46話 「七環への道標」
ロイの笑顔が光の中へ消え去った直後
再び空間を揺らすように『影』が姿を現した。
神々しきその影は、深淵から響くような声で告げる。
「よく試練を乗り越えましたね。
これで【水の理】もあなたの物です。」
「若き魔導士よ。はるか南の大陸。【七環の神殿】を目指しなさい。そこに、あなたを導く道標があるでしょう。かつての召喚魔導士がそうしたように……」
その言葉と同時に光が一筋の流れとなって僕の胸に吸い込まれていく。
温かな理力が鼓動と共に脈動し、魂そのものを震わせた。
「……さあ、進みなさい。
あなたの『言葉』が未来を形作るのです」
声は次第に遠ざかり、影の姿はゆっくりと霧散していった。
残されたのは胸の奥で絶え間なく燃え続ける、揺るぎなき決意の灯火。
次の瞬間
幻惑の世界が弾けるように消え去り、視界は現実へと引き戻された。
「ぷるるる!!ぷる!」
目を開けると、顔の上でぷるぷるした物が動いた。
「スラチャビ……?」
ラピスは今にも泣きそうな顔で、小さな声で呼びかける。
「フィオル……っ!
よかった……目を開けてくれた…!!」
セレナは眉を寄せ、心配そうに見守りながらも声にわずかな震えを滲ませていた。
「急に崩れ落ちたのです。呼吸も浅く……このまま目覚めなかったらと……」
カリナは腕を組んでいたが、隠せない焦りが声ににじむ。
「よかった……大丈夫か?フィオル。」
「……僕、倒れてたの?」
かすれた声でそう言った瞬間、目尻に溜まっていた涙が落ちる。
頬を伝ったその雫は、ただの涙ではなかった。淡く光を帯び、床に落ちると小さく煌めきを放つ。
僕は驚きに目を見開き、指でそれを拭い取る。
「……これは……」
冷たい感覚。
だがその奥に確かな理力の脈動を感じる。
胸に手を当てると、確信があふれ出した。
「水の理力だ……」
カリナは息を呑み、セレナは目を見張り、ラピスは涙を拭いながらも笑顔を浮かべた。
仲間たちの胸に広がったのは安堵と驚愕、そして新たな希望だった。
僕は深く息を吸い込み、静かに詠唱を始めた。
「集え、水よ。清き流れとなりて、
この掌に顕現せよ…!」
掌から透明な水流が渦を巻き、光を反射して煌めいた。
その清らかな水は床に散ることなく宙に浮かびやがて小さな水球となって安定する。
「おおっ!? マジかよ!」
ディーンが勢いよく立ち上がり、目を輝かせる。
「えっ?フィオルちゃん、
寝てる間に何があったの!?」
セレナは冷静に頷く。
「確かに……水の理力を操っています。
幻惑ではなく、真実……」
ラピスは嬉しそうに飛び跳ねてスラチャビを抱きしめる。
「すごいよ、フィオル!水だ……!」
「ぷるるるっ!」とスラチャビも弾む。
カリナは腕を組んだまま、にやりと笑う。
「やったな。信じられないがこれで【四理】を扱えるわけだ。【召喚魔導士】への道が、またひとつ繋がったな」
ディーンは大げさに手を叩きながら、にかっと笑った。
「いや~、なんかよくわかんないけど…可愛いからいいか!!なっ!フィオルちゃん」
「ぼ、僕は男だってば!」
顔が一気に熱くなる。
必死に抗議したけれど、ディーンは肩をすくめて笑う。
「可愛いに男も女も関係ねぇんだって。
実力と顔、両方持ってるとか羨ましすぎ」
カリナがすかさず拳骨を落とす。
「チャラチャラすんな!フィオルはそういうタイプじゃないんだ!穢らわしい!」
「いてっ!」と頭を押さえながらも
ディーンは楽しげに笑い続けた。
そんなやり取りの後、僕は仲間たちに向き直り
幻惑の中で聞いた『影の声』を語った。
「……さっき僕は、幻惑の世界の中にいた。そして、導かれたんだ。『はるか南の大陸の【七環の神殿】を目指せ。そこに、僕を導く道標があるだろう』……って」
仲間たちは一斉に顔を見合わせる。
「【七環の神殿】…実在するかどうかさえ疑われている名前ですがまさかそこが次の道標だとは」
セレナが神妙に呟き、カリナは力強く頷いた。
「つまり、次の目的地は
決まったってことだな」
僕は胸の奥の決意を確かめるように拳を握る。
「うん!」
ディーンが笑顔で親指を立てる。
「よし! じゃあ次の冒険は【七環の神殿】だな。フィオルちゃん。俺も最後まで付き合うぜ!」
「は? ついてくんのかよ」
カリナが即座に一蹴する。
だがディーンは全く怯まず、むしろ嬉しそうに笑った。
「だってよ、お前らと一緒にいたら絶対すごいものに出会えるって確信したんだ。今回はお宝なんて一個も拾えなかったけどさ……」
「それ以上にいいもん見せてもらったし。それに、カリナちゃんも、フィオルちゃんも、ラピスちゃんも、可愛いしな!あっ、スラチャビもな?」
セレナが苦笑を漏らす。
「……調子のいい人だとは思っていましたが、本気のようですね。それに私だけ入っていないのは少し気になりますが」
「チャラいのは変わんないけどな」
カリナは渋い顔をしつつも完全には否定できなかった。
ラピスはぱっと顔を明るくして叫ぶ。
「ぼくはいいと思うよ!
ディーン、なんだか楽しいし!」
「ぷるるっ!」とスラチャビも弾んで賛同する。
僕は皆を見回し、小さく頷いた。
「……じゃあ、これからは新しい仲間として一緒に進もう。【七環の神殿】へ」
ディーンは満面の笑みを浮かべ、拳を掲げる。
「よっしゃ! 新しいパーティーの誕生だ!」
仲間たちは視線を交わし、自然と笑みをこぼす。
こうして、旅は【雷の適性者】で未知数のトレジャーハンターディーンを新たな仲間に迎え
より賑やかに、より強く歩みを進めていくのだった。




