第十三章:枢密卿マルコム ―王宮での直接対決―
王宮の奥深く、夜の静寂が張り詰める廊下。
燭台の炎が壁に揺れるたび、影が生き物のように動いた。
私は書類を胸に抱き、レオンの背後に隠れる。
宰相の存在が、唯一の心強さだ。
「……ここが、マルコム卿の執務室。」
私は低く呟き、扉の前で息を整える。
レオンは刀身の影を手でなぞりながら、静かに頷く。
「行くぞ。」
扉を開けると、マルコム卿は椅子に腰掛け、予想以上に落ち着いた態度でこちらを迎えた。
「……ああ、ヴィオレッタ・ランベール殿。
王都に戻るとは、勇気がありますな。」
声は冷たく、しかしどこか楽しげだった。
「……貴方の陰謀はすべてお見通しです。」
私は胸の書類を差し出しながら言う。
「この帳簿で、貴方の裏金の流れも、教会派との結託もすべて証明できますわ。」
マルコム卿は微笑み、手をひらりと動かした。
「証拠は面白い。しかし、真実は一枚の紙では動かぬ。」
その言葉に、私の指先がわずかに震える。
だが、紅茶館で鍛えた観察眼が、彼の微妙な肩の動きや息遣いを逃さない。
「ならば、ここで真実を見せて差し上げますわ。」
私は書類を広げ、証拠を提示する。
「枢密顧問としての責務を逸脱した行為のすべて。
王国の腐敗と陰謀の証拠です。」
マルコム卿の目が一瞬、鋭く光った。
「なるほど、君は恐ろしい女になったものだ。」
彼は立ち上がる。
「しかし、ここまでの行動には代償がある。」
その瞬間、部屋の空気が重く締め付けられる。
刺客たちが背後から襲いかかるタイミング――緊張が極限に達する。
「……レオン!」
私は咄嗟に叫ぶ。
宰相は瞬時に反応し、刺客を迎え撃つ。
刃と魔導符が光を交わし、影と光の間で戦いが繰り広げられる。
「ヴィオレッタ、書類を守れ!」
レオンの声に従い、私は冷静に動く。
書類を安全な場所に隠しつつ、魔導符で侵入者の動きを封じる。
戦いの最中、マルコム卿の視線は私を追い、心理戦を仕掛けてくる。
「……君は感情で動く。
ならば、この王都の策略に飲まれるはずだ。」
「ええ、感情で動くからこそ、冷静に判断もできるのですわ。」
私は微笑みを浮かべ、彼の挑発に乗らず、冷静に行動する。
紅茶館で培った“心理戦の読み”が、ここで生きる。
刺客を退け、書類を確保した瞬間、レオンがマルコム卿を鋭く牽制する。
「もう逃げられぬ。王国の正義の前に、貴方の陰謀は破られる。」
マルコム卿は、初めて動揺の色を見せた。
「……恐ろしい女だ、ヴィオレッタ。
そして、宰相も……。」
私は胸の書類を掲げ、低く微笑む。
「これが、紅茶館で仕込んだ“策略の真髄”ですわ。」
夜風が窓を揺らし、燭台の光が二人の影を長く伸ばす。
悪役令嬢ヴィオレッタ・ランベールと宰相レオンの同盟が、王都の陰謀を打ち砕く――。




