表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、ただいま国を立て直し中  作者: AAA
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/29

第四章:紅茶と密約 ―宰相の微笑みは罠の味―

「これほど静かな午後は久しぶりですね。」


レオン・シュタイン宰相が、ゆったりとカップを持ち上げる。

ここは王城の奥、執務室の隣にある小さなティールーム。

国の中枢にいるとは思えないほど、陽だまりが穏やかに差し込んでいる。


「……それ、わたくしが“監査報告書”を書いている間に言う台詞ですの?」


私は書類の山を指で叩いた。

「侯爵家の横領事件」から一週間。

おかげで仕事は雪崩のように押し寄せている。


「ほら、あなたが“監査官代理”に任命されたのは誰のせいでしたっけ?」

レオンがくすりと笑う。

「あなたが陛下の前で“侯爵家を徹底的に洗うべきですわ”と宣言したからですよ。」


「……言葉には責任を持つ主義なんですの。」


「素晴らしい。では、これも責任を取ってもらいましょう。」


「何を、ですの?」


「この紅茶を。あなたのために淹れたので。」


目を瞬かせる。

机の端には、銀のポットと二つのカップ。

琥珀色の液体が湯気を立てていた。


「あなたが紅茶を? ……毒でも入ってません?」


「失礼な。――それに、毒を使うならもっと香りの良いものを選びます。」


「言い切りましたわね。」


一口、口をつけた瞬間、驚くほど柔らかい香りが広がる。

「……これ、“マリエル”の茶葉? 王族専用のブレンドですわよ。」


「そう。あなたが断罪イベントで“陛下を笑わせた女”として、王室の許可を得ました。」


「……それ、栄誉なんでしょうか。」


「少なくとも、私はあなたを特別扱いする理由になります。」


カップを置く手が、微かに止まった。

宰相の視線が、ゆっくりと私を射抜く。

あの冷静な男が、ほんの少しだけ笑っている。

その笑みの奥に、何か甘い罠のような気配。


「……さて、仕事の話をしましょう。」

彼が立ち上がり、窓際に歩み寄る。

「侯爵家の裏に、さらに“黒幕”がいます。あなたも心当たりがあるでしょう?」


「ええ。リリア侯爵令嬢を裏で操っていた“教会派”の噂、ですね。」


「その通り。彼らは“聖女信仰”を利用して、政治を動かしている。

そしてあなたは――彼らにとって最大の“異端”。」


「まあ、それは光栄ですわね。」


「だから、守る必要がある。あなた自身を。」


彼が振り返る。

その表情は、いつもの氷の宰相ではなかった。

一瞬、息が詰まるほどの真剣さ。


「……レオン様。今さら“守る”なんて言葉、似合いませんわ。」


「では、どう言えばあなたは受け取る?」


「“共犯”なら、納得しますわ。」


「……やはり、あなたは悪役令嬢の名にふさわしい。」


レオンが小さく笑い、懐から一枚の封書を取り出す。

「この書状に、陛下の印章があります。内容は――“次期王妃教育官にヴィオレッタ・ランベールを任ず”。」


「……はい?」


ペンを持つ手が止まる。

空気が静まり返る。


「つまり、あなたには“王族教育の監査権”が与えられる。

表向きは教育官、実際には――王室改革の鍵。」


「……待ってください、それって実質、陛下の右腕では?」


「そうです。そして、私の“正式な補佐官”でもある。」


「それ、密約どころか共同政権じゃありませんの。」


「紅茶を飲み干したら、契約成立です。」


「そんな軽いノリで国を動かさないでくださいまし!」


……が、気づけば私のカップは空になっていた。

レオンが満足げに微笑む。


「これであなたは、私の共犯です。」


「……本当に腹黒い男。」


「あなたにだけは言われたくありません。」


ふたりの間に、静かな笑いがこぼれる。

けれど――その笑いの奥には、次なる戦いの予感が漂っていた。


紅茶の香りの中、私の心臓が静かに跳ねる。

この男の隣に立てば、きっと退屈だけはしない。

危険と知っていても、もう後戻りはできなかった。


その夜、宰相府の窓辺でレオンは独り言のように呟いた。

「……“共犯”か。なるほど、悪くない響きだ。」


机の上には、一通の新しい密書。

宛名は――“枢機卿へ”。


『標的変更。

次は“悪役令嬢”を排除せよ。』


そして、窓の外では月がゆっくりと笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多数作品掲載中 AAAのnote
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ