第二章:下剋上は紅茶とともに。
「それで──どうして王城の会議室に、私が呼ばれているのかしら?」
私は優雅に紅茶をすする。
相手は、あの第二王子アラン。昨日まで断罪してきた張本人である。
……あ、補足すると“元・婚約者”ね。
もう「様」付けする気も起きない。
「ヴィオレッタ。昨日の件は……いや、まずは謝罪を──」
「謝罪は三杯目の紅茶のあとにお願いします。」
「三杯目……?」
「許す気はありませんが、聞くだけなら紅茶三杯分の時間は差し上げます。」
アランは困った顔で頭を掻く。
うん、いい感じに狼狽えてる。
昨日まで「断罪する側」だったくせに、今や立場が逆転。
まさに下剋上。紅茶の香りと勝利の味は似ているのね。
そこへノックの音。入ってきたのは陛下付きの宰相閣下――
つまり、王国の実務を牛耳る男だ。
「ランベール嬢。国王陛下より命を預かってまいりました。」
「まあ、わたくしに? まさか新しいドレスの予算ではなくて?」
宰相は書簡を開き、淡々と告げる。
「……本日をもって、貴女を王国監査官代理に任命する。」
「はあ、代理。」
「本官が出張中のため、実務を任せたいと。対象は──侯爵家の財務記録。」
「リンドール侯爵家、ですね?」
「……察しが良すぎる。」
にっこり。
王子が慌てる。「ヴィ、ヴィオレッタ、それは待て! 彼らを敵に回せば、国内の商人たちまで──」
「問題ありませんわ。彼らが敵に回るなら、正義と経済の両方を味方にするまでです。」
そう言って立ち上がる。
扇子の先で机をトン、と叩くと、風がふわりと流れた。
――実は昨日から、王都の商人ギルドにちょっとした「依頼」を出してある。
「“侯爵家の横領が発覚した場合、王室に全額返還すれば税を一年免除”って条件をね。
あら、もう街では噂になってる頃かしら?」
「な、なんだと……!? そんなことを勝手に──!」
「勝手? いいえ。王妃教育の一環で学んだ“政治交渉”の応用ですわ。」
アランは絶句する。
宰相は口元を押さえ、何かを堪えるように肩を震わせている。
……笑ってるわね? あなた。
「ランベール嬢、見事だ。陛下が仰った通りだ。
“あの娘を敵に回すな。今度は味方にしろ”と。」
「まあ、お褒めいただき光栄ですわ。ところで陛下の味方なら──予算の件も少し、融通していただけるかしら?」
「……紅茶代、という名目なら可能だ。」
「ええ、それで結構です♡」
私が微笑むと、宰相が頷き、王子がため息をついた。
こうして、断罪された“悪役令嬢”は王国の権力中枢へと滑り込み、
次なる獲物──腐敗貴族どもを紅茶片手に狩りはじめるのであった。




