番外編:紅茶館の災難(お客様感謝デー編)
朝。
いつもより派手な装飾の紅茶館。
入り口にはリボンと花のアーチが飾られ、張り紙にはこうある。
【本日限定!紅茶館お客様感謝デー!】
特別ゲストによる一日店員企画開催!
――そう、事件はここから始まった。
「……一日店員を頼んだのはいいけれど、まさかお二人が名乗り出るとは……。」
カウンターで顔を覆うヴィオレッタ。
なぜか一番張り切っているのは、よりによってこの二人だった。
「おい、次のお客様のオーダーは?」
「紅茶とケーキのセット、ですわ。」
「了解した。では俺が持って――」
「宰相閣下! トレイは水平に!」
「わ、わかっている! この俺にできぬわけが……あっ!!」
(ガシャーン)
テーブルに優雅に舞い降りる紅茶――いや、紅茶まみれの宰相。
客席からどよめき。
「お嬢様、宰相が倒れたー!」
「誰かナプキンをー!」
ヴィオレッタは深いため息をつきながら、
「……やはり、接客より“防衛省案件”のほうが得意ですわね。」
一方その頃。
外ではアレクサンドルが張り切っていた。
「紅茶館、只今イベント中!
笑顔の店主ヴィオレッタ様がお待ちしてますよ〜!」
通行人に爽やかに声をかける姿は、まさに王子の風格。
……だが、問題はその後だった。
「こちらの“宰相ブレンド”を飲むと、恋愛運が上がります!」
「えっ!? ほんと!?」
「なんと“宰相が焦るほどの味”!」
(店の中で聞こえるレオンの怒鳴り声)
「おい貴様! 誰が焦る紅茶だ!」
「事実だろう? 昨日焦ってたじゃないか。」
「言うなあああ!!」
・紅茶を運ぶたびに皿を落とす宰相。
・宣伝のたびに女性客を増やす王子。
・そして対応に追われる公爵令嬢。
「……もう、どちらが国を動かしているのか分かりませんわ。」
「レオン、もっと笑顔を!」(アレク)
「貴方に言われたくない!」(レオン)
「ではヴィオレッタに手を振って笑ってみろ。」
「なぜ私がそんな……!?」
「ほら、客が見てるぞ!」
「くっ……こうか?(ぎこちない笑顔)」
「ぎゃあっ! 宰相が笑った!」「珍しい!」
「国の奇跡だ!」
店内が歓声に包まれた。
ヴィオレッタ(心の声):
(もう……紅茶館が外交の最前線になってますわね……)
イベントも終盤。
ようやく落ち着いた頃、リュシアンが言った。
「お嬢様! “特別景品くじ”がまだ残ってます!」
「……あら、それは確か“1等:ヴィオレッタ様とのお茶会券”では?」
その瞬間、
二人の男の動きが止まった。
「ヴィオレッタと……お茶会?」(レオン)
「一対一?」(アレク)
沈黙。
「……私が引こう。」(レオン)
「いや、私が。」(アレク)
「お二人とも! くじはお客様のものです!」
「いや、私も客だ!」(レオン)
「外交特使も客だ!」(アレク)
「……やめてくださいまし!!」
結果――
一等を引いたのは近所の老婦人。
ヴィオレッタは心から安堵し、
二人の男は同時にため息をついた。
夕暮れ。
片付けを終えたヴィオレッタが、静かに紅茶を淹れていた。
「……やっぱりお客様感謝デーは、年一で十分ですわね。」
「いや、次は“紅茶外交フェス”をやろう。」(アレク)
「次こそ完璧な接客をしてみせる。」(レオン)
「……次がある前提で話さないでくださいまし!」
店内に笑いが響く。
紅茶の香りが、夕焼けに溶けていった。
紅茶館、本日も平和(?)なり。




