。
ただ今の俺には予想できなかった。
「平然としているわね」
遠くを歩く旅人はいた。
だが、足を止める者はいなかった。
さっき、死ぬか生きるかの戦いがあったのに。
「……これが街道です」
ルーチェはこの事情を知っているかのように呟いた。
彼女は情報を知っているのか、過去に何かあったのか。
「前と同じですね」
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◆社会反応
・介入:なし
・通報:なし
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無慈悲に、UIが表示された。
マルム村と違っているな。
村なら、誰かが声を上げただろう。
でも、ここではーー誰も責任を取らない。
「だから、お嬢様が進む意味があるのです」
考えていると、ルーチェがそう伝えた。
進む意味、か。
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◆世界認識 更新
・安全圏:完全解除
・善悪基準:自己判断へ移行
・同行者信頼度:上昇
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街道は、優しくなかった。
けれどーー嘘もついていなかった。




