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45話 「水の聖域、名もなき癒しの涙」

やがて最深部にたどり着いた。

そこはまるで水底に沈んだ古都の心臓部だった。

広間中央には祭壇が浮かぶように佇み、その上には古代の石碑。

【風の峡谷】で見たものと同じ、荘厳な存在感を放っていた。


「……また、あの石碑だ」


僕が一歩近づくと、仲間たちの視線が集まる。


「フィオル、気をつけろよ」


カリナが剣に手を掛け、周囲を警戒する。


「気をつけるのはわたしたちもです。

 ボス戦の可能性が極めて高いです」


セレナの声は鋭い。


「うわぁ……罠発動の空気プンプンじゃん。

 どうか吹っ飛ぶ系じゃありませんように」


ディーンは肩をすくめて苦笑した。


ラピスはスラチャビを抱きしめ、不安そうに僕を見つめる。


「……フィオル、大丈夫?」


僕は笑って応える。


「大丈夫。僕なら平気だよ」


両手を石碑に書かれた封律文字(ルーン)に添えた瞬間、波紋のような光が広がり、祭壇全体を呑み込んだ。


「っ―!?」


仲間達の声や、手の感覚が全部、掻き消されていく。


「みんな!!」


必死に叫んでも、返事はなかった。


次の瞬間、青い水の帳が落ち、僕はただ一人

幻惑の世界へ引き裂かれた。





気がつくと、そこは静かな水鏡の空間。

足元は鏡のような水面で、頭上には無数の星が瞬いている。

まるで宇宙の底に沈んだ湖のようだった。


その水面に、一人の少女が立っていた。


銀の髪を波打たせ、透き通るような水色の瞳。

どこかで見たことがある気がした。

でも、名前が浮かばない。


少女は静かに微笑んだ。

でも、その瞳には深い悲しみが宿っていた。


「……ようやく会えた」


声は水の底から響くように優しい。


「ここは水の聖域。古の誰かが残した、最後の記憶です。あなたに託すものがある」


彼女はゆっくりと手を差し伸べる。

掌の上に、小さな水の滴が浮かんでいた。


「これは【水の理力】の種。でも、それを受け取るには……あなたの本当の願いが必要」


水面が揺れ、景色が変わる。


十年前の訓練所の裏庭。

幼い僕とロイが、木の枝を剣にして笑い合っている。


でも次の瞬間、景色が歪む。

ロイが血まみれで倒れ、僕の手は届かない。

幼い僕が泣き叫んでいる。


「ロイ! ロイぃっ!!」


回復魔法は使えない。

適性が無い。僕に癒しの力はない。

誰かを守ることはできても癒すことはできない。

どれだけ祈っても、光は水に変わらなかった。


現実の僕は、拳を握りしめた。

胸が締めつけられる。


「……僕は、ロイを癒したかった。

 いつも傷だらけのロイを...。」


「いくら頑張っても、癒しの力は生まれない。

 それなのに、ラピスはいとも簡単に...」


「僕には回復魔法のセンスがないんだ。

 誰かが傷ついても、ただ見ているだけ。」


「僕には....何も出来ないんだ」


少女が静かに頷く。


「そう。その、劣等感はいつからか、

 あなたの心に深い傷を残した」


水面に、次の光景。

ヴァルディアの黒騎士となったロイが、雷を纏って倒れている。

黒い霧に焼かれ、血を流しながら


「……フィオル……俺は……

 君を……守り……たかった……」


その声が、胸を抉る。


「違う!ロイは生きてる!

 絶対に死なせない!!」


涙が零れた。

でもそれは悲しみだけじゃなかった。


「僕は……仲間を傷つかせたくない!

 ロイを癒したい! みんなを癒したい!!」


その叫びに、水の滴が激しく輝いた。

少女の瞳に、優しい光が灯る。


「そう。その想いこそが、

 真の【水の理力】を生む。

 光は攻撃のためだけじゃない。

 水は癒しのためだけじゃない。」


「光と水が交わる時、

 初めて真の『癒し』が生まれる」


彼女は両手を広げた。


「さあ、受け取って。“光と水の調和”

 聖癒の理(ルミナ・イアリス)


水の滴が僕の胸に吸い込まれる。

瞬間、身体を貫く温かな力が満ちた。


光が水となり、水が光となる。

二つの理力が完全に融合し、新たな力が目覚めた。


「これが……僕の……!」


少女が微笑む。


「あなたはもう、癒しを扱える【水の適性者】になった。傷ついた者をあなたの光で癒すことができる」


彼女の姿が、水の粒となって散り始めた。


「ありがとう……。あの、君は...?」


少女は首を振り、静かに告げた。


「私のことは……まだ、言えません。

 でも、いつか必ず」


最後に、彼女は囁いた。


「ロイは……あなたを待っている。

 雷の奥に、少年の心がまだ残っている」





世界が白く弾けた。

そして再び、目の前にいたのは血まみれで倒れているロイだった。


「ロイ……!?」


黒い雷を纏い、胸を深く抉られた傷から血が滴る。

息も絶え絶え。瞳は虚ろで、僕を見ている。


「……フィオル……助けて……」


「ロイ!待ってて!今、癒すから!」


僕は膝をつき、ロイの体を抱き起こした。

冷たい。あまりにも冷たすぎる。


でも、確かに鼓動はしていた。


「僕……今度こそ……!」


震える手を傷口に当てる。

胸の奥で、光と水が共鳴する。


「聖なる水よ、光と共に癒しを

 聖癒の理(ルミナ・イアリス)!!」


淡い水の光が傷口を包み込む。

血が止まり、裂けた肉が再生していく。

雷の痣が消え、蒼白だった顔に朱が戻る。


「……っ!」


ロイの瞳に、力が戻った。


「…フィオルお前が助けてくれたのか……?」


僕は涙をこらえきれずに、強く頷いた。


「うん……! やっと……

 やっと、ロイを癒せた!」


ロイは弱々しく、でも確かに笑った。


「……ありがとう……

 本当に……ありがとう……」


その瞬間、ロイの姿が水の粒となって散っていった。

でも、今度は悲しみじゃなかった。


「ありがとうは、

 こっちのセリフだよ...。ロイ。」

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