5話 城下町の買い物
翌朝。
僕はラピスとセレナを連れて、活気にあふれる城下町へ繰り出していた。昨日の謁見のあと、カリナからこう言いつけられている。
「ラピスの羽は目立ちすぎる。隠せる外套を買ってこい。それと、武器や道具の準備も一緒に見てきてやれ。」
というわけで、僕らはこうして買い出しに来ているわけだ。
石畳の通りには人がひしめき、露店の呼び声や楽器の音が入り混じって耳を賑わせていた。革具、ローブ、魔導具、携帯食料に回復薬……並ぶ品々は冒険者や魔導士を相手にしたものばかりだ。
「わぁ……!人がいっぱい!ぼくの村じゃ、こんな賑やかな場所なかったよ!ねっ?セレナ!」
ラピスが大きな瞳をきらきらさせ、左右をきょろきょろと見渡す。
その背にセレナが素早く外套を被せた。
「ラピス様、フードを深く被ってください。それに羽を見られれば、無用な騒ぎを招きます。あまり目立たぬように。」
「……うん」
ラピスは少し残念そうに肩を落とす。
(あんなに綺麗なのにな……)
つい心の中でそう呟きながら、口からもぽろりと出てしまった。
「でもさ……やっぱり隠すの、もったいないくらい綺麗だよね」
「えへへっ……そうかな?」
ラピスは頬を赤くして笑う。セレナは小さくため息をつき、きっぱりと言い添えた。
「軽々しく口にすべきではございません。その羽は特別な証なのですから」
◇
武具屋では、セレナが真っ直ぐ弓具の棚へ向かい、真剣な眼差しで品を吟味していた。
「……この弓。軽量でありながら、引きも十分に効きます。人間界の弓、実に興味深い。」
隣でラピスは小さな短剣を手に取り、首をかしげる。
「ぼくも……こういうの、持った方がいいのかな」
「護りはわたしの務めです。ですが護身用に一本持つのは悪くありませんね」
(ほんと、真面目だなぁ……)
僕は思わず口を出す。
「なんか……セレナって冗談通じなそうな真面目タイプだよね」
ラピスがぱちくりと目を瞬き、ふわりと笑った。
「……うん。でもね、あー見えて可愛いところもあるんだよ」
(……うそ)
僕はちょっと驚いてラピスを見返す。セレナはちらりとこちらを見たが、何も言わず、弓の弦を確かめ続けた。
雑貨屋では、保存の効く食料を買い込む。ふと店主が差し出した小瓶に目が留まった。
「回復薬か。高いけど、一つくらいは持っておいた方が安心だね」
「そうですね。傷薬も、念のため買っておきましょう。戦場では、些細な備えが生死を分けます」
セレナが冷静に必要数を計算し、迷いなく購入していく。やがて袋がどんどん重くなり、ラピスが抱えながら小さく笑った。
「こうして歩いてると……なんかちょっとわくわくする」
「わくわく、か」
僕は少し苦笑して答える。
「僕は正直、不安の方が大きいけど……ラピスがそう言うなら、少し安心するよ」
ラピスの羽が外套の中で小さく震え、その横顔はどこか誇らしげに見えた。
買い物を終えて石畳を歩き出す。遠くで鐘の音が鳴り響き、賑やかな町に一瞬だけ静寂が落ちる。
それは、僕らを再び歪みの渦へ導く合図のように聞こえた。
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次回予告
フィオル、カリナ、異世界のからの来訪者
ラピスとセレナは王直轄の【特別班】となり
新たな歪みが生まれた境界の村の
調査へと派遣される。
農業で静かな暮らしをしていた辺境の村は
黒い霧に蝕まれ静かな営みに
影響が出始めていた。
初任務に挑む【特別班】フィオルたち。
しかし、霧の奥で待つのは
歪みだけではなかった。
黒い異形と化した動物が村を襲う。
再び姿を現すヴァルディアの影。
そしてフィオルの【光】が、試される―。
次回、『Chapter02:特別班始動』
10月13日18時に投稿いたします!
お楽しみに!




