第一章∶謎の青年客、現る
紅茶館の午後、窓から差し込む柔らかな光がカウンターを照らす。
いつもより少し静かな館内に、見慣れない青年が現れた。
黒髪に深い青い瞳、そして落ち着いた佇まい。
まるでこの館の空気に溶け込むかのように歩いてくる。
「……お嬢様、この紅茶は、一体どんな趣向で淹れられているのですか?」
青年は微笑み、ヴィオレッタを見つめる。
リュシアンは慌ててお辞儀し、ヴィオレッタの背後に隠れた。
「……お客様、初めての方ですの?」
ヴィオレッタは胸の内で微笑む。
「ふふ……どうやら新しい“情報源”か、もしくは小さな事件の予感ですわね。」
その時、レオンが青年に気付き、少し険しい表情で立ち上がった。
「……お前、誰だ?」
青年は軽く頭を下げる。
「初めまして。私はアレクサンドル。紅茶館の評判を聞いて、興味を持ちました。」
青年の微笑みは柔らかく、知的で、どこか計算された印象を漂わせている。
レオンは無言でヴィオレッタの横に立ち、青年をじっと見つめる。
ヴィオレッタは内心でクスクス笑う。
「……紅茶館は、今日も賑やかになりそうですわ。」
リュシアンは小声でつぶやく。
「お嬢様……この青年、ただ者ではなさそうです……」
館内での彼の振る舞いは紳士的で魅力的に見えるが、目の奥には秘密が隠されている。
その影はまだ読者にも、ヴィオレッタやレオンにも、明かされない。
紅茶館の日常に、静かに新たな波が忍び寄る――




