荷運び補助
次の日、俺達は行商人に言われた場所にやってきた。
朝は早めだったものの、荷物を載せた荷馬車がそこにあった。
彼は既に出発をする準備を整えているように見えた。
馬も調子が良さそうだな。
「よろしくお願いするわね」
「来てくれたな。助かるよ」
笑顔ではないものの、口元は多少緩んでいるようだった。
「こちらこそです」
「最近は村も物騒だからな。荷物を奪われでもしたら、商売が上がったりだ」
荷物を見ながら、心配そうな目をしていた。
大事な商品だからだろうな。
「そうみたいですわね」
昨日だって、魔物が出てきたからな。
彼だけだと襲われる可能性が否定できない。
「金に関してだが、”終わってから”渡す。仕事は仕事だからな」
「それで大丈夫ですわよ」
採取依頼だって、完了してから貰っている。
依頼ってそういうもんだって思っていたし。
だから、問題はない。
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◆行商人:オイラー・アーデルシュタイン
・信用:中
・警戒:微
・期待:小
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「ところで悪いが、荷物を固定するのを手伝ってくれ」
行商人は縄を持っていて、どうやらこれから縛ったりするみたいだな。
「分かりましたわ」
「では私はこちらを」
俺達は彼の言われるとおりに、荷馬車に荷物を固定していく。
ここは文化祭の手伝いやバイトでの記憶が活きていたのか、順調に固定が出来ていた。
ルーチェはメイドとして働いていた経験が活きているみたいだ。
「おお、手際良いな」
「昔のことを思い出しただけですわ」
彼は感心していた。
やがて時間も掛からずに固定が完了する。
「さて、そろそろ行こう」
「ええ」
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◆社会的認識
登録名:グロリア
役割:旅の手伝い人
危険認識:なし
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荷馬車は村を出ていって、草木がまばらな荒野を進んでいく。
ただ、通っているのは踏み固められているので、でこぼこだが道になっていた。
その道も、途中で合流して交易路らしい感じに。
(やっぱりこの世界でも人々は行き交っているんだな)
旅人がいるから当然だが。
「おっとと」
でこぼこになっている部分を進んでいったためか、固定されていた荷物が揺れて崩れそうになる。
やはり縛っていても甘かった部分があったのか。
「危ないですわ!」
そしてあるタイミングで、荷物が崩れかける。
俺は落ちそうになる荷物を支えながら、地面に落ちないようにしていた。
「お嬢様、このまま支えてください!」
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ルーチェはテディアップを唱えた
積み荷の荷物が整理された
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唱えた補助魔法、それによって動かなくなっていた。
俺はさらに補強させるため、縛りをもう一度強める。
荷物を傷つけないように、気をつけながら。
「おお、すまない」
行商人は髪を軽く搔きながら言った。
「大丈夫ですわよ」
目的地はまだ先。
だからこそ油断できない。
どこで何が出てくるか分からないからな。
出てこない方がいいが。
「うん?」
視界の奥で、道の影が揺れた。
風じゃない。音も違う。踏み込みの重さだ。
「お嬢様、止まってください」
ルーチェの声と同時に、ウィンドウが走る。
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◆危険検知
種別:人間(敵対判定)
人数:3
状況:不意打ち準備
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(人間の敵、か)
スライムでも狼でもない。
”意思を持って襲う相手”。
木陰から三人の男が現れた。
「盗賊だ!」
行商人が叫ぶ。
確実にこの荷物を狙って、やってきたみたいだな。
軽鎧、刃こぼれの短剣。
場数だけは踏んでいる目だ。
「よう、旅の姐さん方。運搬ご苦労なこったな」
盗賊でも、子分みたいだな。
雰囲気からするとそんな風に見える。
彼らの表情は余裕と油断の混ざった笑み。
「荷を置いていけ。それで全部丸く収まる」
ウィンドウが表示された。
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◆戦闘状況予測
交渉成立確率:5%
戦闘発生確率:89%
逃走難易度:高
護衛対象:逃走不可
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(そうだよな。逃げられるわけないか)
というか、荷物を置いていくという選択肢は取れない。
行商人の信用を裏切ることになるからな。
「お嬢様、私が後方で支援します。魔獣と戦うのとは違いますが、お気を確かに」
「ええ、大丈夫よ」
言葉と裏腹に、心臓の鼓動が早くなる。
「俺達と戦おうっていうのか?」
「おい、嬢ちゃん。手荒はしたくねぇんだ」
「悪いことは言わねぇ。怪我をしたくねぇなら、荷を置いていけ」
盗賊達はよくありそうな言葉を話していた。
そんなんで覚悟を捨てるわけにはいかねぇよ。
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◆盗賊(下位)
統率:低
撤退判断:早い
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◆護衛対象固定
対象:積み荷/行商人
・行動制限:逃走不可
・優先度:最上位
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「あいにく、わたくしは戦うって決めたのよ」
その瞬間、男が足を踏み出す。
「お嬢様、肩を狙っていますわ!」
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ルーチェ:【虚偽:なし/成功率:72%】
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「分かったわ、ルーチェ!」
「任せてください!」
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ルーチェはクイックステップを唱えた
機動補正:+15%
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世界が、僅かに遅くなる。
ヒールでも動きやすくなる。
(見えるーー!)
刃が肩を狙う直前、身をひねり杖で受け流す。
金属が軋む音がして、衝撃が腕を走る。
「チッ!」
舌打ち。
間合いを詰めてきた。
「お嬢様、脚です!」
彼女のその言葉と共に、ウィンドウが表示された。
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ルーチェ補助解析
・敵右膝:古傷あり
・左肘:可動鈍い
・優先:右脚→武器→視界
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初めて見るものだな。
だが、情報としてはありがたい。
「了解!」
短剣を振り下ろそうとしている隙に、俺は男子高校生丸出しの声で叫びながら短剣を突き刺す。
「そこだぁああッ!!」
ヒット。
男が崩れかける。
「テメェッ!!」
別の男が突っ込んでくる。
速い。狼よりは遅いが。
でも人間の癖特有の”いやらしさ”。
「ルーチェ!」
「はい!」
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ルーチェはフラッシュライトを唱えた
範囲を集中させ、盗賊の視界を一瞬奪取する
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辺りが一瞬だけ眩しくなる。
「ぐっ、目が……!」
まともに見たからか、目を押さえていた。
その隙に、俺は杖を全力で横薙ぎ。
「どりゃあああ!!」
顎に命中して、男はその場に崩れた。
残りは一人。
最後の男は、一歩引いた。
逃げるか、来るかーー判断の刹那。
(来い、こい……! 逃げろでもいい!」
UIが静かに判断する。
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◆敵判定
士気:低下
撤退傾向:強
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「チッ! 覚えてろよ!!」
悪役のテンプレみたいな捨て台詞を残して、走り去った。
まぁ、俺も”悪役令嬢”なんだけどな。
「やった、守れた……!」
静寂。
心臓だけがまだ戦っている。
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◆戦闘終了
護衛依頼:継続可能
被害:軽微
評価:高
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「お嬢様、お怪我は!?」
「……少し痺れているけれど、問題ないわ」
ルーチェが俺の手を包み、魔力が流れる。
温かい光が、神経を落ち着かせてくれる。
「助かった、本当に助かった……ただの旅人じゃなかったんだな」
さっきまでの”やや不信の目”が、明確な”信頼”に変わる。
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◆行商人:オイラー・アーデルシュタイン
・信用:高
・警戒:無し
・期待:大
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剣が混じり合った音が消えて、風の音がまた戻ってくる。
(魔物も怖い。でも”人間”はもっと怖いのかもしれないな)
だけどーー
「大丈夫ですよ、お嬢様。”お一人”じゃありませんから」
ルーチェの笑顔が世界の怖さを少しだけ和らげてくれた。
エミリアの言う”正義”とは、違う戦い方だ。
「さて、まだ目的地は先だから行くわよ」
依頼は途中。
俺達はまた目的地へと進んでいった。




