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34話 「蒼天の塔、最後の砦」

翌朝。

朝靄の中でカリナが僕らを集め、短く告げた。


「……予定を変える。セイリスへは向かわずにまずはイリシアに戻る」


言葉の端に、重い影。

けれどラピスには真意を伏せたまま。


「えっ、ほんと?」

ラピスがぱっと顔を上げる。


「イリシアのお菓子、

 また食べられるかな?あの甘いパンも!」


スラチャビを抱きしめて、無邪気に笑った。

その笑顔に、僕とカリナとセレナは思わず目を合わせ、すぐ逸らした。


胸の奥で小さく息がもれる。

侵攻のことは、今は言えない。


「少し値は張るが、旅には欠かせないからな。ここで買っておくとしよう。」


出立前、宿場の道具屋で転移の石(トランシティア)を買った。

この石に行ったことのある場所を強く念じると理力の道を駆け、その場所へと至る旅人の品だという。

いわゆる『ファストトラベル』機能を僕たちはここで初めて手に入れた。


「じゃあ、行くぞ。

 イリシアの情景を思い浮かべるんだ」


カリナが転移の石(トランシティア)を掲げた瞬間、光が僕ら四人と一匹を包む。


地面が消え、身体が宙に浮く。

風が内側から抜け落ち、景色が渦を巻いた。


「うわ……! これ、すごい!」


視界が伸び縮みし、時間が捻れる感覚に思わず声が漏れる。

セレナは口元を押さえ、薄く汗。


「……これは、あまり……

 好みではありませんね……」


光の奔流の果てに、懐かしい城壁イリシアが姿を現した。





城門をくぐり、蒼天の塔へ。


白銀の尖塔が天を突く。

威光の前で、胸が懐かしさと緊張で高鳴る。

ラピスは街並みに目を輝かせ、セレナは険しい眼差しで周囲を掃いた。


大理石に赤絨毯。奥には王。

僕らは深く頭を垂れ、謁見が始まる。


「特別班よ。よく戻ったな。

 ……道中、何を見、何を得てきた」


王の低い声。

カリナが一歩進み、真っ直ぐに告げた。


「その前に……。陛下。

 単刀直入に申し上げます。

 ヴァルディアが動いています。」


「三日後、イリシアへ侵攻してきます。

 目的は……ラピスです」


玉座の間がざわめきに包まれる。

老臣たちが顔を見交わし、杖が床を打つ。

ラピスは信じられないという顔で固まった。


「ぼ、ぼく……? な、なんで……」


セレナがすぐ横に寄り添う。

カリナは続けた。


「旅の途上、ラピスは暴走覚醒(トランス)を起こしました。

 感情の暴走を契機に、一時的に秘めた力を解放する現象です。」


「そして【聖樹精霊】の血を持つラピスの暴走覚醒(トランス)は理力そのものを吸収する能力を秘めている。それが狙いのようです」


老臣が声を荒らげる。


「な、なんと……!しかし、そんな情報どうして知り得たのだ!?」


「ヴァルディアの黒騎士ロイの口から、直接」


カリナは退かない。

再びざわめき。


「だが……真実である保証はない。

 罠かもしれぬ」


別の老臣の目が細くなる。


「その可能性は低いと考えます。ロイは敵将でありながら、幼馴染であるフィオルに本来知られたくないことまで吐いた。」


「それはヴァルディアにとって裏切りや陽動で済む話じゃない」


カリナの言葉に、王は黙して目を閉じた。


「お主が言うのなら……間違いないのだろう」


ラピスがスラチャビを強く抱いて、小さく呟く。

「ぼくの暴走覚醒(トランス)にそんな力が...?」


セレナはその肩を抱き、強い眼差しで王を見上げた。


「大丈夫です。ラピス様。

 わたし達が必ず守り抜きます」


張り詰めた空気。

侵攻の影は近い。


老臣のひとりが深く息を吐いた。


「しかし…先の【大歪み戦線】の影響で

 戦闘員の編成は困難。」


「動員は限られ、防衛も手薄にはできませぬ。これはイリシアもヴァルディアも同じこと。

 戦力は双方削がれているはずです」


敵も全力ではない。

わずかな希望の糸。

けれど、カリナは首を横に振る。


「…それでも。ヴァルディアには王の側近である黒律の五騎士ヴァルディア・オーダーがいます。」


「『火・水・雷・氷・風』を象徴する五人。

特に【黒律の焔姫(こくりつ イグニシア)】イザリア。そして【黒律の天将(こくりつ フルガリス)】を名乗るのがおそらくロイ。」


「二人の実力は底知れない。

 ロイの雷と剣技は正直……格が違う。

 正面からでは数でどうにもならない。

 対策がなければ王都は持ちません」


王はふたたび沈黙する。

問題は数ではなく、質。

ステンドグラスの光が床に落とす影が、不吉に見えた。


カリナが一歩進む。


「そしてラピスの保護が最優先。

 確実に守り切る方法を選ぶべきです。

 ラピスを奪われた時点で、この防衛戦は負けです」


言葉は重く、場をさらに沈める。

ラピスが息を呑み、セレナは無意識にその肩へ寄った。

僕は拳を握り、一歩前に出た。


「……僕の聖なる光域(ルミナ・サンクトゥム)を使いましょう」


視線が集まる。

王も、老臣も、カリナも。

緊張をごくりと飲み下し、真っ直ぐに続けた。


「この結界は仲間を護るための魔法です。

 展開すればそう簡単には突破されません」


ラピスの瞳が揺れる。

その横顔を見て、僕は言い切った。


「例え破られることがあったとしても…何度だって張ります。ラピスを護るためなら、命だって惜しまない」


カリナの口元がわずかに上がる。


「…いい覚悟だ。だが、無理はさせられない」


老臣が眉をひそめ、うなずく。


「確かに。伝承に伝わる聖域ならば【聖樹精霊】の血を守る砦となりましょうな」


方針が形をもち始めた気配。

王がわずかに身を乗り出し、静かに問う。


「だがフィオルよ。強力な結界ゆえ、理力の消耗も莫大であろう。幾度も張れば、その身が先に果てるのでは?」


喉がからんだ。それでも逸らさず答える。


「……それでも、やります。

 僕にしかできないことだから」


「それに理力の蓄えには自信があります」


老臣が地図を広げ、指で一点を示す。


「……防衛の拠点は

 ここ蒼天の塔がよろしいかと」


王は頷いた。


「蒼天の塔は古の象徴にして要塞。

 頂上は結界陣のために造られた聖域跡……

 そこを核とせよ」


胸に息が満ちる。


「じゃあ……僕の聖なる光域(ルミナ・サンクトゥム)を塔の頂で発動すれば……」


「そうだ」

カリナが応える。


「兵は外周。あたしたちは

 聖域回りを死守して結界を維持させる。」


セレナが真剣な眼差しで地図を見つめる。


「高さを活かし、

 わたしの氷の矢で上空から侵入を射抜きます。

 鍛錬の成果を見せる時ですね」


ラピスは小さく拳を握る。


「回復ならぼくに任せてね。

 傷ついたらすぐに手当する」

「ぷるるっ!」


王が立ち上がり、厳然と宣した。


「蒼天の塔こそ命運を賭ける砦。エルフを守り、王都を守り切り、ヴァルディアの野望を断ち切るのだ」


胸の奥に、灯が強くなる。


「御意……僕たちの力で……必ず」

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