信じると言った責任
宿屋に戻って、夜を迎える。
村の喧騒が遠のき、部屋には俺とルーチェの二人が。
部屋はランプの灯りだけで照らしていた。
ルーチェはベッドの端で装備を調えて、宿を出る準備をしていた。
俺は椅子に座って、手袋を外していた。
いまのところ会話はあまりなく、静寂に近い状態が部屋で起こっていた。
「はぁ……」
手袋の中にある俺の手は、綺麗でほっそりとしたもの。
ただ杖や短剣を握っているから、多少なりともタコはついているけれど。
転生前の手とは違っている。
スポーツをやっていたから筋肉質だったのに。
でも今の俺は悪役令嬢グローリアだから仕方ない。
受け入れるか。
それよりも……
(やっぱり残っているよな)
俺は過去のログを見つめていた。
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【真偽解析 過去ログ】
対象の発言:肯定
判定:虚偽
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はっきりと子供に言った事が虚偽であることが残っていた。
『ねえ、お姉ちゃん達は聖女様を信じるの?』、それに対して『ええ』という肯定。
俺を断罪したエミリアを信じるわけにはいかない。
でも、子供に対して俺の感情で信じないなんて言えなかった。
あの子を裏切れなかったし、悪意なんて無かった。
だが冷たくUIは”虚偽”と表示された。
「間違っていないわ」
真実を守ったか? いいえ。
正義を守ったか? いいえ。
子供の希望を守ったか? たぶん、はい。
自分を守ったか? 間違いなく、はい。
「わたくしは、嘘をついた。でもそれは、誰かを傷つけないための嘘だった」
その事実だけは、俺の中で変わらなかった。
「ルーチェ」
「はい」
「さっきのこと、どう思った?」
彼女に問いかけることにした。
手を止めて、俺の話を聞いていく。
「何が、でしょうか」
「わたくしが子供の話に頷いたこと」
ルーチェは即答しなかった。
少ししてから微笑みながら話していった。
「お嬢様は、嘘をついたのではありません」
「……?」
「選んだのです」
俺が選んだ?
一瞬だけ俺は飲み込めなかった。
でも少しずつ理解していく。
(ああ。それは、”信じる”よりもずっと重い言葉だ)
それからルーチェはゆっくりと本音を語っていく。
「聖女という存在が、必要とされているのは理解しています。魔王や魔物に脅かされているこの状況でしたら、なおさらです」
ルーチェの言っていることは正しい。
「ですが”信じたい”と、”信じている”は違いますから」
彼女が付け加えた事。
それこそが、彼女に対しては『一部虚偽』というウィンドウが出てきたのだろう。
(エミリアが聖女だから、信じられないんだろうな)
ただ聖女という存在は否定できない。
かつて見た歴史書でも、聖女は奇跡を起こしている。
この世界状況だったら聖女を必要としている。
だからこそあの子も聖女に期待している。
「あの子に信じると口にした以上、わたくしはーーその”嘘”の責任を取らないといけない」
ならば俺は、”裏側”を見届ける役になろう。
そう決めながら、眠りにつくことにしたのだった。
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◆内面状態更新
信念:未確定
社会適応:維持
自己認識:深化
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