第六章:香りによる操作
紅茶館の午後、穏やかな日差しがカウンターを照らす。
しかし、館内の空気は微妙に緊張していた。
ヴィオレッタはふと気づく。
「……あれ、さっきまで見えていたアレクサンドル様の細かい仕草や表情が、どうも曖昧に感じますわね。」
実は、アレクサンドルが差し出す紅茶には記憶や印象を微かに操作する香りが含まれていた。
そのため、レオンもリュシアンも、そしてヴィオレッタも、彼の行動や容姿を完全には記憶しきれず、妙な違和感を覚えるのだ。
レオンは眉をひそめ、国の宰相としての顔に戻る。
「……これは……何かの策略か。正式に抗議すべきだ。」
しかしヴィオレッタは微笑を崩さず、紅茶カップを軽く持ち上げる。
「……レオン、これは抗議するより、むしろ同盟のきっかけにできるかもしれませんわ。」
レオンは驚き、ヴィオレッタを見つめる。
「……どういうことだ?」
ヴィオレッタは香りを深く吸い込み、慎重に考える。
「この香りは、記憶や印象を操作するもの……つまり、アレクサンドル様が情報を探るための策略でしょう?
ならば、これを逆手に取り、平和的な協力関係を築く口実にできますわ。」
アレクサンドルは静かに微笑む。
「……なるほど、紅茶館での時間が、そういう使い方になるとは……」
レオンは一瞬黙り込み、やがて肩をすくめる。
「……確かに、これも一つの戦略かもしれない。」
ヴィオレッタは胸の内でにんまり笑う。
「……ふふ、紅茶館の午後は、上質な紅茶、そして少しの策略で彩られるのですわね。」
館内の窓から差し込む光の下、二人は優雅に紅茶を飲み交わすのであった。




