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3話 邂逅と理の真実

黒い異形(アビスモーフ)が霧散し、森に静寂が戻った。光の帳はやがて薄れ、漂う金の残滓だけが揺らめいている。助け出した二人は荒い息をつきながら膝をついた。


「……はぁ、はぁ……助かった……ありがとう……」


青銀の髪の少年が小さく頭を下げる。なんとその背からは、淡く透き通る光の羽がのぞいていた。震える羽は怯えを映し、光を反射して揺れる様は幻想的で、思わず息を呑んでしまう。


「羽?お前、人間じゃないのか?ん?それに、その長い耳…。まさかエルフか?」


カリナが剣を肩に担いだまま、冷静に目を細める。


「えっと…ぼ、ぼくの名前はラピス。そして…こっちはセレナ」


エルフの少年が震える声で名を告げると背後の青年も一歩前に出た。


ラピスは、不思議なくらい透きとおっている不思議な存在だった。淡い青と銀が混ざった髪は光を受けるたびに煌めいて、まるで空の欠片をそのまま身につけているみたい。


背中から伸びる羽は、光を編んだように透きとおり動くたびに柔らかくきらめいた。


息を呑んでしまうくらいに美しいと思った。

僕の目には神聖な守りの象徴にしか見えなかった。


服装は飾り気のない緑と白のチュニックに、素朴なブーツ。けれど、どんな豪華な装飾よりも彼の羽と瞳がすべてを引き立てている。澄んだ青い瞳で見つめられると不安も迷いも、すっと消えていく気がする。



「……セレナと申します。命を救っていただき、感謝いたします」


低い声と礼儀正しい仕草。長く尖った耳が月明かりに浮かび上がる。セレナは、背筋をぴんと伸ばし長い銀の髪を後ろで束ねた姿は風に揺れるたびに冷ややかな、美しさを見せて隙のない雰囲気をまとっている。



深い緑の衣装に、森と同化するようなマント。装飾はほとんどなく実用だけを突き詰めた装いなのにどこか高貴さを漂わせていた。

鋭い耳と鋭い眼差しが合わさるとまるで一瞬で獲物を射抜かれるような緊張感が走る。



【エルフ】という伝承や神話でしか聞いたことのない存在が今、目の前に立っている。僕は、目を点にしながら二人を無意識に観察していた。


「エルフ……?まさか本当に……存在してたなんて」

そして気づけば、僕は声に出していた。胸の奥で熱が弾ける。





セレナは森を覆う黒霧へ視線を向け、静かに問いかけた。


「先ほどから気になっていましたが……この禍々しい霧は、一体?」


「え……?」


僕は言葉を失った。それは僕らにとって誰もが怯え、誰もが憎む。誰もが知っているこの世の厄災。知らない者がいるなど考えたこともなかった。


「お前、黒い霧(アビスマター)を知らないのか」


カリナが低く呟くとラピスは怯えた瞳を伏せ、小さな羽を縮めて答えた。


黒い霧(アビスマター)……?ぼくたちのいた場所にはそんなの、なかったよ」


セレナも真剣に頷く。


「わたしたちは、森の泉にいたはずなのです。それが気づけば突然光に包まれてこの森にいました。その黒い霧(アビスマター)というものがわたしたちを呼び寄せたのでしょうか」


カリナが霧を睨み、剣の柄を強く握る。


「この黒い霧(アビスマター)は濁った理力……とでも言っておくか。歪み(アビスリフト)という亀裂から溢れ出し、動物も人も異形に変える」


「……理力は、本来この世界を満たす力だよ。風を動かし、水を流し、火を灯して……命を巡らせる。僕みたいな魔導士は理力を借りて魔法を紡ぐし、カリナみたいな剣士は刃に理力を宿す。それがなければ、僕たち人間は生きることすら難しい」


僕がカリナの説明に付け足しをするとセレナは眉をひそめ、静かに観察する。


「つまり生活の糧となる力が濁ってしまうと…世界を狂わせているのですね」


ラピスは小さく羽を震わせて呟く。

「ぼくたちの場所には、ただ風や水があるだけで…力なんて宿ってなかった気がしたけどなあ...」


偶然じゃないと思った。この世界の異変と、彼らの来訪は繋がっている気がした。なぜかはわからない。胸の奥でそう感じていた。


「さて……」

カリナは剣を収め、深く息を吐いた。


「理力を知らないってことは…別の世界から来たってのは本当らしいな。しかし、どうしたものか。」


「カリナ……まさか、置いていくなんて……しないよね?」


思わず、不安が口をついて出た。カリナは短く笑い、二人を見据える。


「まさか。置いていったら霧に呑まれるだけだ。それに黒い霧(アビスマター)歪み(アビスリフト)と関わりがあるかもしれないならば放ってはおけない」


「じゃあ…ぼくたちを連れて行ってくれるの?」

ラピスが小さな声で問いかける。


セレナはその肩に手を置き、静かに告げた。

「邪魔にはならぬよう努めます。どうか、ご一緒させてください」


「……ああ。わかってる」

カリナは頷き、腰に手を当てる。


「よし、わたしたちの国、王都イリシアまで同行しろ。ただし無茶はするな」


セレナは背から長弓を取り出し、静かに構えた。

「わたしは弓を扱えます。理力は扱えませんが、この矢は必ず標的を射抜きましょう」


ラピスは羽を震わせながらも、必死に続けた。

「……ぼくは、ごめん。なにもできないと思う。でも……」


その声は弱くても、捨てられまいとする意志が滲んでいた。


「ふむ……」

カリナは頷き、二人を見比べる。


「セレナは後方から援護。ラピスは仕方ないな。あたしとフィオルのそばを絶対に離れるなよ。フィオル。ラピスに結界を張って守ってやれ」


四人は再び歩き出した。進むごとに霧は濃くなり、木々はねじれ花は異様な色を帯びる。


「…【大歪み】が近い」

僕は息を呑む。霧のざわめきが心臓を叩くように響き、一行は緊張の中、歩みを進めていった。


『3話 邂逅と理の真実』を

最後まで読んでいただきありがとうございました。


今回のみどころは


新キャラであるエルフの少年・ラピスと

エルフの青年セレナが登場しました。


この世界の原動力である理力や

厄災である歪み(アビスリフト)

黒い(アビスマター)を知らない異界の存在。


なぜ彼らはこの世界に現れたのか。

なぜフィオルと邂逅したのか。


これはこれから続く物語の

鍵になっていきます。


今回のエピソードは運命の始まりです。


次回『4話 二人のエルフ』は

15:00に投稿いたします。


お楽しみに!

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