41話 「雨の古都へ、再びの旅立ち」
翌日。
僕たちは旅立ちの準備のため城下を歩いていた。
【イリシア攻防戦】はロイからの情報によってできる限りの予防線を引けた。
市民は前もって避難できたため、人命に関わる被害はゼロだった。
街中には、まだ昨夜の戦の名残が漂っている。
瓦礫を片付ける人々の声、修繕の木槌の音、そして時折混じる笑い声生き延びた安堵が、町全体にゆっくり染み込んでいた。
ラピスはその空気をまるごと吸い込むみたいに、露店のパンや果物を覗き込む。
「わぁ……イリシアの食べ物やっぱ美味しそうだなー。ほら、フィオル、見てよ。このパン懐かしいね!」
両腕の中でスラチャビを抱えたまま、屈託なく笑う。
昨日までの緊張が少しだけほどけて見えて、胸が温かくなる。
この笑顔を守ることが出来て本当によかったと思った。
セレナはそんな背中を見守りつつ、手は止めない。
矢筒の補充、短剣の刃こぼれ確認、道具袋の整理すべてが静かに、確実に行われた。
「……備えは十分。問題ありません」
カリナは武器屋の前で立ち止まり、腕を組んで僕らを見回した。
「よし、食料は確保。
回復薬も買った。準備万端だな。」
声音はいつもより落ち着いていて【白律の聖団】としての新たな決意を胸に秘めているようだった。
城門の前で、僕は深呼吸をひとつ。
胸の奥に、次の地名が静かに響く。
改めて次の目的地は【雨の古都セイリス】。
(ヴァルディア側の動きにも警戒しないと……)
仲間が揃うと、カリナが軽く拳を突き出した。
「さぁ、行くぞ、みんな」
ラピスはパンを半分に割ってスラチャビと一緒に頬張りながら、にこにこと輪に加わる。
「ぷるっ」と弾む音が頼もしい。
城門を抜けてカリナは【転移の石】を手に取り仲間に声をかける。
「よし……行くぞ。
目標は最後に立ち寄った宿屋だ。
そこから徒歩で【セイリス】を目指すぞ」
カリナの声に頷き、光へ身を委ねる。
瞬間、風が逆巻いた。
足元の石畳がほどけ、視界が白く反転する。
ラピスは「わぁ!」と小さく声を上げ
スラチャビを抱きしめて目をぎゅっとつむる。
胸の奥がふっと浮くような感覚に僕は呼吸を整え、セレナは装備を庇うように腕を組んだまま、わずかに眉を寄せている。
次の瞬間。
光が晴れ、僕らは川沿いの木造の宿屋の前に立っていた。
ロイとイザリアと邂逅した、あの場所だ。
「……あっというまだね」
思わず口に出る。
「……しかし、【転移の石】ってほんとに便利だな」
カリナが腰に手を当て、軽く感嘆する。
隣でセレナは手をついて深く息を吐いた。
「……やはり、
どうにも慣れません……ぐ……」
顔色が少し青い。
船酔いに似た揺れが、まだ抜けないらしい。
対照的にラピスはスラチャビを抱きかかえ、くるりと楽しそうに回った。
「すごいね!
一瞬で景色が変わっちゃうんだもん!」
「ぷるるっ!」
誇らしげな相槌。
そんな様子を眺めながら、ふと僕は首をかしげる。
「……これってさ、
屋内で使ったらどうなるんだろう?」
カリナがニヤリと笑う。
「当然、天井に頭をぶつけるな」
肩をすくめて、少しだけ真面目な声で続けた。
「……ま、最近は屋内でもダンジョンでも安全に転移できるようになったって話も聞く。便利な世の中になったもんだとな。」
半分冗談、半分本気。僕はつい吹き出した。
「……あはは。そういうものなんだね」
「時代の変化とはそういうもんだろ」
カリナはまるで自分が体験してきたかの様に軽く笑って扉を押し開ける。
「よしっ。行くか!おそらくセイリスに近づくにつれ雨が強くなる。フードは被れるようにしておけよ。」
旅は続く。
仲間と交わすこの短い安らぎが
次の一歩をきっと強くしてくれる。
(待ってて【アルセリア】の足跡。僕らは、また進んでいくよ)




